02 初期構想
ここからは、当作の舞台裏についてつらつら語らせていただこうかと思います。
蛇足かつ野暮な語らいに終始するやもしれませんが、多少なりともお楽しみいただけたら幸いでございます。
まずは、当作の初期構想についてとなります。
自分は当作に着手する際、最終回までの構想をぼんやり考案しておりました。
その内容は、以下の通りとなります。
①森辺で美味なる料理の普及に成功し、同胞として認められる。スン家を打倒する。
②宿場町における屋台の商売で成功を収める。町の人々と相互理解に努める。トゥラン伯爵家を打倒する。
③城下町の貴族たちに調理の手腕を認められる。森辺の民の立場が改善される。
④モルガの山の聖域に踏み入り、野人たちに料理をふるまう。野人たちと和解して、ジェノス壊滅の危機が去る。
⑤外部から高名な貴族(王族など)がやってきて、召し抱えられそうになる。その問題をクリアーしたのち、アイ=ファと結ばれてハッピーエンド。
以上となります。
基本的には、料理をふるまう場がどんどんステップアップしていき、最後の一歩手前で原始的な調理に立ち戻り、最後に高名な貴族(王族など)を相手取る、という構図でございます。
実際に執筆を進めながら構想を固めていった部分もありますが、大雑把な流れは以上のような内容でございました。
こうして完結を迎えたのちに振り返っても、それほど大筋はずれていないように感じられます。
ただ、初期構想の何十倍もの質量で話が広がり、寄り道の嵐だったぐらいでございます。
なおかつ、執筆前には大陸アムスホルンの設定もまったく固まっておりませんでしたので、山の野人=聖域の民という構想もありませんでした。
野人というのはただの危険な蛮族で、ヴァルブの狼はその仲間、マダラマの大蛇に至っては食材というイメージでございました。
聖域の民の構想が浮かんだのは、作中において「野人」に「赤き」という言葉が付け加えられた時期となります。
それがいったいいつぐらいの時期であったのかは、自分も記憶に残されておりません。
ともあれ、自分はどれだけ寄り道をしても初期構想の大筋に従って書き進めているつもりでありましたため、赤きの民のティアが登場した頃には物語のクライマックスが近づきつつあるという意識でございました。
そこで、大罪人シルエルの再来、外交官フェルメスの登場、シルエルの隠し子であるガーデルの登場と、最終回に向けた準備を粛然と開始したわけでございます。
では、それらの時期を確認してみましょう。
ティアが登場したのは第33章『大神の子』で、公開されたのは2018年1月でございました。
シルエルが再来した第39章『南の実りと東の颶風』は同年の11月、フェルメスの登場は第40章『運命の使者』で同年の12月、ガーデルの登場は第44章『徒然ならぬ日々』で翌2019年の5月ということになりました。
そして同年12月の第48章『太陽神の復活祭、再び(下)』では「聖アレシュの苦難」の演劇を披露して、翌2020年の3月には第49章『同じ天の下で』で聖域の民のエピソードも完了し、ついに最終回に向けた準備も万端という状態に相成ります。
自分としてはティアの登場から2年以上もかけて、じっくり準備を整えたつもりでございました。
そして実際に完結を迎えたのは、2025年の12月でございます。
最終回の準備を整えた2020年の3月から実際の完結まで、実に5年半以上の歳月がかけられたことになります。
つまりは、初期構想の①~④を達成するのに5年半ほどの歳月がかかり、そこから⑤に至るまでに同程度の歳月がかけられたわけでございます。
最終回の準備を終えたところでちょうど折り返しというのは、なかなかに驚くべき事態でありました。
これはひとえに、「最終回の準備は整ったから、思い残すことがないように書きたいことを書き尽くそう」という思いのあらわれでございます。
おかげさまでこのような大作に成り果ててしまいましたが、自分としては満足です。
最後までおつきあいくださいました皆様にも、お楽しみいただけていたら幸いでございます。




