エピソード8 第一層・崩壊の足音
夜の空気は重かった。
封印ダンジョンの入口は、赤い光に包まれている。
結界の破片が宙に浮かび、不安定に揺れていた。
「本当に行くの?」
アリアの声は震えていた。
「ここで止めなきゃ、もっと広がる」
ガウタムは静かに答える。
足を踏み入れた瞬間、視界が歪んだ。
【エリア侵入確認】
【第一層:崩壊進行中】
【敵対存在:複数】
地面がひび割れ、黒い霧が立ち上る。
その中から、歪んだ魔物が現れた。
本来の形を保てず、何かに侵食されている。
「普通の魔物じゃない……!」
アリアが剣を構える。
次の瞬間、魔物が跳躍した。
速い。
だが――
ガウタムの視界に、赤い軌道が見える。
【未来予測:0.8秒】
「右へ」
短い指示。
アリアは反射的に動き、攻撃を回避する。
ガウタムは一歩踏み出した。
封印の一部が、内側から解ける。
拳を振るう。
衝撃波が走り、魔物は霧のように崩れた。
だが、消える瞬間。
魔物の口が、不自然に歪む。
『記録者……また選ぶのか』
低い声。
ガウタムの背筋が凍る。
「……また?」
その言葉の意味を考える間もなく、
地面が大きく揺れた。
第一層の奥から、巨大な気配が近づいてくる。
【警告】
【第一層管理個体:覚醒】
【封印率:12%】
12%。
それは、限界に近い数字だった。
闇の奥で、二つの赤い眼が開く。
まるで――
彼を待っていたかのように。巨大な影が、ゆっくりと姿を現す。
第一層管理個体――
それは、ただの魔物ではなかった。
黒い翼。
砕けた王冠。
そして――見覚えのある瞳。
「……そんな、まさか」
アリアの声が震える。
その存在は、ゆっくりとガウタムを見下ろした。
『やはり、お前か。記録者』
次の瞬間――
【隠された記録:完全解放】
【前回の終焉:失敗】
【原因:選択ミス】
視界が真っ赤に染まる。
崩れ落ちる城。
泣き叫ぶ人々。
そして――
自分の手で、誰かを突き飛ばす光景。
「……違う」
鼓動が暴れる。
『今回も、同じ選択をするのか?』
黒翼の存在が、静かに問いかける。
【新規選択肢解放】
▶ 力を完全解放する
▶ 封印を維持する
制限時間:10秒
9
8
7
アリアが叫ぶ。
「ガウタム!!」
カウントが進む。
3
2
そして――
1
選択結果――
【?????】
第一層が、白い閃光に飲み込まれた。




