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第109話 隠された真実

「・・・ないです」






「・・・は?」


「玲菜を好きになった理由は、ありません。ただ、好きなんです。それだけです」


驚いた顔で、里奈は刹那を見た。・・・里奈が期待していた言葉とは違っていたのは明白だった。


「・・・あんた、ふざけてるの? そんな理由で、あたしたちの玲菜を取ってこうとしたの?」


「大真面目です。これが俺の答えです」


「・・・根拠を言ってもらおうかしら。理由がなくても好きだと思える根拠を」


「・・・最初に断っておきますけど、俺は見た目や性格で玲菜に好きになったわけじゃないです。自然に、惹かれたんです。


 うまく言えないけど・・・その、玲菜そのものが好きだっていうか、いいところも悪いところも全部好きだっていうか・・・。


 理由とか、どこが好きだとか、そういうんじゃないんです、俺は。ただ好きなんです。玲菜の全てが、好きなんです」


・・・言うことは、全て言った。

『理由がない』のが、理由。・・・滑稽だ。理由になってない。

でも・・・それが刹那の気持ちだ。ただ、好き。それだけだ。


「・・・そっか」


先ほどの攻撃的な顔で見てきた里奈は、刹那の言葉を聞いて穏やか表情へと変わっていった。全て理解できた。そんな感じ。


「あんたがそう思ったのは、本当に玲菜のことが好きだからね。理由もなく、どういうところが好きだとか、そんなんじゃなくて、ただその子が好き。理由なんてない。

たぶん、それが本当に好きっていうことかもしれないわね」


言い終わって、里奈は微笑んだ。・・・綺麗だった。まるで、子の成長に気がついた母親のような、そんな母性が秘められた美しい表情だった。


「うん、納得した。全部好きだって言われたらOKしないわけにはいかないしね」


「あ、ありがとうございます!」


「お姉ちゃん、ありがとう!」


刹那と玲菜、2人とも手を取り合って喜ぶ。・・・認められる。それだけのことが、これほど嬉しいとは思わなかった。自然と笑顔になってしまう。


「だからこそ・・・あんた達に伝えるわ」


里奈は自分のバッグから黒い物体を取り出した。

見覚えのある形のものだった。・・・これは、


「あ、私の銃・・・」


「そう、玲菜の銃。仕事のときはいつもこれ使ってたわね。力が弱いから、武器に頼るしかなかった。これしかターゲットを殺す手段はなかったもんね」


そう言うと、里奈はすっと自分の頭に銃口を当てた。笑いながら、いつも通り冗談を言うかのように。


「り、里奈さん! 何やってるんですか!!」


「お姉ちゃん!! 何で?! 意味がわからないよ!!」


「慌てない慌てない。大丈夫だから」


大丈夫だ? そんなことあるわけがない。

いくら超人的な肉体を持つ里奈とはいえ、頭を鉛球でぶち抜かれたら絶対に死ぬ。生き物は脳を壊されたら死ぬのだ。大丈夫だなんてありえない。絶対に。


いや、それよりもだ。今そんなことをする意味がわからない。なぜ今自分に向けて銃を向ける必要性があるのだ?




どうして?




何のために? 




・・・今起きていることがあまりにも突然すぎて混乱してしまっている。考えがまとまらない。あとからあとから疑問が出てきて、それが全部バラバラで、さっぱり繋がらない。


しかし、これだけはわかる。里奈は、自分を撃とうとしている。理由はわからない。だが、自分の頭に銃口を向けているということはそれしかありえない。


「いい? 2人ともよく見ておきなさい」


「里奈さん!!」


「お姉ちゃん!!」


止める間もなく、里奈は引き金を引いた。








パァン!








