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LIVING LEGEND  作者: 星月夜楓
第一章 過去編
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第五説 滅街龍

前回のあらすじ


ランタに危機が訪れる。滅街龍という異名を持つミレディアが現れた。俺はこいつと戦うために過去に来たのか。そう思うと体が勝手に動き出した。三人と共に、奴を倒す。

「……時間だ、行くぞ」


 俺の合図で、皆それぞれの行動を開始した。


「滅街龍……ミレディア! ここで決着をつけさせてもらう……!」


 最初は作戦通りに動けていた。ハースは弓の連射、それに気を取られている内に毒のある尻尾を攻撃する。だが、尻尾はあまりにも硬く、中々切ることができない。こちらの武器の刃こぼれの方が先になりそうだ。五月蝿い虫を払うが如く、ミレディアが暴れ出した。一旦体制を整え、再び攻撃に転じようとするがーー。


 クロスが尻尾によって弾き飛ばされた。


「クロス‼︎」


「まずい……!」


「レイン! どうしよう!」


「狼狽えるなハース。解毒薬ならある。リベルト! 奴の気を引き付けていろ!」


 だがこの解毒薬は効くというのか。それに出血も止めないといけない。


「あぁ……わかったぜ!」


 壁に激突しているクロスの元へ向かう。そしてハースに解毒薬を渡した。


「これでどうにかなるの?」


「ああ、問題ない……はずだ」


 と、口はそう言うものの、俺はどこか意味がないのではないかという疑問を抱いていた。そしてまた俺は、俺の周りの人間を殺しかけないという事態に嫌気が差していた。


 ハースはクロスの傷口に解毒薬を塗り込んでいた。が、毒以前に傷口が大きいので彼女は悲鳴をあげる。


「止血剤だ。これで幾分かはマシになるはずだ」


 出血に関してはこれで問題ないだろう。


「……ごめんね」


 普段の彼女からは想像できないあまりにも弱々しい声が漏れた。


「謝る必要はない。今は休んでいろ。死なれると困る」


 何故謝るのだろうか。確かに、自分でここに来たわけではあるが、俺が見誤らなければ負傷することはなかった。俺のせいでもある。謝罪すべきは俺の方ではないか。


 やはり、街を破壊する規模の龍にたかが四人が倒せるのは無理なのだろうか。もし帰さずに大人数でやったとしたら……犠牲はでるが倒せるかもしれない。


 俺は気付かない内に自分を追い詰めていた。


「あとは包帯だね。我慢しててね……」


 ハースが突っ立っている俺の代わりに看病をしてくれた。俺は迷っていた。ついさっき戦う前までは迷っていてはダメだと考えていたというのに。


 唇を噛む。出血も気付かないくらいの意識の集中だった。突然の閃きが訪れ、迷いを断ち切った。


「いや、違う。結局全員巻き込まれる。だとしたら」


「……え?」


 俺の独り言にハースはキョトンとしていた。


「ハース、彼女を見ていてくれ。俺とリベルトで決着をつける」


 結局巻き込まれて傷つくくらいなら。


「いけるの?」


「どうにかするのが俺だ」


 どうにかしないといけない状況に俺は立たされている。俺の心は弱い。感情が上手く理解できないから、上手くコントロールが出来ない。だがその弱みを見せるわけにもいかない。だからこそ口だけは奮い立たせる。そうすればいつか心も強くなれると信じて。




「決して油断していたわけじゃないけど、こりゃ相当だな……」


 ミレディアの気を引き付け続けていたリベルトの体力がかなり消耗していた。


 再び、尻尾が彼を襲っていた。


「まずい、こればっかりは避けられねえ……。すまん、みんな……」


 尻尾が差し掛かった時、俺は彼を押し出し、範囲外に倒した。


「レイン……⁉︎」


 そして、今度は俺に襲いかかる尻尾を剣で受け流す。


「リベルト、後方支援を頼む」


 ここで奴を殺さないと最後は皆死んでしまう。約束は、必ず守る。


「……! ああ!」


 俺が単独で突っ込み、龍の腹を捌く。どうやら硬いのは尻尾だけだ。良かった、これで突破口は見えたぞ。ミレディアは知能が高いのかもな。尻尾を最優先に切れば毒の心配がなくなる。ならば尻尾を切れないように硬くすれば良いと考え、硬化したのだろう。俺は奴の術中に嵌っていたということだ。


 腹は抉れて腑が見える。さすがのミレディアもこれには耐え切れず、硬直した。その隙にリベルトがもう一度尻尾を切ろうとする。今までどれだけ切ろうとしただろうか。いくら硬くてもいずれは切れるかもしれない。


「げっ!?」


 はじかれたリベルトの大剣はついに刃こぼれする。再び襲い掛かる尻尾からどうにか回避したリベルト。やはりまだ無理か。


「あっぶねえ……。もう二度とごめんだぜ」


「無茶はするな。武器は入口においてある。補充してこい」


 ここで俺は彼を戦前から逃がした。


「すまん、持ちこたえてくれよ、レイン」


 彼らは決して足手まといにならないと言った。それは信じて正解だっただろう。しかし、こいつはそういうのを無視できるくらいの強さだ。名前負けはしない強さ。ここまで耐えられたのも奇跡に近いのではないだろうか。




 俺一人だけが戦うことになった。今からは俺だけでやる。これ以上はもう持たない。もう、誰も死なせたくはないから。俺がやらなければいけない……俺が強くならないといけない……この状況を打破し、街を救う。それが俺の使命、俺が過去に来た理由なのだから! 絶望に打ち勝て! あの地獄の日々を思い出せ! 俺は修羅の道を歩んできた! こんな程度でくたばってたまるものか!


