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ぼっちと宇宙戦艦が異世界で  作者: あおおに


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ぼっちキングの休日2

 数日後、皆人はリーズの街の門を潜っていた。

 背負った大容量のバックパックからは、微かに焚き火の煙と、瑞々しい川の匂いが漂っている。

「……まずは、これの換金だな」


 皆人は足早に冒険者ギルドへと向かった。

 目的は、キャンプの「副産物」の整理だ。自給自足のつもりが、襲いかかってきたモンスターを返り討ちにし続けた結果、手元には結構な量の魔石が残っていた。


 ギルドの扉を開けると、いつもの喧騒が皆人を迎える。

 彼は真っ直ぐに受付カウンターへと向かった。そこには、真面目そうな眼鏡の奥で鋭い瞳を光らせる、受付嬢のミラが座っていた。


「おかえりなさい、カイトさん。数日お姿を見かけませんでしたが……北方の山岳地帯へ行っていたという目撃情報が入っていますよ」

 ミラは手元の書類から目を離さずに言った。その声には、少しだけ「勝手な行動への釘」が含まれている。


「ああ、ちょっとリフレッシュにな。……これ、買い取りをお願いしたいんだが」

 皆人がカウンターに置いたのは、あの「魔魚デモン・フィッシュ」の銀色に輝く鱗と、デザート・ロック・エイプの魔石、数体分。

 それを見た瞬間、ミラのペンが止まった。


「……カイトさん。これ、魔魚の鱗ですよね? それも、変異種の。……これだけの枚数、まさか一人で討伐したんですか?」

「いや、討伐っていうか……夕飯のおかずを釣ってたら、向こうから襲ってきて。あと、岩猿の方は風呂の邪魔をされたから、少しばかり追い払っただけだよ」


 皆人は事実を述べたが、ミラの表情はどんどん険しくなっていく。

「おかず? 邪魔? ……カイトさん、あの地域は現在、冬眠明けの魔獣が活性化していて、ᗷ級以上のパーティでなければ立ち入りを推奨していない危険地帯ですよ。そこで何をしていたんですか?」


「だから、キャンプだよ」

「……キャン、ぷ?」

 ミラが首を傾げる。この世界の住人にとって、「外で寝る」というのは、野宿を強いられる旅人か、命懸けの偵察任務に就く兵士のすることだ。娯楽としての「キャンプ」などという概念は存在しない。


「ええと、要するに……自然の中で、自分たちの手で生活拠点を作り、現地の食材を楽しみ、星空を眺めて心身を癒す。そういう、高度なレジャーだよ」

「レジャー……魔獣の巣窟で、わざわざそんなことを?」


 ミラの疑念を晴らすため、皆人は必要以上に詳しく説明を始めてしまった。

「まず、テントの設営場所が重要なんだ。風通し、水はけ、そして何より景観。焚き火の火を眺めながら、自分で釣った魚を岩塩だけで焼き上げる。その脂が火に滴る音と香りは、街の高級ギルドでは味わえない。夜になれば、ランタンの灯りの下で静かに読書をしたり、天然の温泉に浸かって……あ、いや、全裸で戦う羽目にはなったけど、基本はリラックスなんだよ」


 皆人が熱を込めて語る「キャンプの魅力」。

 最新のナノテクノロジーを隠しつつ、いかにその不便さが贅沢であるかを説く彼の言葉は、意外な方向に作用した。

 毎日ギルドのデスクワークと冒険者たちの苦情処理に追われているミラにとって、その「非日常的な癒やし」の響きは、あまりにも魅力的だったのだ。


「……自分たちで、火を起こして。星を見ながら、温泉に……。そんな世界が、あるんですね」

 ミラの瞳が、少しだけ潤んだ。

「ああ。特にあの渓谷の朝靄あさもやの中で飲むコーヒー――いや、ハーブティーは格別だぞ。『兵庫』……じゃなくて、俺の勘では、あそこは最高のパワースポットだ」


「カイトさん」

 ミラの声のトーンが変わった。

「……その『キャンぷ』、私も体験してみたいです」

「えっ?」

「ちょうど、有給休暇が溜まっているんです。一人で行くのは危険ですが、カイトさんが引率してくれるなら話は別です。ギルドの安全管理としても、その『キャンプ』が本当に有効なリフレッシュ法か、確かめる必要があります」


「いや、ミラさん、仕事が忙しいんじゃ……」

「話は聞かせてもらったわ!」

 背後から、凛とした声が響いた。

 振り返ると、そこには銀髪を揺らし、長剣を腰に下げた女冒険者、エルザが立っていた。


「カイト、あんた面白いことを計画してるじゃない。ミラがそんなに食いつくなんて珍しいわ。……私も行くわよ、そのキャンプとやらに。最近、魔物斬りばかりで肩が凝ってたのよね」

