第一話 変化
前回のあらすじ
まだ目覚めの時ではない。
「……」
俺は死んだのか?
「……ン」
生きて帰ると言ったはずなのに。これでは彼女らにどう説明すればいいのだ。いや、死んだからにはどうしようもないか。
「……レイン?」
「……?」
黒く何も見えなかったが、段々と光が差し込み目の前に彼女がいた。
「よかった、意識戻ったんだね。ずっと目、見開いてて数ヶ月過ごしていたんだよ。本当に死んでしまったのかと思ってしまった。だけど脈はあるし別に瞳孔は開いてなかったから……」
「すまない」
俺はずっと寝ていたというのか。
「何で謝るのかなぁ? 私も大概だよ、ここに数ヶ月ずーっといたし。まあ、お腹の具合とかもあったけどね」
そういえば子どもが。数ヶ月過ぎたのならもうそろそろなのか?
「ま、お察しの通りそろそろだよ。というか今にも……うぐっ」
「おい……大丈夫なのか?」
直後、彼女は倒れこんだ。
「誰か、医師を呼んできてくれ!」
なんていうタイミングだ。それとも彼女はずっと耐えていたのか?
数時間後、無事に子どもが生まれたそうだ。ようやくこの時が来たのだな。体が動けるようになった俺は二人がいる部屋に入ることにした。
「うまくいったようだな」
「レイン……。はぁ、なんだか疲れちゃったよ」
無理もないことだ。生涯で一番痛いものじゃないのか? 俺にはわからないが。
「お疲れ様、だな。子どもの名前は決めたのか?」
「レインがそんなこと言うなんてなんか変わったね。名前……デグラストルの掟に則らないといけないよね。……そうね、じゃあレイドで」
「レイグランドか。いいんじゃないか? そういや、俺とお前の子どもだから……種族は一体何になるんだ? 人間? 天地人?」
「あー……うん、私、人間じゃなくて堕天人なの」
堕天人? とは、一体何なのか。
「細かい説明は後でするにして、レイドの種族はそうね、地底人じゃないかしら。私は天空人の出来損ない、貴方は天地人。つまり天地から天を引いて地底人」
「なんだその超理論は」
「だって仕方ないじゃない、わからないもん。大きくなったらきっとわかるって!」
「まあ、それもそうだな」
ここに来て安堵の溜息が出る。
「溜息は」
「幸せが逃げると? ただ安心しただけだ。気にするな」
「なんか調子狂うなぁ。それにしても可愛いなあ赤ちゃん」
「それは俺たちの子どもなのだからな。自分の子どもは可愛い、可愛い、そういうものだ」
「客観的に捉えないでよ、全く。レイドもきっと強くなるんだろうね」
「それはわからない。ただ鍛えるつもりはある」
「だろうと思った」
彼女の横に座ると扉が大きな音を立てて開けられた。
「おい、レイドが寝ているんだぞ」
「それどころではありません!」
外交官になった元代理王は、俺の子どもよりも優先すべき事があると考えているのか?
「レイン様を語る何者かが光の国にて暴れまわっているようです!」
「それは聞き捨てならんな」
確かに一刻も早く抑えなければ。デグラストルの風評が悪くなってしまう。
「クロス、悪いが俺は、俺の名を勝手に使う野郎を懲らしめてくる」
「私も行くよ」
「だがまだ休む必要が」
「大丈夫、何かあったらレインが守るでしょ」
「それもそうだが……。……心配なんだ」
「ふーん、心配、してくれるんだ」
彼女はニヤつきながら顔を近づけてきた。
「何なんだよ……」
「もちろん、レイドも連れて行くから。しっかり守ってね」
「はぁ、自分勝手だな」
「お互い様でしょ」
それを言われると何も返せない。
「それじゃ、行くぞ。外交官、また留守の間この国を頼むぞ」
「はっ! お任せあれ」
必ず仕留めてやる。
「クロス、辛くなったらすぐに言えよ」
俺の怨念はどこかに消え去り、心境の変化が訪れていた。周りが見えてきた、というわけなのだろうか。
「……了解!」
笑いながら言葉を返してきた。
今話は導入編です。元々三部を予定していた話を持ち込んできました。こっちのが話の展開が良いと考えた結果です。




