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LIVING LEGEND  作者: 星月夜楓
第一章 過去編
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第四説 緊迫

 夜中の三時ぐらいだろうか。外がやたらと騒がしいので俺は寝付けず座ってぼやけていた。しばらくすると、突然、俺の部屋にリベルト達が駆け込んできた。


「レイン! 大変だ!」


 それにハッとした俺は五月蝿い、帰ってくれ、と言いそうになったがその必死さに疑問を抱き、話を聞く事にした。


「……何だ、どうかしたのか」


「決闘場に一体のでかい龍が現れたらしい!」


 街の外れにある決闘場、かなりの大きさである。そこに龍が現れたというのか。


「龍……?」


 この街はいずれ滅ぼされるということをすっかり忘れていた。大きな龍、まさかこの龍がこの街を滅ぼしたというのか。そして、俺の……。


「ああ、しかもただの龍じゃねえ。街を滅ぼす龍と言われている奴だ。だからみんな、戦える奴は決闘場に行った。奴を殺しにな」


 やはりこの龍がランタを。嫌な予感しかしない。


 街を滅ぼす龍なのに、寄ってたかって倒せる相手なのか。そのようなことがあるはずがない。


 何故この時間に出てきた。何故このタイミングなのだ。俺はこれから彼らを育てないといけないというのに。


「……! だめだ!」


 込み上がった謎の感情が俺を昂らせる。


「レイン? どうしたんだよ」


「彼らを行かせてはならない! 全員死ぬぞ!」


「嘘だろ?」


 俺の怒号でリベルトは戦慄が走る。


「龍の相手は俺がやる」


 俺一人でどうにかできるとは思ってはいない。だが、撃退するくらいならできるかもしれない。束になってかかっても負けるかもしれない彼らより俺の方がやれる、という謎の自信があった。昔からそうだ。俺は人よりも何故か強く、不思議な点が色々ある。今回もそうだ。不思議な自信がある。


「……なら、俺たちも手伝うぜ。な、クロス、ハース」


「もちろん」


「力になるよ!」


 今まで黙っていた女性二人は返事をした。


「……。だめだ。お前らを死なせるわけにはいかない」


 まだ何の力もない彼らに戦わせるわけにはいかない。


 俺がなんのために過去に送られたのか、その理由がわかった気がする。俺が過去に来た理由は、この龍を殺すこと。そしてこの街、この街の人間を救うこと。


 龍を殺すことで未来は変わるかもしれない。俺のいた世界は変わるかもしれない。だが、今こうして目の前の人間を見て見ぬふりをして死なせるのは俺が許さない。未来がどうなろうが、俺の住んでいた世界がどうなろうが知ったことではない。まずは目の前のことをやるだけだ。それに変わればきっとあいつも、あいつらも帰って来るかもしれない。


「はあ⁉︎ かっこつけてんじゃねえよ! 狩人ってのはな、いつでも死と隣り合わせなんだよ! 死を覚悟せずに狩人なんかやってられねえ‼︎ だからここで死んでも悔いはない! レインが嫌でも手伝わせてもらうぜ……足手まといになるつもりはねえからよ!」


「リベルト……」


 バカに諭されるとは思わなかった。確かにそうだ、俺たち狩人は常に死と隣り合わせ。死ぬつもりはないが、死の覚悟をしている。このような根本的なことをこの短時間で忘れていたとは。強い弱いはその後の話だ。


「……。わかった。だが死ぬなよ。責任は取れない」


「もちろんだぜ」


「なら、行くぞ。二人も覚悟はあるな?」


 女二人も頷いた。


「早急に準備をしろ。いいな」


 その後、準備が終わり、決闘場へと走った。




 決闘場。その内部では体長百メートルを超えると思われる龍が佇んでいる。今はまだ何の行動もしていないが、一発即発状態であることは確かだ。


 そしてその外では、龍に挑戦する者たちがいた。決して血気盛んになっているわけではなさそうだ。皆静かにしている。そこに俺達四人が駆けつけた。


 俺は、この者たちを退け、街に帰らせることはできるのか。いや、帰らせなければならない。誰も殺したくはないから。


 群衆の前に立っている指揮をとっているような奴に声をかける。


「……おい、本当にこの人数で勝てると思っているのか」


「当然だ。負けると思っていては勝てない」


 確かにそうではあるが、覚悟以前の根性論だ。そして皆がそう思っているというのか。


「だが、無謀だ。そして無策だ。勝算はないに等しい」


「ならばどうすればいいんだ。あんたがどうしかしてくれるのか?」


 俺も決して策を練ったわけじゃない。むしろ俺の方が無謀だというのに。


「ああ。どうにかしてやる……。そのためには、こいつらを街に帰らせることだ」


「どういうことだ……。意味がわからないな」


「わからなくてもいい。朝には決着がつく。だから安心して街に帰れ」


 頼む、帰ってくれ。そうでなければ皆死んでしまう。街も破壊される。俺が指揮しても足手まといになるくらいなら帰ってくれ。


「ちっ。手柄を横取りされるような感覚だが、わかった。だが、全員が帰るとは思わねえぞ」


「……だったら」


 帰らせる方法を考える。そして、思いついたのは。


「….…お前ら、死ぬ覚悟はあるのか」


 皆黙っていた。中には俯く者もいる。


「……ないやつは帰れ。帰ったらきっと生き延びることができる。街も壊されずに済む。俺が保証してやる」


 元々恐怖からのカラ元気であったのだろう。大半は怯えながら帰って行った。ここまで納得してくれるとは嬉しい誤算である。本当にこれでよかったのだろうかという懐疑もあるけれど。


