第四話 鬼
死を覚悟した。だが、いくら待っても体を貫かれる感覚はない。
代わりに誰かの気配を感じた。三人の誰かとは違う。どこか懐かしく、そして鬼特有の殺気を感じた。うっすらと目を開けるとそこには師匠がいた。
「師匠……」
それだけではなかった。彼の家族もいたのだ。
「おいおい、レイン。なっさけねえなあ」
「お兄様、彼はまだ五年前のレイン。弱くて当たり前です」
「紅鬼の方が酷いこといってる気がするよ」
「母上、申し訳ないです」
「どうなってんだ、こりゃ」
あまりにも突然の出来事に困惑するリベルト達。俺もそうだが。
「レイン、俺たちが足止めすっから、そこの三人に俺たちの説明でもしてやりな!」
「すまない……」
三人の元に行く俺は、既に体が完治していた。
「父上、行きますよ」
「うむ」
『なんだ貴様ら』
「邪魔して悪かったな、邪神よ。我らは鬼の一族。絶乱戦無の者だ」
『誰が相手だろうと同じだ』
三人に説明をした。
彼らは絶乱戦無という鬼の一族。そしてその主である銀鬼は俺の師匠、妻の金鬼、息子の蒼鬼、娘の紅鬼。かつて俺に稽古をつけてくれた家族だと。
「あの時の話の人たちね」
「ああ……」
「ん? クロス、知ってるのか?」
「前に話してくれたのよ」
「へぇー、じゃあレインより強いのか」
「ああ、そういうことになる」
だが、彼らは五年前の俺だと言っていた。つまり、彼らは五年後から来たのか。あの未来から。
「よっと、レイン。ちょっと来たぜ」
蒼鬼が一時戦闘離脱してこちらに来た。
「察しの通り、俺たちはレインの住んでいた世界より五年後から来てる。ま、未来のレインに命令されて来たんだけどよ」
「未来の俺……?」
「そういうこと。五年後のお前は俺たちより強くなっているからな」
余計に未来の俺が気になった。
「ま、とりあえず見てなって。俺たち一族の奥義をさ」
奥義、だと。昔あると聞かされていたが、まさか見ることができるとは。
「父上、準備はよろしいですか?」
「無論だ!」
「行くよ、蒼鬼」
「母上、了解です!」
絶乱戦無流奥義。それは絶乱戦無一族の四人が揃っている時にしか発動できない技。乱れ舞い、敵を翻弄し、圧倒的な斬撃量で敵をねじ伏せる。
『ぐっっっっ!?』
それを喰らったルーラーは次々と切られていく。
「ふう、お仕事完了」
「お疲れ様」
「お兄様、今回は頑張りましたね」
「今回はってなんだよ!」
「……レイン、後は、お前がケリをつけろ」
「……はい、師匠」
そうだ、いつまでも頼っている場合ではないのだ。
彼らは隅に行き、俺を見守っていた。
彼らのおかげで結界が破れた。
『非常に残念なお知らせだ。貴様ら鬼はよくやった。だが、我を斬ることはできぬ!』
傷に見えたものは、全てなくなっていた。
だが、俺は絶望しなかった。
「……ルーラー、俺はお前がどれだけ強いか知らない。お前は無敵なのかもしれない。だが! それでも俺はお前を超えていくだけだ!」
己が信じた道を突き進むだけなのだ。




