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特別目的が有るわけでもない。
久遠の一日は、街を徘徊して終わる。
自宅近辺の街から隣町。そのまた隣町までひたすら歩いて終わる。
初めは迷子になりかけて、交番によくお世話になったものだが、今ではそこらの野良猫より道が詳しいだろう。
道だけでは飽き足らず、人が通れそうな場所は全て把握済み。
おかげで、組織に追われても尚、今、こうして平気でいられる。
うまいこと捲けるのだ。
あいつの記憶力にも驚いたが。
道は当然。裏道も当然。獣道も当然。
そして、そこらの標識や看板、店の名前、場所、規模、位置まで全て把握している。
人も物も生き物も。
だからこそ、あいつは被検体だったのだろう。
いや、被検体だったからこそか。
たまに、体に血を付着させて帰ってくる。
それでも本人はたいした怪我をしていないため、ただの喧嘩だと知る。
力が強い。それは重々承知していた。
人体実験。
体の細胞の活発化。
自己治癒能力の発達。
筋力の強制強化。
潜在能力の引き出し。
久遠は、「最強の人間」を生み出す為に産れ、育てられた実験体。
久遠で、____人目。
今日は泣きたくなった。
昨日は怒りたくなった。
明日は何がしたくなる?
昨日はチキンライスを食べた。
今日はトーストを食べた。
明日は何を食べる?
帰りたい。
帰りたくない。
お腹すいた。
お腹すいていない。
叫びたい。
叫びたくない。
声が出ない。
声が出せない。
見上げた空は、真っカに染まっていた。
次第にそれは霞んでいった。
人間の目という部位に熱い何かを感じて。
ポタリ。
ポタリ。
こぼれるそれは、何。
水。
水にしては、温かい。
「何、泣いてんだ?」
振り返ったそこにいたのは、
「真っクロ」
まっクロくろすけ。
小説感皆無。
お久しぶりでございます。生きております、水城です。
これに小説という形を求めてはいけないです。
ただのお話。はい。そうです。