第七話 お前に出会えて
前回のあらすじ
お互い錬金種との融合をした状態で殺し合いをする。お互いボロボロになりながらも、どうにか奴の融合を解除した。決着の時は近い。
天地の剣を左手に持つ。あいつは大鎌を手にした。お互いの武器は決まった。これで最後にしよう。いや、これで最後にする。
一瞬で勝負は決まる。
「……リーファン、お前には俺の最終奥義をくれてやる。俺の仲間だからこそ、本気でぶつける」
ゆっくり究極神龍の宝玉を嵌めていく。
「本気……今まで手を抜いていたというわけか」
「いや、これまでも本気だったさ。それ以上を出すというわけだ。これを使うと俺は動けなくなる。それで、お前が耐え切ったらお前の勝ちだ」
とは言うものの、既にそれは皇帝戦での発動時に克服しているのではあるが。しかし、それでは勝負がつかない。どの道発動後動けたとしても究極神龍以上の技などないため、実質的に負けとなる。
「ふん……」
「そして俺は死なないが、お前を追うことを諦める。それでいいだろう？」
「その時は立場が逆転するだけだ。俺はお前を殺しにどこまでも追うだけだ」
「……ああ。じゃあ、やろうか」
宝玉が嵌め終わり、戦闘態勢を取る。
本気とは言えども、峰打ちだ。爆発もしない。
「……行くぞ！」
その掛け声と共に俺は走る。あいつは鎌を振り回し、風を引き寄せ、放ってくる。向かい風となるが、俺は走り続ける。今度は鎌に闇魔術をかけ、斬撃を飛ばして来た。それを斬り、受け流し、更に前へと進む。
「究めに極め、神と龍宿りしこの天地の剣、今此処に轟け！ 究極神龍・天地斬！」
刀身が光り出す。
「混沌の衣纏し神の力、波動となり、我が身に宿れ」
奴の体は様々な色に染まり、防御姿勢を取った。
「無駄、だァッ‼︎‼︎」
叫び、奴の腹に右拳をぶち当て、衣を貫通する。そのまま空中へと飛ばした。
「ガハッ……‼︎」
「喰らえ、俺の本気を！」
羽ばたき、奴と同じ高さになった瞬間、一回目の斬りつけ、究の紋章を起こす。振り返り、二回目の斬りつけ、極の紋章を。更に三回目、神の紋章、そして擬龍化し、炎を纏い突撃、これで龍の紋章。
「耐え、切る」
「まだだ！」
姿を戻し、下から上へ殴りつける。これで天の紋章！ 奴の高さより上に転移し、剣の波動をぶつける。地の紋章！
「これで、終わりだ！」
最後に、全力の峰打ちで奴に叩きつけた。共に地面へと落ちる。
「グファッ‼︎‼︎」
「はぁ、はぁ……」
これで終わってくれ。もう一度は使えない。
「まだ、終わら、ない……」
「……！」
ダメだというのか。
「まだ……」
奴は立ち上がった。
「終わらせたくな……が、ガァアアアアアア‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎」
衣の負担に耐えきれなくなったみたいだった。
「何故だ、何故だああああ‼︎‼︎」
「俺の思いが届いた、それだけだ……」
バキバキと衣が剥がれていく。完全に落ち切ると、憑き物も同時に落ちたかのように意識を失い、倒れた。
「……文字通り憑き物が落ちたな」
先程まであった凶悪な殺気が消えた。リーファンの意思とは全く別の。
「これで操り状態から解放されたと言っていいのだろうか。本当に終わったのか？」
俺もバタリと倒れた。
次に起きたのは、ロロの揺さぶりによってである。また助けられたな。
「悪いな」
「ご主人、かなり無茶をしたからな」
「仲間を救うためなら、俺の全てを使い切るだけだ」
「普段の口振りから見えぬ信念だな」
「ああ。そうかもな」
あいつはまだ寝ている。少し揺すると目が開いた。
「起きたな……」
「レイン……？ ここは何処だ……」
「……？」
まさか、こいつ、あの日からずっと。
「ふっ……ここは樹海だぞ」
「……。ハイレスは討ったのか？」
「何を言っているんだお前は。もう、あれから数年以上過ぎている。お前の体をよく見ろ」
事の経緯を話した。あの空間に引き摺られてからの一切の記憶がなかったらしい。二人のことを話すのは苦ではだったが、話さないわけにはいかないからな。
「そうか、それで二人は……」
「すまなかった。……許されるわけがない」
「いや、俺のせいだ。俺があの時怒りを爆発しなかったら。俺だけが操られていたら……」
「……」
俺は言葉が出なかった。
「……いや、そうじゃない。全て、俺達を操った奴が悪いんだ。でなければ俺達は殺し合うことはなかったはずなのに！ ぐぁっ⁉︎」
大声で話したために、傷口が開いた。
「お、おい」
急いで彼に回復を施した。
「わりぃ……。ああ、今の痛みで少しだけ思い出した。俺が操られる直前に、何処にいたのかを」
「……！ 本当か⁉︎」
「ああ。今の俺ってもう、人間じゃねえんだよな」
「おそらく」
たとえ操られていたとはいえ身体そのものが変化していたことは事実だからな。
「じゃあ、その空間に繋がる扉を開く。お前は、行くんだろう？ 俺は止めない。お前は俺より強いんだからな」
「当たり前だ」
「許す許さないは、事が全て終わってからだ。はあ……俺はここでもう少し寝ているよ。体が動かないんだ」
空間の扉を開くと彼は再び眠りに落ちた。
「わかった。……ありがとう、リーファン。俺は、お前に出会えて……」
この先にいるモノは、全ての首謀者だろう。俺がこれまで戦ってきた相手の黒幕。
まだ体、精神は充分に回復できてはいないが、もし時間がないとするのであれば、今すぐにでも行かなければならない。
そいつの駒は今、ないはずだ。世界は平和で、俺を狙うものもいない。ならば、奴が直接世界に降り立ち混沌に陥れる可能性もある。
それを食い止めるのも含め、俺は奴を超える。別に世界のためじゃない。俺のためだ。俺が奴を超えたい、それだけのためについでに世界を救うというだけだ。俺は御伽噺に出てくるような勇者ではない。ただ、己のために。
扉の先は真っ暗だ。それをくぐると扉は消え、帰ることは許されなくなった。また、転移術を発動しようとしても反応しなかった。ここは別世界なのか、それとも奴が作り出した不安定な空間なのか。
少し歩くと、辺りが炎に包まれる。
そして奴が出てきた。とてもつなく大きな体、今まで感じたことのない殺気。形状は不安定だ。これは邪神特有の概念であり、それでない、具象であり、それでない。それなのであろう。だが、奴は形を整えた。幾つもの顔、幾つもの腕。脚はなく、宙に浮いている。
奴は口を開いた。俺は急いで身構える。
「我ガ名、阿修羅。肆大邪神之一柱也」
奴が何を言っているかはわからない。だが、一つはっきりとわかった。
これが、これこそが本当の最後の戦い。
