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風鈴供養

作者: 庭師∽mile
掲載日:2025/12/29


 ――ちりん。

 ――ちりりん。

 ――りんりりぃん。


 ◇◇◇


 とある町中に、長い間だれも住んでいない廃屋が存在する。


 建屋内には、人々が勝手に持ち寄った無数の風鈴が、天井や柱に所狭しと吊るされている。

 風鈴の短冊には、様々な人名が書かれているそうだ。


 ◆◇◇


 その地域には昔から毎年、「風鈴供養」を行う寺が存在した。

 風鈴の短冊に故人の名前や戒名を記入し、寺に吊るして供養するという。


 風鈴が一回鳴るごとに、死者と遺族の双方に功徳と安寧がもたらされる。

 ただし申し込むには、寺に供養料を納めなければならない。


 だからだろうか。

 ある日、空き廃屋に勝手に侵入し、自作の風鈴を吊るして死者を悼む者が現れた。

 寺を通さなければ無料で供養できる、と考えたらしい。


 素人が真似事で供養しても、寺と同じご利益があるはずはない。

 にも関わらずその話はいつの間にか地元住民に漏れ伝わり、真似する者も相次いだ。


 我流供養はやがて地域の俗習となり、吊るされた風鈴の数は年々増えていった。

 噂がさらに広まると、ついには県外の来訪者も増え始めた。


 こうして、廃屋は風鈴屋敷へと姿を変えた。

 そして少なくとも数年前まで、そこは供養の場であり続けたという。


 ◆◆◇


 噂の伝達が人伝からネットへと移るにつれ、いつしか妙なことになった。

 死者を悼む風鈴屋敷の噂が、全く異なるものに変質していったのだ。


 ――憎い相手の名前を風鈴の短冊に書いて廃屋に吊るせば、そいつを呪い殺せる、と。


 どこでどう話が捻じ曲げられたのか。

 今や短冊に書かれる人名は、死者から生者へと変わった。


 廃屋はもはや、怨嗟の吹き溜まりと成り果ててしまった。

 誰かの破滅を願う風鈴の数は、ここ数年で急激に増殖を続けているという。


 ◆◆◆


 さて。

 もともと風鈴は大陸から伝わってきた、占いや厄除けの道具が源流にある。

 いわば霊的な媒介だ。


 その風鈴に、呪怨の意を込めたら一体どうなるか。

 そしてそれが一ヵ所に大量に集まってしまったら。


 幸い今はまだ、何も起きていない。

 だがいずれ弔いの祈りの数を、呪いの念が上回る日が来る。


 その時、均衡は決壊し、呪いは成就してしまうのではないか。


 その瞬間が来る日は、そう遠くない。

 我々にできることはたった一つ。


 自分の名が短冊に書かれていないことを、今は祈ろう。


 ――ちりん。

 ――ちりりん。

 ――りんりりぃん。



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