「あいつら腰抜けだなあ。狩人失格だぜ」


「知識のない狩人も失格ものだと思うけどね」


 そこでそのツッコミをするかクロスは。


「クロス……俺にはいっつもきついなあ」


「まあまあ二人とも、落ち着いて」


 さて、残った奴にはどう言うか。


「お前らは死を覚悟しているのだな。だが、はっきりいって足手まといはいらない。元よりお前ら全員を帰らすことが俺の目的なのだから」


「本当に倒せるのですか? それとも嘘ついて街を破壊する気じゃ……貴方はこの街の人間じゃなさそうですし」


 残った者たちの一人が質問する。


「はあ? レインがそんなことするわけねえだろ!」


「止めろリベルト」


 不当な疑いをかけられた俺に怒るリベルトを俺は制止させた。


「お前らが帰れば、必ず倒す」


「そう、ですか……」


 信頼は得られないだろう。だが、その一人が帰ると同時に皆、やれやれと呆れた顔をして帰って行った。


「良かった……帰ってくれたね」


「……作戦を立てよう。その前に少し話がある」


 俺が龍を倒す意味はもう一つある。


「あの龍は、俺の妹の仇だ」


「え……でもどうしてわかるの?」


「今から説明する」


 俺がいた世界での四年前。俺が十二歳の頃だ。双子の妹がいて、彼女はすでに狩人だった。実は、俺に妹がいたことを知ったのは妹の死を聞いてからだった。俺の出生の事情はよくわからない。いずれわかるのか。それはともかく、妹は仲間を引き連れ、龍と戦った。だが、呆気なく殺されたらしい。生き残った仲間の言葉だ。その仲間も数日後には死んだ。その龍による街の襲撃によって。そいつの名前はそれから滅街龍と呼ばれるようになる。滅街龍、ミレディア。俺は妹の死によって狩人になることを目指す。全てはこいつを殺すために。二年間、学校に行き、卒業し、そしてまた二年間探し続けてきた。こうやって廻り会えたのは偶然ではないだろう。俺にこいつを殺せと誰かが言っているのだ。だからこそ、ここで討つ。


「そういうことだったのか……」


 説明をひとしきり終えると、皆俯いていた。


「私情を挟んで悪かったな」


「いや、良いってことよ。俺には難しいことがわからん。言えることはただひとつ。こいつをぶっ倒すってことだな」


「そういうことだ。……お前らにこれをやる。貧弱な装備では心許ない。死なれたら夢見も悪いからな」


 俺は大きな鞄を肌身離さずに大きな鞄を持っていた。それを地面に置き、中身を出す。


「なんだ、これ」


「妹が使っていた武器と防具だ。つまり、妹の形見。ただ使わないままではもったいない。使ってくれた方が妹も喜ぶだろう」


 そして、この龍を倒せば、きっと妹が蘇る。過去である今で倒すことができれば。俺のいた世界は崩壊するかもしれない。俺は狩人になることすらなくなっているかもしれない。それでも、俺はここでこいつを討ちたいのだ。


「ありがたくもらうわ」


「ありがとうー」


「お、おい。俺、男なんだけど」


「リベルトにはこれをやる。俺の前の装備だが、お前のよりはましだ」


「あぁ、すまねえな」


 これで万全の準備が整うはずだ。


「……ようやく本筋だ。作戦はーー」


 ハースの弓で敵を引きつけ、クロスが足元で切り刻む。俺とリベルトが毒のある尻尾を切る。そして、怯んだときに一斉攻撃をかける。弱点は妹の仲間から聞いた。決して無駄な死にはならないはすだ。


「うまくやれるか?」


「多分ね」


「タイムリミットは朝だ。おそらく奴は朝に行動するだろう。それまでになんとしてでも奴を倒さなければならない」


 ミレディアは一度力を蓄える癖がある。それを終える時間が朝だということだ。


 ようやく、この時がきた。この時の為に生きてきたと言っても過言ではない。たとえこの身が裂かれても必ず討つ。何度も何度も自己の闘争心を高めるために同じことを考えた。


「……そういえば、呪いって使えないの?」


「ああ、この呪いは人間にしか使えない。……悪かったな」


そこまで都合の良いものではない。だからこそ呪いなのだ。


「まあ、仕方ないか。行きますかね」


 さあ、決着の時だ。


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