 俺は猛獣のように力の限り叫んだ。そこに人間らしさはなかった。だが心は、揺れていたこれは一直線となった。


 ミレディアは火球を繰り出してくる。間一髪で回転しながらジャンプして避け、そしてそのまま跳びながらミレディアの右腕を切り落とす。後は尻尾さえどうにかなれば、やれる。


「やった!」


「喜ぶのはまだ早い‼︎」


 そして落下の勢いで尻尾に叩きつけた。それも根元の部分を。


 こいつは尻尾だけを異常に硬くしていた。先ほどの右腕もそこまで硬くはなかった。ならば尻尾と胴体を繋げている部分を切ればいけるはずだ。


「ウォォォォォァァァァァ‼︎」


 物凄い音を立て、胴体から尻尾を切り離した。


「なんだ……ありゃ。もはや人間業じゃねえ……レインって一体何者なんだよ……」


 戻ってきた彼は唖然としていた。ああ、そうだ。俺は人間をやめてしまったのかもしれない。この動き、人間でできるものではない。とはいえ、これでミレディアを殺せるというのであれば、救えるというのであれば俺は人間をやめてしまっても構わない。


「リベルト、止めを刺すぞ」


 相変わらず俺は感情が良く分からない部分がある。確かに俺は使命だからやらないといけないと決めた。だがそれは強くなる理由にはならない。だったら何故ここまで力が溢れる。怒り? 憎しみ? 妹の仇、クロスを傷つけたということに対する感情が、俺を強くしているというのか。わからない。それでも俺が強くなって奴に勝てるという理由にはならない。やはり地力か。俺が無くしてしまったはずの力が今目覚めたといのか。


「っしゃあ! この武器でぶっ刺してやるぜ!」


 まるで緊張感のないリベルトはさっき捌いたミレディアの腹に突っ込み、大剣を突き刺す。


 龍は痛みに耐え切れず咆哮する。このまま終わらせる!


「その五月蠅い口を閉じてやる‼︎」


 龍の体を伝い、そして首を切り落とした。


「……ハァ」


 着地した俺は深い溜息を付く。


「やった……のか?」


「やった! クロス! 二人が倒したよ!」


「ええ、見えるわ……」


 怪我人こそ出たものの、死んだ者はいなかった。結果、俺の判断は間違っていなかった。迷いさえなければもっと早く片付けることは出来たのかもしれない。だが、迷ったからこそ、この力が再び目覚めたのだ。


「やったな、レイン」


「ふん……当たり前だ」


 などと言うが、心は全く逆だ。


 クロスの方に駆け寄る。


「大丈夫……ではない、か。だがそれなりに血は収まったようだな。包帯を取り替えるから、少し我慢してくれ」


「……うん」


「これで良いだろう」


「ありがとう、レイン」


 どうやら毒も回る前に抑えることが出来たみたいだった。


「気にすることはない。こうして倒せたのだから。謝るのも、お礼を言うのも俺だ。巻き込んですまなかった。そして、俺の力を取り戻してくれて……」


 俺は最後まで言えなかった。ありがとう、という言葉は、今は言えない。


「さあて、帰りますか。こいつの処理ってどうするんだ?」


 ゆっくり歩いてきたリベルトは俺の言葉を遮ってきた。今はそれで良い。むしろ助かった。


「さあな……」


 これで、終わるのだろうか。俺は俺の世界に帰られるのだろうか。


 ミレディアの亡骸を見ていると、空が歪んだ。


「……なんだ?」


 その歪んだ空間から三つの影があった。三つの影が地上に降り立つ。


「あーぁ、ひどくやられちゃったねェ」


「不愉快」


「こいつをこんな風に殺せるのは……」


 三つの影はどうやら人間のようだった。


「お前だけだよなぁ、レイン……!」


 僅かに俺の体が震えた。聞き覚えのある声。かつて共に戦った仲間。そして見殺しにしてしまった友人。


「リーファン……?」

次回予告


掛け替えのない仲間。かつて彼にもそれがあった。それを失うと共に彼は力も失った。そして今、力を再び手にし、新しい仲間ができ、殺されたはずの仲間が現れた。


次回、LIVING LEGEND 第六説 仲間


仲間とはなんだ。友人とはなんだ。他人とは一体なんだというのだ。

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