第11話 学校での時間
「ははは、まぁ珍しいこともあるもんだな」
「笑い事じゃないよ。はぁ、何だか疲れた・・・」
朝のミーティングが終わり、1時間目の休み時間中に刹那は学校に着いた。慌てて走ったため、刹那の額に汗が滲んでいる。
刹那は朝のあの事件を博人に話してみたところ、・・・やはり笑われた。わかっていた、こんなこと、笑い話にしかならないということは、もうわかっていたさ。
そういえば、昨日デートに遅刻したとか何とか言っていた気がする。どうなったのだろうか?
「そういえばさ、昨日のデートで恵利怒ってなかったか?」
「あぁ、遅刻のことか」
ぽりぽり、と頭を掻くと、照れながら博人は言った。
「いや〜、あのさ。行ったときに怒られるかな? って思ったんだけどよ、遅れたこと心配してくれてな。事故に遭ったかと思ってとても心配でした、って言われたよ。何だかもう可愛くてな、ははは」
「・・・お前物凄く幸せそうだな」
おうよ!! と言って、博人は親指を立ててにこっと笑った。・・・男の俺でも、こいつの笑顔は爽やかだなって思う。女子からもてるのも、わかる気がする。
「そろそろ授業始まるぞ。チャイム鳴ってから席立ってると、田口の野郎うるせぇぞ?」
「あぁ、わかった。じゃあな」
そう言って刹那は自分の席に着き、先生が来るまでの間教科書に目を通していた。
午前の授業も終わり、昼休みに入った。
刹那は、昼食を4人で食べる。もちろん、その中には博人も入っている。残りの2人は誰か? ということになるのだが、それはもう少し後でわかる。
「刹那、行こうぜ。中庭であいつらが待ってる」
「あぁ、わかった。今行くよ」
博人の声につられ、そのまま2人は教室を出て中庭に向かった。
中庭は弁当を食べるには持ってこいの場所だった。食堂並みに広いし、何よりも外の空気がおいしい。ぽかぽかと日光も暖かい。雨が降った日や冬場には使えないということさえ除けば最高の食事場だった。
そこに、2人は待っていた。
「あ、博人君、刹那君、こっちです」
「遅いよ2人とも〜」
1人は博人の彼女、「今野 恵利」。いかにも大人しそうな雰囲気でメガネをかけている。長い髪の毛はつやがあり、丹念に織られた絹のようだった。
もう1人は恵利の姉である「今野 理恵」。ソフトボール部のエースピッチャーで4番という素晴らしい実力を持っている。外で運動しているため少し日焼けしており、健康そうな肌の色と短めの髪の毛が抜群に合っている。
最初のほうは博人と恵利が2人きりで食べていたのだが、大勢で食べるほうが楽しい、という恵利の案で刹那と理恵も一緒に食べることになったのだった。・・・そのとき、博人の顔が引きつったということは誰も知らない。
恵利は刹那たちと同学年であるが、理恵は違う。1つ年上の3年生だ。上級生の理恵が、なぜ下級生と一緒に弁当を食べているのかというと・・・。
(ほら、姉さん。頑張って)
(で、でも・・・恥ずかしいよぉ・・・)
(大丈夫だってば、ファイト!)
さっさ、と短めの髪を整え、少しだけ震える声で理恵は言った。
「は、早く座んなさいよ!」
ぴっと自分の隣に指を指し、刹那に自分の隣に来るように誘った。
・・・そう、理恵は刹那のことが好きなのである。好きになった理由は、わからない。妹の彼氏の親友、ということで一目置いていただけなのだが、いつの間にか一緒にいると胸がどきどきして、顔が赤くなっている。・・・これを惚れたと言わずなんと言えばいいのだろうか?
