第一話 弟子
俺は一体何者なのだ。何のために存在するのか。俺は、何だ?
ガバッと起き上がった。辺りを見渡すと壁だった。ここはどこなのだ。
「……」
「お、起きたかレイン」
「七日も寝ていたのよ。心配したわ」
「まあ、無理ないでしょ。あんなに傷を負っていたんだし」
右を見ると三人がいた。
「皆……?」
あれから、どうなったのだ。
「皆いるぜー。よくわからんけどさ、なんか俺たち未来に来たみたいなんだ」
「未来?」
また、時間が変わったのか。
「おう。なんでも、俺たちの住んでいた世界より三十年後の世界らしいぜ」
三十年後、つまり俺からすれば五年後の未来という事になる。五年後の俺は、一体何をしているのか。
「未来の技術ってすげえよ! クロスの傷を完全に治したんだぜ」
「そうなのか?」
「ええ、おかげさまで」
俺の傷も見たところ、塞がっていた。跡も残っていない。
「あ、レインは違うぞ。手術する前に既に完治してたんだよ。お前ホント、ミレディアを斬ったときみたいに人間離れしてるな」
笑うリベルト、しかし俺は自分の力がよくわからなかった。あの時はがむしゃらで戦っていた。
「七日間寝ていたのは、単に疲れていただけなのかもね」
「そうか……」
「あ、そうそう。レインに会いたがっている人がいるみたいなの。呼んでくるね」
ハースはそう言って部屋を出ていった。
俺にまともな知り合いはいたのか。五年後の俺は少しは社交的になれているのだろうか。
「師匠!」
「し、師匠……?」
そうか、弟子をとっていたのか。
「ええ、そうですよ。まあ、まだあなたの時代じゃ会ってませんけど……」
「説明してもらおうか」
「はい、そうですね。まずはここの説明をしましょうか。あ、ちなみに私の名前はジョウです」
ジョウと名乗るその男は言葉使いが丁寧である。
「ここは光の国と言います。光の存在意義を世の中に浸透するために立国しました。かつては光の勇者が存在しておりました」
この国の名前は聞いた事がある。
「ただ、最近物騒なことが多くてですね……そちらの説明は主に聞いた方がいいですよ。いつでも面会は取れます」
「よくわからなかったが、ありがとう。ひとまずお前の主に会えばいいんだな」
「そうですね。あ、主はこの国の女王様です」
「なら、行くか……」
「もう立てるのか?」
「あいにく、俺の身体はリベルトの言うとおり、人間離れしているらしい」
すぐに立ち上がり、よろける事なく動けた。
「こちらです」
案内されたところは、宮殿だった。ここにこの国の王がいるのか。
「ライト様、連れて参りました」
「ご苦労様、ジョウ」
ライトと言う女が女王なのか。光、ライト、随分と捻りのない名前だ。
「えらい別嬪だぜ、おい」
見た目は二十代前半くらいか。
「あれでも200歳超えているんですよ」
「なんだよ、ババアかよ」
こそこそ男二人が喋っていたが、ライトには筒抜けだったらしい。
「ジョウ? 後でお仕置きしてあげるから」
「ひ、ひぃ! それだけはご勘弁を!」
こいつらはコントをするのが好きなのか。
「まあいいわ。私はとても気分が良いから。お久しぶりです、レイン」
「……俺は初対面だ」
「おっと、いけなかったわ。つい五年後のあなたに話しかけるような感覚でいたの。ごめんなさいね」
ここで会って、そして五年後の俺は今でも交流を続けている、ということか。
「あなたを見ると彼を思い出すわ」
彼とは一体。それより。
「……五年後の俺は何をしている。俺の正体を理解して存在しているのか」
「それは、教えられないわ。近いうちにわかるはず。それまでは我慢してちょうだい。……では、本題に入るわ。最近、近くの活火山で龍が住み着いているの。それをあなたたちに討伐の依頼を出すわ。あなたたちの今の職業は狩人なんでしょう?」
今の職業、か。
「ああ……。しかしなぜ今の俺に頼む? 五年後でいいのでは?」
「これは五年後のあなたの意志でもあるのよ。試練と表しているわ」
「なるほどな……」
「いいかしら?」
「問題ない。それと、その龍の名前はなんだ」
「滅国龍、ミレディオスよ」
「お、おい、その名前って」
「ああ……おそらくな」
「過去に滅街龍と戦ったわよね? それの上位に当たる存在よ。下手をすれば名前の通り国が滅ぶわ」
また、リーファン達が一枚噛んでいるのかもしれない。そうと決まれば俺たちがやるしかない。
「……わかった。準備が整い次第、行かせてもらう」
「今日一日は休みなさい」
「了解……。それと、聞きたい事がある。妹はどうなっている」
「それも答えられないわ」
「そうか……。悪かったな、ではこれで」
「レインって何気に人脈あるね」
「ねー」
女二人は俺を貶しているのだろうか。
「師匠、私がその場所に案内しますからね!」
やたら張り切っているジョウ。役に立てると思い、喜んでいるのだろうか。
「ああ、頼む」
その日、準備を終えた俺たちは少し街を見回り、そして帰って寝た。
過去の次は未来でした。大方予想できたと思います。