エピソード16 玉座の記録者
落下は、突然止まった。
音もなく。
衝撃もなく。
ガウタムは静かに着地する。
そこは、塔の最上階。
円形の空間。
壁は存在しない。
ただ、無限に続く空。
その中心に――
一つの玉座。
黒でも白でもない。
光を吸い込み、同時に放つ奇妙な質感。
融合率:100%
安定率:不明
小さな“目”が、玉座の上空に浮かぶ。
今は一つだけ。
『最終試験』
文字が空に刻まれる。
『座るか、壊すか』
ガウタムは玉座を見つめる。
触れていないのに、
記憶が流れ込む。
無数の世界線。
選ばれた者たち。
そして――
座った瞬間に、
“観測者”へと変わった存在。
「……代替装置か」
玉座は、王の席ではない。
監視装置。
世界を記録し、
逸脱を修正する存在。
つまり。
前の観測者も、
ここに座った“誰か”。
足元の影が揺れる。
黒い翼が、ゆっくりと広がる。
誘惑ではない。
理解。
『座れば、全てを救える』
声が響く。
今度ははっきりと。
『座らなければ、崩壊は止まらない』
遠くの空がひび割れる。
複数の世界が、同時に軋む。
選択を迫られている。
ガウタムは静かに息を吐く。
「救うために縛られるのは――違う」
一歩、玉座へ近づく。
だが。
座らない。
拳を握る。
紫の光が溢れる。
「観測は、支配じゃない」
その瞬間。
玉座に亀裂が入る。
小さな目が大きく見開かれる。
『異常』
『後継拒否』
空間が震える。
玉座が崩れ始める。
だが、崩壊の奥。
その下に、もう一つの構造が見える。
巨大な機構。
玉座は“端末”に過ぎない。
本体は、さらに上。
空のさらに向こう。
ガウタムは笑う。
「なら――本体を壊す」
上空の目が増殖する。
無数の視線。
無数の圧力。
だが彼は、もう迷わない。
紫の光が爆発する。
塔が揺れる。
空が裂ける。
玉座が完全に崩壊する直前――
新たな声が響く。
『適格者確認』
静寂。
世界が止まる。
『観測者候補、再評価開始』
ガウタムの瞳が、ゆっくりと輝く。
これは終わりではない。
昇格の拒否は、
挑戦の開始。
――続く




