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第107話 一緒に・・・

肝心の玲菜は沈黙したままだった。表情は・・・もう色んな感情が混ざりすぎていてわからなかった。


どんなことを思って、何を考えているのかが、刹那には読み取れもしなかったし、予想もできなかった。


「うそ・・・だよそんなこと。刹那が私のこと、好きになるはずがない」


「どうしてそう言いきれるんだ?」


「だって、私は殺し屋だよ? 人殺してるんだよ? そんな人を、刹那が好きになるわけないじゃない」


無言だった玲菜が、だんだん饒舌になってきた。必死になって否定している分、よほど思い込みが強いに違いない。


「そんなことなんて問題じゃない。玲菜が好きだって気持ちは、そんなことじゃ変わりはしない」


「刹那は・・・本当は嫌なはずだよ! 一緒になんて居たくないはずだよ! だって・・・怖いでしょ?! いつ殺されるかわからないって思ってるでしょ?!」


玲菜が声を張り上げる。・・・たぶん、昨日怒鳴ったときと同じ状況。ここで退いてはいけない。


退けば言い負かされる。・・・気持ちをぶつけるんだ。このままだと、誤解は解けない。ムキになっている今の玲菜の誤解を解くには、言い負かすしかない。


「じゃあ聞くけど、玲菜は俺を殺すのか?」


「・・・え?」


「玲菜は俺を殺すのか? ずっと一緒に居て、ちょっとでも俺が玲菜を怒らせるようなことをすれば、玲菜は俺を殺すのか?」


「しない! そんなことしない!」


刹那の言ったことが理解できたのか、玲菜は必死にそのことを否定した。・・・目に、少し涙が浮かんでいた。


「だったら怖くないよ。玲菜は俺にとって無害じゃないか。どうしてそんなに俺を拒むんだ? 俺が嫌いなのか? そうだったらそうだってはっきり―――」


「そうじゃないっ! そうじゃないの!」


首を振り、大声で刹那の言葉を否定する。

明らかな混乱状態だった。今の刹那には、玲菜が何に混乱しているのかがはっきりとわかる。

―――玲菜自身の気持ちと、俺の気持ちだ。


「私だってっ! 私だってっ―――!!


そこから先が出てこない。玲菜はそこで何度も「私だって」を繰り返して、その次の言葉を言ってくれない。


膠着、といった言葉が頭に浮かんだ。ここで追い討ちをかけるように言葉を投げかけたとしても、今の玲菜がまともな対応をしてくれるとは思えない。・・・刹那が先へ進めたくとも、玲菜が「先の言葉」を言ってくれないとこの状況は動かないのだ。


待つしかなかった。例え刹那が、自分の気持ちに苦しんでいる玲菜の姿を見たくなくとも、待たなければならない。玲菜が自分の気持ちを言葉にしてくれなければ、刹那はどうしようもないのだから。


目に溜めていた涙があふれていた。玲菜は隠すことなくそれを流し、自分の服の裾をぎゅっと力強く握っていた。


そして刹那を見る。・・・自分の気持ちに気がついたのだ。不安でどうしようもなかったさっきの目とは違った目をしていた。これは、覚悟を決めた目だ。気持ちを言葉にして、伝える覚悟だ。


刹那の目を見たまま、玲菜は半ば叫ぶようにして言った。







「私だって・・・私だって刹那のこと好きだよ! 大好きだよ! 一緒に居たいよ! ずっとずっと刹那のとなりに居たいよ!

でも・・・でも私は殺し屋なの! 一緒に居ちゃいけないの! 裏で暗躍している私と、普通に生活してる刹那とじゃ一緒にはなれ―――」







・・・もういい、玲菜。




そこから先は、もう言わなくていい。




刹那は玲菜の言葉を遮るようにして、




玲菜の体を抱きしめた。




「っ!?」


「それ以上はもう・・・言わなくていいよ、玲菜」


「・・・え?」


・・・その通りだ。

確かに玲菜が言うように、刹那と玲菜では住む世界が違う。刹那は何も知らない平和な世界に、玲菜は人を殺している裏の世界にお互い住んでいる。


本来2人は接触してはいけないし、こういった恋慕の感情を持つこと自体あってはならないことだ。


でも、問題はそんなことじゃない。そんなのはあくまで常識的に考えた暗黙の了解みたいなものだ。


「難しく考えることはないんだ。俺たちがお互いどう思ってるか、大切なことはそれなんだよ」




けど、その暗黙の了解は人の気持ちや心を無視してまで完遂するべきものなのか?




自分の気持ちを押し殺してまで、そのルールに従わなければならないものなのか?




そんなの・・・悲しいじゃないか。やっと気がついたこの気持ちを、そんなルールのために捨てるなんて・・・嫌だ。耐えられない。




大切なこの感情を捨ててまで守らなければならないルールなんて・・・俺は認めない。


「俺は、玲菜が好きだ。玲菜も、俺のことが好きだ。・・・十分だ。それだけで十分なんだよ。一緒にいる理由は、それだけでいい」


「でも・・・うん。そう、だね。私も・・・一緒に居たい・・・刹那と、一緒に居たい・・・」


抱きしめられているだけだった玲菜が、刹那の背中に手を回し、胸に顔を押し付けてきた。そして流れる涙と共に嗚咽を漏らし・・・泣いた。


「うぅ・・・うぅ、うぇえええ・・・」


刹那は何も言わず、玲菜の頭を優しく撫でた。


玲菜が泣きやむまで、ずっと・・・。


あと3話くらいです。

これからも「殺し屋」よろしくお願いします!

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