第二話 覚悟
前回のあらすじ
孤児院を訪れた俺たち二人は襲撃されたことを知る。そしてクロスの様子は。
孤児院の裏山。そこに洞穴があった。それも人工物の。土は柔らかく、比較的新しいものだ。ここに奴らがいることは確かだ。
「クロス、覚悟はできているな?」
「……え?」
彼女の目はずっと据わっている。もしかすると。
「人を殺す覚悟だ。生半可な気持ちでできるのか?」
「考えもしてなかった。……そうね、覚悟。できてると思うよ」
「それならば良いが……」
いや、できるわけがない。きっと後悔する。だからこそ俺がその汚れをやる。
「突入するよ」
「ああ、タイミングは任せた」
洞穴内を走っていると音が聞こえる。
「おい! そこのアマ! ガキ共がうるせぇからさっさと黙らせろ!」
ぎゃあぎゃあと騒ぐ子どもたち、それに対し賊達が怒鳴り散らしていた。
「ご、ごめんなさい……み、みんな、静かにしましょう。そうすればきっと大丈夫なはず、です」
それでも泣き止まない子どもたちを見兼ねた賊は女を殴った。
「何のためにここにいると思ってんだぁぁああん⁇ 殺されてえのか!」
その様子を見た子どもたちは更に騒ぎ立てる。
「その辺にしとけ、我を忘れてガキに手を出したら大切な商品の価値がなくなる」
「だったらそんときゃ犯すだけだ! ギャハハハハ!!! クックックッ、味見くらいはいいだろ!」
「はぁ、お前なあ……」
賊は二人だけだった。長身と低身長。どこか見たことがあるような。だが、彼らは老けていた。
「声が段々と近づいてきた」
子どもたちの叫び声が響いていた。一刻も早く行かなければ。
「殺す、殺す、殺す……」
彼女はもう我を忘れていた。
そして遂に辿り着いた。何か面影がある二人組が教員と子どもたちを脅している。
「あぁん? なんだてめぇら……げぇえええ⁉︎ あんた、まままままさか……」
こいつらまさか、過去のランタにいた二人組なのか。
「……」
血走っている目をした彼女を抑えながら奴らを観察した。
「な、なぁ、あんた、一体なんなんだ⁈ 昔会ったときと全然変わらねえじゃねえか!」
「……俺は、お前たちを殺しにきた」
「ひ、か、敵うわけねえ! こんな化け物にぃ!」
何が起きているのかわからない孤児院の人たちは呆然としている。
「と、とりあえず逃げるぞ!」
小さいほうが裏口から逃げようとした。だが、いつの間にか俺の手から離れていたクロスが奴を斬りつける。右腕が飛んだ。
「ぎゃぁああああああ!!! ぃだあああぁぁぁあああ!!!!!」
まさか、過去で殺さなかったツケがここで来るとは思いもよらなかった。
「待てクロス、過去でそいつを始末しなかった俺の責任だ。俺が片を付ける」
転移術で彼女を引き戻す。そして容赦無く俺は二つの屑の首を刎ねた。
「……これでもう、こいつらは人間じゃない。唯の物だ。……好きにやるがいい」
声にならない声でクロスはひたすら賊を殴り、蹴り、叩き、斬り、めちゃくちゃにした。
「……すまない、えっと、ソフだったか? あんた。もう、大丈夫だ」
そっとソフという教員に手を差し伸べると彼女の手は震えていた。
「あ、貴方は一体……」
「……第二十八代デグラストル国王にして天地の勇者、レイグラン・ダグラス・デグラストル。通称レインだ」
わざわざ自己紹介をするなど、この空気には合わんがきっちりと言ったほうが良いだろうという判断の元、こう言ったのだ。
「こ、国王……」
「……安心しろ。ところで犠牲者は何人だ?」
「いえ、誰も特には……」
「だがあんたの頬が腫れている。少し待て、治してやる」
彼女の頬に手を当て、キュアーを発動する。みるみると腫れは引いていった。
「あ、ありがとうございます……一体どうやって治したんですか?」
「それは、言えないな。とりあえず孤児院に戻る。ここは嫌な気分になる。クロス、帰るぞ」
物をグチャグチャにした彼女は満足感、いや虚無感に浸っていた。ふと気がつくと目を見開き、自分は何をやっていたのだろうということに気付き、叫びそうになった。だが、俺はそれを見越した上で彼女にそうさせた。復讐というのはそういうものなのだと。今にも絶叫しそうな彼女の口を塞ぎ、抱きしめ、こう言った。
「言っただろ? 覚悟を決めろと。人を殺して発狂しているようではまだまだ足りんな。やはり汚れは俺がやる」
瞳孔が開いていた彼女の目は元に戻る。
「……ごめん」
謝って済むものか、と言いたかったが、俺はそれ以上何も言わなかった。