刹那は理恵の隣に座ると、手にしていた弁当の包みを広げた。言うまでもなく、玲菜の作ってくれたものだ。
弁当箱は家にあったものを使っているのだろう、アルミ製の四角い弁当箱だった。パコッと、蓋を開けて中を見てみる。
「おぉ・・・」
弁当の中はご飯とおかずが半分ずつ分かれていた。ご飯のほうは何の飾り気もなかったが、おかずのほうの種類は多かった。パッと見、5種類はある。サラダに煮物、昨日のコロッケの余りに玉子焼き、さらには鳥肉の照り焼きまであった。・・・弁当でもこんなにおかずが多いやつはそうそうない。さすがは玲菜、と言ったところだ。
「お、刹那。珍しいな、お前が弁当なんて。いとこの女の子が作ってくれたのか?」
「いとこの女の子? 刹那君、どういうことですか?」
「な、何々?! 誰が刹那に弁当を作ったのよ?!」
・・・あぁ、弁当1つで大きな騒ぎ。こいつら俺を何だと思ってるんだ・・・。まるで生活力のないだらしない男みたいじゃないか。
「まぁ、そうだよ。玲菜が作ってくれたんだ」
刹那は今家で一緒に住んでいる玲菜と里奈のことを話した。・・・当然本当のことは話さない。あくまで、いとこ2人の親が急に海外へ出張に出かけ、その間一緒に住む、という設定だ。間違っても、自分を狙う殺し屋と同棲しているなどと言えるわけがない。
言い終わると、理恵がむっとした表情をして刹那に尋ねた。
「ちょっと刹那・・・。そのいとこって、可愛いの?」
「え? ど、どうしてですか理恵さん?」
「いいから答えなさい!! これは先輩命令よ!!」
「・・・刹那君、どうなんですか?」
「あぁ、妹さんのほうは可愛かったな。メガネが似合いそうなとっても可愛い娘だった。・・・で? お姉さんのほうはどうなんだ? ん?」
・・・あぁ、家に同棲している女2人で大きな騒ぎ。こいつら玲菜と里奈さんを何だと思ってるんだ・・・。まぁ、いいか。教えるくらい。
「玲菜のほうは博人の言うとおり可愛い。でも、お姉さんの里奈さんは可愛いと言うより美人、って感じだ。里奈さんは極度のシスコンで、いっつも玲菜は逃げ回ってる、ってのが今の家の状況だ。2人とも似てるんだけど、性格が全然違う」
一応一通りのことは喋ったが、3人とも何だか頭の中でうまくまとめられていないようだった。・・・まぁ、そんなにぎやかな光景などそう簡単に想像できるものではないだろう。
少しの間のあと、博人がポンッと両手を叩き、言った。
「そんなら今日見に行くか! 玲菜ちゃんの家具を運ぶってのもあったしな」
「そうですね。私もとっても気になります」
「アタシも、今日は部活休みだから行けるよ」
・・・何だか勝手に話がまとまってきているようだった。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ! え〜と、ほら、なんて言うかさ、俺今日忙しいしさ!!」
「お前、2時間目の休み時間のとき今日も家帰ったら暇だな〜、とか言ってたじゃないか」
ぐは・・・。そう言えばそんなことを言ったような気がする。くっそ〜・・・あのときあんなこと言わなきゃよかったぁ〜・・・。
他に! 他に何か理由がないか!! ・・・そうだ!!
「きょ、今日はちょっと用事があってさ、無理なんだ」
「用事って・・・何の用事ですか? 刹那君」
しまった・・・。切り返されるとは思わなかった。何か考えろ。考えるんだ!! ここで何か言わないと絶対押しかけられるぞ!! え〜っと、え〜っと・・・。
しばらくうんうん唸って考えている刹那の姿を見て、3人は確信したようだった。あぁ、こいつは今必死に誤魔化そうとしてるんだなぁ、と。
それと同時に、ものすごく刹那と同棲している人がどんな人なのか気になってきた。刹那がここまで拒み続けるのだ、よほど見せたくないのだろう。だが! 見せなくない、と言うものほど見たくなるというものが人間の心というやつだ。
にやりと3人が笑って、一生懸命言い訳を考えている刹那に言った。
「それじゃ家具届けるついでに行くからな」
「とても楽しみです。どんな方なんでしょうね」
「・・・気になるわ。とっても気になるわ・・・」
・・・結局刹那の考えていることは無駄になり、3人は家に押しかけてくるらしい。
刹那は顔を片手で覆いながらあちゃ〜とため息をついたのだった。
やっと新キャラ登場です。理恵と恵利・・・ややこしいですが、覚えてくれるとありがたいです。
これからも「殺し屋」よろしくお願いします!!