第二説 狩猟
前回のあらすじ
リベルト、クロス、ハースの三人と出会った俺は早速狩りに出かける。しかし三人は初心者、しかも実戦は未経験であった。仕方ないので俺は彼らを鍛えようと考えていた。
「しっかし薄気味悪いねぇ……」
洞窟に入ってすぐのところ、ハースはうなだれていた。それもそのはずである。洞窟の中は冷んやりとしており、光もほとんど当たらない。
「これでもまだましな方だ……」
そう、冷たいのは少しましなのだ。これがジメジメとしていると気分はよりどんよりとする。俺の経験では、真っ暗でなにも見えず、いつ敵に襲われるかわからない状況、そして土砂降りにより湿気と冠水の時もあった。とまあ、真っ暗といえども松明を所持していたので、難なく狩ることができたのだが。
「……松明、あるだろ」
「え、ないよ?」
「リベルト……お前はバカの中のバカのようだな……」
「狩人失格ね、全く。松明なら私が持っているからひとまずはこれでいいけど。本当どうしようもない兄貴分ね」
リベルトは本当にどうしようもないやつだな、と思った。クロスはクロスで突き刺さるような物言いをする。ところで彼女とリベルトは兄弟関係なのか? いや、兄貴分だから似たような関係、と言ったところか。
「二人とも口がきつくて辛い!」
仕方ない、この辺にしておいてやるか。
「この洞窟全体がやつの巣だと思え。あまり無駄口は叩くなよ」
「自重するわ……」
すっかり意気消沈してしまったリベルトだった。後で謝るべきかもしれない。
少し進むと、日の当たるところに出る。松明は結局必要なかったみたいだ。結果論とはいえ、あいつのバカさ加減が仇にならなくて済みそうだ。日が当たるおかげか、少々、草が生えていた。ここがカイルの住処だな。案の定、そこにカイルが眠っていた。
「お、いたいた」
「静かにしろ……チャンスなのだぞ」
「す、すまん。自重すると言ったばかりに」
このまま心臓を突けば終わりだ。
ゆっくり、静かに近づき、俺が突き刺そうとした瞬間、何かの叫び声が聞こえてきた。
「まずい……!」
「何? なにが起きてるの?」
おそらくもう一体のカイルだ。まさか、つがいなのか。俺の読みは浅かったようだ。このままでは挟み撃ちにされる。
「なんだかよくわからないけど、ようはぶっ倒せばいいんだろ」
えらく楽観的で短絡的な考えだが、結局そうするしかない。逃げる、という選択肢は俺たちに与えられていない。
「それができればいいんだけどね」
クロスの性格は口よりも行動派。俺に似ているな。俺もそう思う。初心者であるこいつらが倒せるのか、という疑問だ。
眠っていたカイルは起き上がり、キョロキョロと辺りを見渡し、つがいを見つけ、そのつがいの様子がおかしいと判断した。そしてこちらに気付き、翼を大きく羽ばたかせた。まるで竜巻を起こしているかのように。あまりにも強い風は俺たちを吹き飛ばそうとしてくる。ジリ、ジリ、と後ずさりながら何とか持ち堪える。他の奴らはどうだ。吹き飛ばされていないか。横目をやると皆必死に堪えていた。そうだというのならば。
「……っ! 一旦離脱だ!」
風に任せて物陰に向かう。途中で足が浮きそうになったが、踏ん張りでどうにかなっていた。他の三人もまた必死に食らいついていた。
物陰に何とか着くとカイルは羽ばたきをやめ、つがいのところに向かった。
「はぁ、危なかったねー」
「おしかったわね」
「……完全に油断していた」
まさか、このタイミングで来るとは思わなかった。バカなのは俺だったか。繁殖期ではないと判断していたのが間違いだった。そうでなくとも、つがいの可能性を捨ててしまった俺にも非がある。
にしても二体のカイルを同時に狩猟か。俺一人なら可能であるが、彼らを連れているこの状況では、少し危険だ。そして、何のためにこいつらを引き連れているのか。それは全員で狩猟して成長させるに決まっているからだ。俺がスタンドプレイをしても彼らの成長は促せない。だというのならば。
「……お前ら、協力しろ」
「お、なんか策はあるのかい?」
あるから協力しろと言っているのだ、という不粋なツッコミはやめておこう。
「ああ。二人に分かれて、行動する。二人で一体狩猟だ」
分断して同時に作業を行う。これが現状考えうるもっとも効率の良いやり方のはずだ。
「わかった。班を決めようかしら」
