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ぼっちと宇宙戦艦が異世界で  作者: あおおに


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ぼっちキングの大型討伐

「さて『兵庫』、状況を教えてくれ。……次は、ただのコーヒーを淹れるだけの任務じゃなさそうだ」

 リーズの街の喧騒が遠のき、私たちは深い森を抜け、切り立った岩壁が続く「銀嶺の回廊」へと足を踏み入れていた。


 背後には、今回のパーティーメンバーであるエルザと、彼女が信頼を置く二人のベテラン冒険者、重戦士のバルカスと魔術師のセーラ。

 皆人カイトの冒険者ランクが「C」へと昇格した直後、ギルドから舞い込んできたのは、指名依頼に近い特殊任務だった。

【依頼:銀嶺の暴君『ミスリル・トライホーン』の討伐】


「カイト、あんたがCランクに上がった瞬間にこの依頼が来るとはね。ギルドもあんたを相当『便利屋』扱いしてる証拠だよ」

 大剣を肩に担いだエルザが、不敵な笑みを浮かべる。その瞳には、かつてないほどの高揚感が宿っていた。


 ターゲットは、体長5メートルを超える巨大な魔獣。

 全身が天然のミスリル鉱石を含んだ硬質な外殻に覆われ、額からは三本の巨大なミスリルの角が突き出しているという、まさに「動く要塞」だ。


「……ミスリルのドロップ、か。皆、目が血走ってるな」

 皆人が呟くと、重戦士のバルカスがガハハと笑った。

「当たり前だぜ、カイト! あのサイズのトライホーンを仕留めりゃ、ドロップするミスリル原石で、俺たちの装備を全部ミスリル製に新調してもお釣りが来るんだ!」


 だが、報酬が破格なのは、それ相応の「死」が隣り合わせだからだ。

 過去に挑んだBランクパーティーが、その一突きで全滅したという記録もある。

『カイト、地質スキャンの結果が出ました。前方約800メートル、高密度の魔力反応を確認。対象の質量推定、12トン。……注意してください。その体表は、物理干渉を減衰させる特殊な「魔力偏向特性」を持っています』


 脳内に響く「兵庫」の冷静な警告。皆人は、ジャケットの下に隠した多機能デバイスの出力を最大へと引き上げた。

 岩壁を曲がった瞬間、世界が震えた。

「――来たわよ!」

 セーラの叫びと同時に、土煙を巻き上げながら「それ」が姿を現した。


 日光を反射して銀色に輝く、巨大な体躯。

 太い脚が地面を蹴るたびに、周囲の岩が砕け散る。

 中央の最も長い角は、それ自体が一本の槍のように鋭く、左右の角は湾曲して外敵を絡めとる鎌のようだ。

「散れッ!」

 エルザの指示が飛ぶ。


 ドォォォォォン! と、トライホーンがさっきまで皆人たちがいた場所に激突した。岩壁に巨大な風穴が空く。

「バルカス、正面を受け持て! セーラ、足止めを! カイト、あんたは隙を見てあの硬い殻をぶち抜く『何か』を頼むわよ!」


「了解だ。……『兵庫』、スナイピング・モード。対象の関節部、および外殻の結晶構造が脆いポイントを特定しろ」

『了解。構造解析を開始……。カイト、警告です。通常の弾丸では跳ね返されます。ミスリルの純度が高すぎて、こちらの運動エネルギーを魔力として拡散させています』


「なら、こっちも『魔法』と混ぜるしかないな」

 皆人は、特別に用意した「高周波振動弾」を愛銃に装填した。これは、この世界の魔石を極小まで粉砕し、ナノマシンで制御された振動子と組み合わせた、カイト特製の「対重装甲兵器」だ。


 戦闘開始から三十分。

 状況は、控えめに言って「最悪」だった。

 エルザの渾身の斬撃さえ、トライホーンの脚の殻に白い筋をつけるのが精一杯だ。バルカスの大盾は、獣の咆哮に伴う衝撃波ですでに歪んでいる。

「くそっ! なんだってこんなに硬いんだ! まるで山と戦ってるみたいだぜ!」


 トライホーンは、その巨体に似合わぬ俊敏さで暴れまわる。

 三本の角が赤く光った。

「回避しろ! 広域放電が来るわ!」

 セーラの警告が間に合わない。

 角から放たれた銀色の電光が、地面を走り、パーティーを襲う。


「ぐあっ!?」

 バルカスが吹き飛ばされ、それを庇おうとしたエルザも姿勢を崩す。

「エルザ!」

 カイトが飛び出した。


「『兵庫』、リミッター解除。慣性制御を私兵装に転送!」

『警告。バッテリー残量低下を招きます。……実行します』

 皆人の体が、重力を無視したような動きで宙を舞った。


 トライホーンの鼻先を掠めるように飛び越え、至近距離から銃声を響かせる。

 ――シュパァァァァン!

