第三説 休息
前回のあらすじ
カイルとの死闘。そこで俺は三人にある程度見込みがあると判断する。
狩りの後、街に帰った俺達は酒場で食事を取ることにした。
「おーし、じゃあ今日はお疲れ様!」
「お疲れ様ー!」
たかが雑魚の狩りでここまでご馳走を出す必要はあるのか。俺の目の前には大量の肉料理が並べられている。リベルト曰く、俺たちの初狩猟が成功したんだ、これくらい良いだろ、というわけらしいが、その料理の金は誰が払ってやったと思っている。この俺だ。彼らは文無しに等しい。まあ、この出費で今後の生活に支障が出るわけではないので嫌々ながらも出してやった。
「あぁ、お疲れ……」
「元気ないね」
クロスが隣の席に座ってきた。 あのバカ二人とは違う彼女は少し距離をとっているのかもしれない。
「いつも通りだ……いや、久々に人と関わって疲れているのかもしれない」
俺は狩人を始めてずっと一人で生きてきた。自分のためだけに食料を獲り、誰も関わらないようにしていた。呪いのせいもあっただろう。向こうから避けられるのであればこちらから避けた方がずっとましだからな。だが、こいつらは呪いなんてものはどうでもいいように思っている。だからこうやって今も関わっているのかもな。
「レインて変な人だね」
「ああ、そうかもしれないな」
俺も自覚している。普通の人とは違うってぐらいは。
「よぉし、まずいと言われているこのカイルの肉を食べるぞ!」
わざわざシェフに頼み込んで作ってもらった、らしい。シェフの顔は非常に苦い顔をして、後悔しても知りませんよ、と言い放っていた。俺はとても手をつける気はない。
口いっぱいに元気よく頬張ったリベルトは数秒後、顔が青ざめ、震えていた。そして無理やり飲み込むとこう言ったのだ。
「うぇえええ……なんだこれ……噛みづらいし硬いしまずい……」
当たり前だ。前にも言ったが装飾がメインなのだからな。
「だ、大丈夫?」
むせそうになるリベルトを心配そうに見つめるハース。
「大丈夫だけど……げほっ、あとこんだけ食べねえといけねえのかよ……」
「食べ物に対する礼儀は一人前だな……」
「うるせぇ、自己責任なんだぜ……おえっ」
早く食べ切ってくれ、食欲が失せる、そう思いつつも俺も少しずつ自分用にとったものを食べている。
「……よし! 続きいくぞおらぁ!」
結局、その後厠で吐いたリベルトだった。
「なんか食欲失せたよ……」
クロスはげんなりしていた。ハースはリベルトの付き添いに行っていた。
「やれやれだな……残りはどうする」
俺は既に食べ終えていた。
「……悪いけど食べてくれる?」
「ああ、問題ない」
別に急いでいるわけではないが、すぐに食べ終えた。
「あんなの見てよく食えるね」
「俺は変な人なのだろう?」
「ま、まあそうだけどさ……」
「それに、この料理は俺の金で払ったものだからな」
「なんか嫌味ったらしいね。……感謝はしているけどさ」
「そういうつもりはなかったのだが……悪かった」
その後しばらく沈黙が続いた。バカ二人がいないとこうも静かになるとはな。そもそも俺は誰かとコミュニケーションを取るつもりもないし当然だ。
「ねぇ」
沈黙を破ったのは彼女だった。
「……なんだ」
「しばらく私たちの特訓に付き合ってくれないかな」
そういや、俺が勝手にこいつらと狩りを続けるのか、なんて考えていたが、彼女らからすればこの一回限りだと思い込んでいたのだろう。
「問題ない……」
「本当?」
「元々、そうするつもりだった」
弱いまま、狩人を続けさせるのは俺も腑に落ちない。
「良かった……てっきり呆れてこれ限りだと思ってたから」
呆れて、か。確かに、少しはそういう気持ちもあるかもしれない。だが、実際にはわからない。
「しかし、何故俺を頼ろうとしたのだ」
俺が特訓させようとするのとはまた別の話だ。
「んーまずは強いから」
それは当然だな。あまり自負するつもりはないが、一般の狩人よりは強いだろう。ぬくぬくと誰かに依存しながらヘラヘラと笑って狩ってきた奴らとは違って俺は一人で生き抜いてきた。
「それと、案外こういう変な人のが信頼できるし」
「そういうものなのか」
「そういうものよ。真面目なふりして裏ではろくでもない事を考えている奴だっている」
「ならば余計に変なやつのが怪しくないか?」
「私が言いたいのは裏表がないってことよ。変な人ほど直球。つまりあなたのように」
俺は直球なのだろうか。リベルトのようなやつがそれではないのか。
「ま、大事なのは作業効率よ。レインといると早く強くなれそうな気がする」
「……それは重要だな」
「よし、じゃあこれからもよろしくね」
「ああ、頼む」
丁度区切りになったところで二人が戻ってきた。
「すまなかったなぁ、二人とも。ってもう食べ終えたのか……俺ももう少し食べたかったぜ」
「意地汚いな……」
「すまんすまん。じゃ、今日はもうお開きにするか」
「そうだな……」
「また明日な!」
そして俺たちはそれぞれの宿泊施設へと向かった。
久々の一人ではない食事。騒がしかったけれども、決して嫌悪感は抱かず、むしろどこか少し高揚していた俺がいる。俺は、一人になることを望んでいないかもしれない。この感情の謎はいずれ解けるのであろうか。そう考えながら部屋に入った。
そしてシャワーを浴びる。いつも人里から離れて暮らしていたためか、随分と久しぶりな気がする。過去にきてから二日が経つ。今日も、何も起きなかった。俺はこのままこの世界に留まり、そして暮らすのか。俺にはわからなかった。
「考え込んでも仕方がない、か……」
無駄に考えるより明日に備えて寝ることにした。
だが、一時の休息はすぐに終わるのであった。
次回予告
束の間の休息は終わった。彼はランタがいずれ滅ぶことをすっかり忘れていた。やがてその滅ぼした根源が現れる。
次回、LIVING LEGEND 第四説 緊迫
もう、止まることは許されない。