プロローグ
現在再編集中です。ご了承くださいませ。五作目であるPHANTOM LEGENDと並行して行っていますので遅くなります。申し訳ありません。
何も見えない真っ暗な洞窟。その奥で誰かが悲鳴を上げる。その声は闇に消え、静まり返る。外にいる者には聞こえない。助けも来ない。また、誰かの喚き声が聞こえる。だがそれもまた闇へと葬り去られるのだ。
ㅤ俺はもう疲れた。誰も俺に期待するな。また悲劇を招くだけだ。このまま一人で死なせてくれ。
ㅤ一人、山奥へと逃げた。あの惨劇を二度と引き起こしたくない。一人なら巻き込む事もなく人生を終える事が出来る。これで良いんだ。ヒッソリと、静かに死ぬのを待つ。
ㅤだが、天はそう簡単に俺を死なせてはくれないのだ。まるで試練を与えるかのように。
「何が起きている」
ㅤ突然、俺は光に包まれた。
「何なんだこれは……!」
ㅤ俺の抵抗は虚しく、体が消えていく。
「違う、死ぬのをただ待ちたいだけなんだ。俺が願ってるのはこうじゃない!ㅤやめろ……やめろ!」
ㅤ俺は叫んだ。止められないのも分かっていながらも、叫び続けた。
ㅤそして、俺は消えた。
冷たい風が靡く。寒い。体が動かない。
「……ここは」
どうにか目を開けると、見知らぬ街が眼前に広がっていた。つい先程まで俺は森の奥にいたはずだ。一体どうして。あの光は俺を此処に導いたというのか。殺すつもりではなく。なら、何も出来ない俺に何をさせようとする。
まずは起きよう。それくらいは出来る。身の回りはどうなっている。特に異常はないみたいだ。いつも大事に持っている大きな鞄も横に置いてあった。中身も全てある。ああそうか、俺に戦えというのか。この鞄中は装備品で詰まっている。これは俺の宿命なのだろうな。どれだけ逃げてもまたここに連れて来られるだろう。諦めるしかない。戦って死のう。
時間は夜か……街の入口付近には見張りはいないのか。不用心か、それとも丁度交代の時間か。単にさぼっているのか。
「よし……」
ㅤ起き上がり、服に付いた土を払う。ふう、街にはすんなりと入ることができるな。と思った矢先に二人組の男がこちらに来た。体が大きいのと小さい二人組だ。
「あ? ここで突っ立って何してんだ?」
ガタイのいい方は喧嘩腰で話しかけて来た。
「……これから街に入るところだ」
気付いたらここにいた、なんて話は通じないだろう。意味がわからないなと言われてお終いだ。
「ふぅん、お前見ない顔だな。余所者ってところか」
「まあ、そうだな」
事実だ。特に隠す必要もないだろう。実に都合が良い。
男は周りを見渡しこう言った。
「へっ、見張りはいねえようだな。余所者ってのならそれなりに金は持っているはずだぜ」
なるほどそう来るか。どこの世界も余所者に厳しいものだ。ここも例外ではない。
「やろうぜ、相棒」
「ああ、任せときな」
小さい男の懐から単発式拳銃が取り出された。俺は即座に反応し、持ち手の腕を蹴った。指から離された銃は草むらに落ちる。
「イダァ!?」
「んなっ、なんだと!? 野郎、ただもんじゃねえ!」
大きい方がこちらを目掛けて殴ってくる。俺はそれを躱し、背負い投げをした。
「く、クソがァッ!」
小さい男は形振り構わず突進をしてきた。それを受け止め、張り倒す。
「……その辺にしておけ。次、抵抗したらただじゃ済まない……!」
二人組は降参のポーズを取った。ここらで終わらせるか。
「さて、この街を案内してもらおうか。なんせ、俺は余所者なのだからな」
俺は腕を組みながら二人に命令した。
「……。断ると言ったら」
「そうだな、両腕が吹き飛ぶと考えておけ」
落ちた銃を拾いつつ言った。
「ヒェッ⁉︎」
気持ち悪い。情けない声を出すな。
「これは没収だ。今後こういうことはしないことだな」
「わ、わかりやした……」
「では案内してもらおう。……それとこの街について知っていることを洗いざらい話せ。でなければ……わかるよな?」
再び銃をちらつかせながら言う。彼らはもう抵抗する気もなく、腰を抜かしているのでこれ以上は必要ないか。
