風鈴供養
――ちりん。
――ちりりん。
――りんりりぃん。
◇◇◇
とある町中に、長い間だれも住んでいない廃屋が存在する。
建屋内には、人々が勝手に持ち寄った無数の風鈴が、天井や柱に所狭しと吊るされている。
風鈴の短冊には、様々な人名が書かれているそうだ。
◆◇◇
その地域には昔から毎年、「風鈴供養」を行う寺が存在した。
風鈴の短冊に故人の名前や戒名を記入し、寺に吊るして供養するという。
風鈴が一回鳴るごとに、死者と遺族の双方に功徳と安寧がもたらされる。
ただし申し込むには、寺に供養料を納めなければならない。
だからだろうか。
ある日、空き廃屋に勝手に侵入し、自作の風鈴を吊るして死者を悼む者が現れた。
寺を通さなければ無料で供養できる、と考えたらしい。
素人が真似事で供養しても、寺と同じご利益があるはずはない。
にも関わらずその話はいつの間にか地元住民に漏れ伝わり、真似する者も相次いだ。
我流供養はやがて地域の俗習となり、吊るされた風鈴の数は年々増えていった。
噂がさらに広まると、ついには県外の来訪者も増え始めた。
こうして、廃屋は風鈴屋敷へと姿を変えた。
そして少なくとも数年前まで、そこは供養の場であり続けたという。
◆◆◇
噂の伝達が人伝からネットへと移るにつれ、いつしか妙なことになった。
死者を悼む風鈴屋敷の噂が、全く異なるものに変質していったのだ。
――憎い相手の名前を風鈴の短冊に書いて廃屋に吊るせば、そいつを呪い殺せる、と。
どこでどう話が捻じ曲げられたのか。
今や短冊に書かれる人名は、死者から生者へと変わった。
廃屋はもはや、怨嗟の吹き溜まりと成り果ててしまった。
誰かの破滅を願う風鈴の数は、ここ数年で急激に増殖を続けているという。
◆◆◆
さて。
もともと風鈴は大陸から伝わってきた、占いや厄除けの道具が源流にある。
いわば霊的な媒介だ。
その風鈴に、呪怨の意を込めたら一体どうなるか。
そしてそれが一ヵ所に大量に集まってしまったら。
幸い今はまだ、何も起きていない。
だがいずれ弔いの祈りの数を、呪いの念が上回る日が来る。
その時、均衡は決壊し、呪いは成就してしまうのではないか。
その瞬間が来る日は、そう遠くない。
我々にできることはたった一つ。
自分の名が短冊に書かれていないことを、今は祈ろう。
――ちりん。
――ちりりん。
――りんりりぃん。