・・・簡素な音だった。

テレビのドラマでやっている刑事とかが撃っている銃の音より、全然たいしたことなかった。


でも、それでも音は音だ。銃の、里奈が引き金を引いたということを証明する音だ。


銃口は間違いなく里奈の頭部に向けられてる。弾丸が撃ち込まれたのならば、まず助からない位置。確実に死に至らしめる部位。


恐る恐る、里奈の顔を見てみる。







「ふぅ〜・・・。やっぱり、怖いわね。冷や汗出ちゃった」







里奈は先ほどと同様、笑いながらそう言った。・・・生きていた。頭を撃ったはずなのに、里奈は死んでいなかった。


「・・・・・」


すとんと、刹那はその場にへたり込んでしまった。腰が抜けたのだ。極度の緊張感のあとの安心感。足に力なんて入るわけがなかった。


「お姉ちゃん・・・なん、で?」


震える声で、玲奈が尋ねる。

頭を撃ったはずなのに、里奈は死んでいない。音は確かにしたのに、銃口も間違いなく命中する方向なのに、それなのに生きている。玲奈が訊きたくなるのも、わかる。

里奈は笑顔のまま、それでも真剣な口調で答えた。


「玲奈、よく聞きなさい。あなたの銃は、空砲なの」


「空、砲?」


「そう。弾なんて最初から入ってないの。あなたがいつもターゲットに向けて撃っていたこの銃からは、弾丸が出ない。・・・言いたいことがわかる?」


皆まで言わずともわかる。

でも、里奈はあえてその答えを口にした。


「あなたは、誰1人として人間を殺してないの」


それは今までの玲奈への認識と、玲奈のやってきたことを覆す、爆弾のような答えだった。


玲奈は殺し屋としての仕事をしているときはいつもこの銃を使っていた。他の殺し方は確実性がないため、銃でしかターゲットを殺していなかった。

でも銃の中は空。弾丸は出ていない。弾丸が出なければ、銃もただのおもちゃでしかない。


「で、でも!! 私が撃ったらターゲットは・・・・!」


「いつもあなたのサポート役と後始末はあたしだったでしょ? あなたが引き金を引くのに合わせて狙撃してたの。ず〜っとね」


・・・里奈は、全部背負ってきたのだ。


玲奈が背負うはずだった十字架を、玲奈が知らないうちに全部奪っていた。

人の命は重い。それをたくさん奪ったとなれば、その重さのあまりにつぶれてしまう。苦しみ、後悔、恐怖。それらは狂ってしまうくらい重いものだからだ。


里奈は、玲奈がそれを背負うことに耐えられなかったのだろう。たった1人の妹が汚れていくのを黙ってみていることなんてできなかったのだろう。


だから玲奈の分まで背負った。里奈自身だってつらいはずなのに、つぶれてしまうくらい苦しかったのに、背負い続けたのだ。他でもない、大切な玲奈のために。


「・・・騙してたんだね、お姉ちゃん」


「そう。あたしはあなたを騙してた」


「私がターゲットを殺したっていうのは、全部嘘だったんだね」


「そう。全部嘘。あなたは誰1人、殺してない」


「そっか・・・。全部、嘘だったんだね。あはは・・・」


自身を抱きしめるようにして、玲奈は笑った。

いつもの明るい声ではなく、どこか寂しげで、悲しい声で。


「あはは・・・馬鹿みたい。今までずっと、お父さんを助けてきたと思ったのに。みんなの役に立ってきたと思ったのに。全部私の勘違いだったんだね」


「・・・・・」


「勝手にやって、勝手に役に立ったと思って、結局迷惑かけて・・・・・馬鹿だ。私、本当に馬鹿だ・・・・ははは」


「・・・・・」


「あはは・・・・あは、は・・・ひっく・・・ぐす・・・・」


「・・・玲奈」


里奈は一言だけそう呟いて近寄り、玲奈の細い体を優しく抱きしめた。

・・・人をたくさん殺し続けてきたことに、ずっと苛まされてきたのだ。この細くて小さな体で一生懸命役に立とうと、必死に十字架を背負ってきたのだ。


でも、もうその必要はない。偽物の十字架など、背負う必要などないのだ。今まで自分を苦しませてきた罪悪感は、自分で作り出した妄想。そう、悪夢だったのだ。


その悪夢が、たった今覚めた。里奈が覚ましてくれた。死ぬまで残り続けるはずだった罪悪感など、玲奈にはないのだということを教えてくれた。


「・・・・お姉、ちゃん・・・うぅ、ぐす・・・」


「・・ごめんなさい、ずっと騙してて。どうしても、玲奈には汚れてほしくなかったから、ずっと嘘ついてた。・・・ごめん。苦しむことなんてなかった玲奈を、ずっと苦しめちゃった」


「違う・・・・っく、違うよぉ・・・」


泣きながら、玲奈は言った。


「ずっと・・・思ってたの。やらなきゃ、ひっく、よかったって・・・。殺し屋、なんかに、っ、なるんじゃなかった、って・・・」


「・・・うん」


「でも・・・役に、立たなきゃって・・思、って。っく、一生懸命、頑張って・・・迷惑かけ、ちゃ、駄目だって、思っ、て」


「・・・うん」


「でもね・・・今ね・・・嬉しい、の・・・ぐす。私、人殺して、なかったって・・・聞いて、すごく・・・嬉しかった、の・・・・」


「・・・うん」


「ありがとう・・・お姉・・・ちゃん・・・」


ぎゅっと、強く抱く。

その姿は何も心配はいらないと言っているかのようだった。






苦しむことはない。





あなたは幸せになりなさい、と。


次で一応一区切りです。

これからも「殺し屋」よろしくお願いします!

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