第四話 二人
「遅れているぞ」
「ごめん……」
基礎体力の差がここで出てきたか。
「仕方ない。少し休憩しよう」
物陰に隠れて風に当たらないようにする。
「本当にごめんね」
「いや、無理をさせた俺も悪かった」
「そっか」
ただ、時間がないのも確かだ。
「さむ……」
彼女は凍えていた。
「……これでも羽織ってろ」
「これ、レインのコート……。寒くないの?」
「……俺は既知の通り、人間離れしている。これくらいは平気だ」
「ありがとう」
何故か彼女は頬を赤らめていた。
「それと、俺は鍛え方を人とは違ったやり方でしている」
「むっ、なにそれ」
言葉の選択を間違えたのか。
とりあえず、まだ寒そうにしている彼女に密着する。いくらかこれで緩和するであろう。
彼女が余計に震え出したのは何故だ。
「そうだな、少し昔の話でもしようか。俺のことはまだ全然話してなかったわけだしな」
この得体の知れない男について来てもらっている礼だ。
「興味あるね。でも、他の二人にはいいの?」
「二人にもいずれ話すさ」
「今だけ、私だけが知る話ね」
彼女は何故だか知らないが微笑んでいた。
「クロスの話もいずれ聞くぞ。孤児院出身しか知らないからな」
「う、うん!」
「……さて、じゃあどこから話そうか」
不思議と、俺の口調はいつものとは違って少し緩やかになっていた。
「……鍛え方の違いについて話そうか。まず、俺は物心がついた時には既に親がいなかった」
「……え?」
「よく覚えていない。代わりに鬼の一族の家に住んでいた。そこの亭主から俺に実の息子ではない、お前は人間だ、と言われる。鬼は嘘が嫌いだからな。決して嘘ではないと断言できる。俺は彼を義父ではなく師匠と呼んでいた。何故なら師匠は俺に稽古をつけてくれたから。そこにいた息子と娘を相手に、毎日ギリギリの殺し合いをしていた。当然止めはささないが、毎日ボロボロになっていたよ。俺が狩人のための訓練学校に行くとき、師匠と相手した。本気の戦いだった。そして俺は、負けた。師匠は強すぎた。人間と鬼の限界の差が感じられた瞬間だった」
「そんなことがあったんだ」
「ああ……それから訓練学校で、あいつらに会うんだ」
「リーファン達ね」
「その通り。この話はまたいつかしよう。……俺はあの死に物狂いの鍛錬のおかげで厳しい環境の中でも生きられるようになったのさ。さて、休めたか?」
「ええ、おかげさまで」
そして、また俺はいつもの口調に戻る。
「……なら、行くぞ」
「行きましょう」
ほんのり本筋に関する事をここで書きました。今後、本筋の話は第一部終わるまでありません。