 高周波振動弾が、トライホーンの右肩の殻に命中した。


 バキッ、と乾いた音が響き、硬質なミスリルに小さな亀裂が入る。

「……効いた!? カイト、今のをもう一発!」

「無理だ、一発ごとにチャージがいる! それに……」

 皆人の視線の先で、トライホーンの目が血のように赤く染まった。

 怒りだ。


 山のような巨体が、標的を皆人の一人に絞り、猛然と加速する。

 生死を分ける「一点突破」

「逃げなさい、カイト! それは受け止められないわ!」

 セーラの魔術が空しくその背中で弾ける。

 トライホーンはもはや、小細工が通じる相手ではなかった。


『カイト、直撃まであと3秒。回避不能。……提案します。シールドの全出力を前方に集中し、角の『接合部』にカウンターを。0.01秒の誤差で、あなたの腕は消し飛びます』

「やってやるよ。……『兵庫』、同期しろ。俺の視界にお前の演算を上書きしろ!」


 視界に、無数の赤いグリッド線が走る。

 突進してくる巨大な角。その根元、わずか数センチの「魔力の流れの結び目」。

 皆人は逃げなかった。逆に、一歩踏み出す。

「おおおおおっ!」

 咆哮。


 皆人の左腕に装備された小型シールドが、トライホーンの中央の角と激突した。

 ガギィィィィィィィィィィン!!

 鼓膜を突き破らんばかりの金属音が響く。

 皆人の足元の地面が陥没し、衝撃波で周囲の砂利が霧散した。

「……捕らえた」


 シールドに仕込まれたナノマシンが、一瞬で角の振動周期を解析し、逆位相の振動を叩き込む。

「エルザ! 今だ、そこだ!」

 皆人がこじ開けた一瞬の「隙」。

 角の根元に生じた、目に見えないほどの微細な亀裂。


「待ってたわよ、カイト……最高のパスだわ!」

 空中へ高く跳躍したエルザが、大剣を両手で握りしめる。

 彼女の全魔力が、剣身に集束し、青白い炎となって燃え上がる。

「これで……おしまいよ! 『ヴァルキュリア・ドライブ』!!」


 雷鳴のような轟音と共に、大剣がトライホーンの脳天へと振り下ろされた。

 カイトが作った「亀裂」を起点に、エルザの剣がミスリルの鎧を断ち割る。

 銀色の破片が、宝石のように飛び散った。


 ズゥゥゥゥゥン……。

 大地を揺るがす地響きを立てて、銀色の巨獣が沈んだ。

 静寂が訪れる。

 皆人は、その場に膝をついた。

 左腕のシールドは火花を吹き、ボロボロに壊れている。


「……はは、これの修理代、ミスリルで出してくれるんだろうな、エルザ」

「当たり前じゃない。あんたがいなきゃ、今頃私たちはこの獣の胃袋の中よ」

 エルザが、息を切らしながら歩み寄ってくる。彼女も満身創痍だが、その顔には晴れやかな笑みが浮かんでいた。


 バルカスとセーラも、ふらふらになりながら合流する。

「信じられねえ……。あのトライホーンを、Cランクのパーティーが、死者も出さずにかよ」


「カイトさんの、あの防御……。あれは魔法なの? それとも……」

「……企業秘密、かな」

 皆人は、空を見上げて微笑んだ。

 空には、夕焼けに染まる月が見える。この過酷な戦いを経て、彼はまた一つ、この世界に深く根を張ったことを実感していた。


『カイト、お疲れ様です。ミスリルの回収予測……純度98%。これで艦体の外部装甲の修復と、新しいエネルギーコアの製造が可能です』

「そいつは重畳だ。……でも、まずは」

 皆人は、腰のポーチから小さな小瓶を取り出した。


 中身は、先日のキャンプの際に開発した、疲労回復に特化したアロマオイル。

「……ミラに、最高の土産話と、このミスリルの塊を持って帰らなきゃな」

「賛成!」


 冒険者たちの笑い声が、静まり返った銀嶺に響き渡る。

 過酷な戦いの果てに手に入れたのは、莫大な富だけではない。

「自分たちの力で生き抜いた」という、確かな誇り。

 そして、互いの背中を預け合える、かけがえのない仲間たち。


 皆人の物語は、この銀色の戦利品を糧に、さらに高く、遠くへと加速していく。

【今回のクエスト達成報酬】

 ミスリル原石(特級): 250kg

 カイトの評価: Cランク上位へ急上昇

 エルザからの信頼度: 測定不能カンスト


「……さて、『兵庫』。帰ったら、このミスリルで何を作るか会議だ」

『了解しました。……まずは、あなたの壊れた左腕の修理からですね、カイト』

 夕闇に包まれる回廊を、四人の影がゆっくりと、しかし力強く街へと向かって歩き出した。

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