彼らが話した情報の結果、ここが過去であることがわかった。俺が生きていた年はエストラル暦九八八年。この世界の年はエストラル暦九六三年。つまり二十五年前。この街はランタと言う。俺の知らない街だった。様々な土地を歩いてきたが、それでも知らない街だったのだ。その理由を思い出した。確か昔よく歴史の本を見ていたな。ああそうだ、その本に書いてあったのだ。丁度この年にこの街はある一体の龍によって破壊されていることが。だから知るわけがない。破壊された街にわざわざ近寄ることなどしないからな。
引き続きこの街の情報を整理しよう。人口は少なく、街の雰囲気は薄暗い。夜だということもあるだろう。常に空は雲によって覆われている。外灯も微妙に暗い。薄暗さがこの街の特徴なのだろうか。そして何度も言うが、寒い。
それはともかく、こいつらから聞いた話だと俺と同職が多いらしい。俺の職業は狩人だった。今後するつもりはなかったんだがな。
ひとまず、狩人が集まっているところへ行こうとした。
「どのへんに狩人がよく集まる場所がある」
「そいつァ、酒場さ。ほらあそこだ」
指を指された方向を見ると、酒場の看板があった。確かに酒場の周辺では多くの狩人が屯っている。弓を持つ者、銃を持つ者、長剣を持つ者、などなど。
「ふん、ご苦労だった。もう帰っていいぞ」
ㅤこれ以上こいつらと付き合っていても無意味だろう。
「へ、へい」
「……ああ、さっきも言ったが二度とするなよ。例え俺がいなくともな」
「ぐぅ……」
苦虫を噛んだような顔をしていた。またやろうとしていたのか。まあ、もう関わることはないだろう。ああは言ったが、好きに生きるといい。
二人と別れ、酒場に入るとこれまた沢山の同職達を見かけた。酔っ払って奇声をあげていたり、作戦を練っている連中もいたり、どいつもこいつも個性的な感じだ。あえて言うなら俺は没個性的に突出したものはない。ただ狩場で生きるか死ぬか、それだけだった。
店主らしき人物に話しかけて見ることにした。
「中々面白い店だな」
思ってもいない事を言う。面白い、というのを実は良く分からないのだ。昔の知り合いが俺の事を面白い奴だと言った。だから俺もそれをただ受け売りにして言っているだけに過ぎない。
「いらっしゃい。見ない顔だね。新参か? ここは犯罪沙汰にならなければ何してもいいのさ。彼らだって普段ストレスの溜まる仕事をしているからね。ここで気軽になれるのならそれが私の本望さ。……見るところあんたも狩人のようだね。どうだい、一杯は無料にしておくよ」
「いや、俺は下戸だ。水で良い」
「そうかい、そりゃ残念だ」
店主は少し不満げであったが、水を出してくれた。
「よく狩人が集まるもんでね、何かがあったときにここによく依頼が来るもんさ。例えば畑に害獣とか出没した時とかね。それを受け付けている仕事もしている」
「そうか……」
飲み切った後、周りを見渡す。
「良かったら、ここにいる誰かを捕まえて一緒に狩りに行ったらどうだい。あんた余所者なんだろ? ここの詳しい連中と一緒なら生存確率も上がるだろうしよ」
「……そうだな、そうさせてもらう」
別に俺一人でもどうとでもなるもので、死ぬつもりなのだが、折角勧めてもらったものを拒否するのはどうかと思う次第だ。
「んじゃ、そこにある板に名前を書き込んでおいてくれ。すぐに集まるさ。飢えてる連中が沢山いるんだからよ」
できれば、血気盛んな連中とは組みたくないがな。そういう奴と上手くやれる気はしない。もしそうだとしたら俺はまた見捨ててしまいそうだ。
「ああ……」
板に俺の情報と狩りに行くことを書き込み、しばらく近くにじっとしていると男一人、女二人が来た。早いな、もう来たのか。
さて、彼らとどう話すべきだろうか。
次回予告
彼は一人の男と二人の女と出会った。一生最期まで付きまとうこととは知らずに。彼らはまず自己紹介をした。そして狩りへと向かった。
次回、LIVING LEGEND 第一説 出会い
因縁の終わりの始まり。