誤解
−ほのかside−
何故あの暴走族が水美を疑うのかわかんない。水美は昔から体が弱いから学校でもあまり動いたりはしない。まぁ喧嘩はもっぱら強いけど……。
体が弱いのに加え内気な性格だし、虐めとかは一番嫌ってる。
さっきの柊さんの出来事でイライラしていた私は、無意識に唇を噛んでたらしく、水美は焦りながら唇を心配してきた。
唇より自分の心配してください。
誰でも思います、はい。
ふと目の前にいる水美がネクタイを緩めながら溜め息をはいた。
妙に色っぽすぎる。周りにいる生徒を見れば、殆どが魅了されてて、恥ずかしそうに俯く人がパラパラいる。
視線を水美に戻すと、悲しい顔をしてた。
勘違いしてるなこの人…。
エロい事を指摘してあげるとお世辞はよしてなんて言ってくる。
無自覚滅びろー!
「水美、無自覚すぎ」
「は?」
「自分の事可愛くないとか思ってない?」
「可愛いとか思ったことないかな…、私顔面崩壊してるから」
と言いながら悲しげに微笑む姿が綺麗。
私は水美のスッピン見たことあるけど、顔面崩壊どころか整い過ぎて言葉を失った事がある。
「ダメだよ自分を卑下しちゃ!水美はスッピンになったら」
言葉でなんか表せないんだから。
「ほのかは私を美化しすぎだよ…、でもありがとう。嬉しい」
金髪がかった茶色い髪がフワリとたなびいて、儚いその笑顔に陰りをつくらせた。
何でこんなに悲しい笑顔しかつくらないんだろう。
「…」
私は明るい笑顔をした水美を一度も見たことなんかない。普段の顔も悲しげに歪まされていて、スッキリとしたのなんて見たことなんかない。
「ほのか?」
頼りない小さな声が私の名前を呼ぶ。
「あ、あぁ。行こ?次理科だし」
「そうだね」
溜め息を含んだ声は廊下の空気に溶け込んでいく。
彼女の体は弱かった。
彼女は病院から出れなかった。
ある日、彼女の兄が仲間を連れてきた。
彼女は友達が欲しくなった。
彼女は久々に学校へ通った。
クラスメイトは彼女を大切にした。
彼女に友達が出来た。
彼女は中学生になった。
クラスメイトは彼女を大切にした。
彼女はある目標を立てた。
3年間、絶対に病院に戻らない。
彼女は宣言通り3年間病院には戻らずに強く生きた。
彼女は兄の所属する暴走族に入った。
彼女は強くなった。
そして彼女は鳳凰と呼ばれるようになった。
彼女は町で恐れられた。
彼女は強すぎた。
人々は彼女を悪魔と呼ぶようになった。
彼女は悲しくなった。
人々は彼女を虐げた。
彼女は傷ついた。
人々は彼女を恐れた。
ある日
彼女の所属する暴走族が厳重に彼女を守った。
人々はさらに彼女を虐げた。
彼女はさらに傷ついた。
彼等は必死で彼女を守った。
そしてある日
彼女は消えた。
彼等は探した。
兄は必死に探した。
兄と彼等は見つけた。
彼等は彼女を隠した。