この四人の武器の相性を考える。大剣、二刀流、弓、そして俺の愛剣。
「……よし、こうする。俺とクロス。リベルトとハースだ。まず、リベルトとハースは、ハースによる弓の射撃で奴の行動を食い止める。毒矢はあるよな?」
「もちろん!」
俺は無言で頷いた。さすがにそこまでは酷い装備ではなかったようだ。
「そして、やつが怯んでいるうちにリベルトのその大剣で思いっきり叩きつけろ。そして両翼を切り、心臓を刺せ」
遠距離からの射撃で援護しつつ、一撃必殺となる大剣の振り下ろしで決める。言葉では非常に簡単なやり方だ。
「よし! やるぜ!」
「次にクロス。二刀流だったな。小回りはできるか?」
二刀を持っているとはいえ、カイルの翼を斬れるほど長くはないし、頑丈ではない。そのため、今回は支援の形をとってもらう。
「ええ」
「ならば少しずつでいいから傷を負わせてくれ。俺が隙を見て止めを刺す」
俺の愛剣ならば、どいつがかかってきても徹底的に切り刻むことができる。
「了解。みんな、死なないようにね」
さあ、いよいよ開戦だ。最悪の事態が起きたら、まあ、その時は俺が何とかするしかないな。
「合図で作戦開始だ」
そして腕を下ろし、合図を送った。うまくやってくれよ。
最初にハースの矢が一体に撃ちつける。それに気付いた一体はその場から少し離れる。よし、うまく分断できたな。俺たちは残った方を片付ける。リベルト達はすでに離れた方に向かっていた。
「行くぞ……」
「えぇ」
目標目掛けて走り出し、後ろから不意に足へと斬りつける。よろけたところをクロスが無尽に斬る。彼女は手慣れていた。本当に初心者なのか。敵は既に傷だらけであったが、それは表面だけだ。やはり硬い。回転をすることで彼女を後退させた。が、すぐにステップを踏み、態勢を切り替える。回転後の僅かな隙を狙って確実に仕留めていく。再び標的がよろけた瞬間、俺が動いた。己の力と剣を信じ、一撃で両翼を切り取る算段だ。剣を逆手に持ち、飛び掛かり、渾身の力を籠めて翼を引き裂いた。
「まだだ!」
地面に降り立ち、即座にもう片方の翼に飛び掛かる。しっかりとそれを掴み、残る翼を引き裂く。
「……止めをさすぞ」
翼を失ったカイルは虫と同然だ。そして、二人で止めをさした。
「まぁ、こんなものだろう……あっちはどうなっている?」
他二人の方を見やると、中々弓が当たらないようだ。タイミングが悪く、射っても矢が風で吹き飛ばされている。
「……タイミングを計れ!」
俺はただ命令を下した。あれは二人の戦い。参戦するつもりはない。
そして風が止んだ瞬間がきた。
「今だ!」
ハースが叫びながら矢を放った。見事に目に命中。慌ててふためくその姿は実に滑稽だ。
「リベルト! 頼んだよ!」
「任せとけ!」
彼は頭上に剣を振り上げ、思い切り叩きつける。脳天に直撃したカイルは倒れこみ、そのまま両翼をもぎ取られ、止めをさされた。
「ふぅ、何とかなったなぁ」
リベルトは地面に座りこんで喋った。
「狩りが終わったらすぐ帰る。……鉄則だ」
ここで油断したら次の敵が現れたときに対処しきれない。何よりもここは一般人は立ち寄れないところなのだからな。何が来ても不思議ではない。
「へいへーい。しっかしうまそうだな、この鳥」
「カイルはスジが多くて不味いわよ」
食べられないことはないが、クロスの言う通りである。基本的にカイルの素材その翼の派手さから装飾などに使われている。
「そっかぁ。ま、とりあえず腹減ったからさっさと帰ろうぜ」
「同意ー」
二人に同意する。俺も少し小腹が空いたところだ。無駄に体力を使ってしまった部分もある。
「さ、帰ろうぜ」
何故リベルトが指揮を取っているのかは知らないが、それは大目に見てやろう。
何にせよ、三人の初狩猟は無事終わったのである。これからもこいつらと共にするとなると少し考えものだが、彼らの仲の良さを見ていると何故か俺は安心していた。誰かと共にして初めて全員で帰れるということがその原因なのかもしれない。
次回予告
無事にカイルを狩猟できた彼らは街に帰り、食事を取ろうとした。バカだと言われているリベルトは食用ではないカイルを無理やり調理するよう頼み込む……。
次回、LIVING LEGEND 第三話 休息
一時的な安息は終わりを開始させるようなものでしかない。