「エルザさんまで……。いや、あれは結構過酷ですよ? 魚は襲ってくるし、猿は群れで来るし」


「ふん、あんたがいれば問題ないでしょ? ……あ、そうだ。せっかくなら女の子だけで固めましょう。男がうじゃうじゃいると、せっかくの『癒やし』が台無しだもの」

 エルザは楽しそうに笑うと、ギルドの掲示板の方へ向かって声を張り上げた。

「おーい! クレア、リナ! ちょっと来なさい! 面白い遠征(?)があるわよ!」


「ちょ、待て。エルザ、勝手に募集を――」

 皆人の制止も虚しく、腕利きの女冒険者たちが次々と集まってきた。

 皆人の「静かで孤独なソロキャンプ」という夢が、音を立てて崩れ去っていく。

 三日後。

 リーズの街の門の前には、異様な光景が広がっていた。


 中心に立つのは、溜息をつきながら巨大な荷物を背負った皆人。

 そしてその周囲には、期待に胸を膨らませたミラ、エルザ、そして魔法使いのクレアや神官のリナといった、街でも有名な美人冒険者たちが揃っていた。


「……『兵庫』、どうしてこうなった」

『……推測:カイトのプレゼン能力が、対象の深層心理にある「ストレスからの逃避欲求」を過剰に刺激したものと思われます。現在、同行者の期待値は180%を記録しています』


「引率者としての責任、重大だな……」

「カイトさん、準備はバッチリです! 寝袋もギルドの備品で一番いいやつを持ってきました!」

 眼鏡を外し、動きやすい旅装に着替えたミラが、少しはしゃいだ様子で駆け寄ってくる。


「カイト、道中の護衛は任せて。その代わり、夜の料理とやらには期待してるわよ?」

 エルザが不敵に笑いながら、皆人の肩を叩いた。

 皆人は空を見上げた。

 前回は自分一人でサバイバルを楽しめば良かったが、今回は違う。


「……わかったよ。ただし、俺の指示には絶対に従ってもらう。キャンプは遊びじゃない、真剣な『癒やし』なんだからな」

「「「はい、隊長!」」」

 女性陣の元気な返事が響く。

 こうして、皆人の「第二回キャンプ・北方の渓谷編(女子会引率Ver.)」が幕を開けた。


 果たして、彼は彼女たちを守り抜き、無事に「癒やし」を提供できるのか。

 それとも、またしても全裸で魔獣をなぎ倒すような事態に陥るのか。

 皆人の背負ったリュックの中には、予備の食材、予備のテント、そして――人数分の水着が、エルザの強い要望により詰め込まれていた。


「……『兵庫』。索敵範囲を半径2キロに拡大。アリ一匹近づかせるな。俺の平穏なキャンプのために」

『了解しました。……ですがカイト、彼女たちの「お喋り」による騒音は、私の演算では防ぎきれませんよ?』


「……それは、諦めるしかないか」

 賑やかな一行は、朝日を浴びながら北の山へと向かって歩き出した。

 皆人の、本当の意味での「戦い」はここからだった。




 半日ほどの行軍を経て、一行は皆人が「安らぎの地」と定めたあの渓谷へと到着した。

 透き通ったエメラルドグリーンの川面が陽光を弾き、せせらぎの音が谷間に心地よく響いている。


「わあ……! リーズの近くに、こんなに綺麗な場所があったなんて」

 ミラが瞳を輝かせて声を上げた。普段、書類の山に囲まれている彼女にとって、この開放感は何物にも代えがたい報酬だったようだ。


「よし、感心している暇はないぞ。日が暮れる前に拠点を完成させる。……ミラとリナは、あそこの平らな場所の小石を拾って整地してくれ。エルザとクレアは、薪を集めてきて。乾燥した枝を優先してな」


「了解、隊長リーダー!」

 エルザが面白そうに敬礼し、手際よく森へと消えていく。

 皆人はバックパックから、魔法の袋(に見せかけた超圧縮収納)から折り畳み式のテントを取り出した。


「……カイトさん、それは?」

「『家』だよ。数分で建つ」

 皆人が支柱を繋ぎ、一気に立ち上げると、周囲から感嘆の声が上がった。冒険者が使う粗末な天幕とは一線を画す、機能美に溢れた居住空間だ。


 夕刻、キャンプのメインイベントである食事が始まった。

 今回のお品書きは、現地調達したイワナに似た川魚の塩焼きと、持参した干し肉と香味野菜を煮込んだポトフだ。


「……いい匂い。ただの焚き火で焼いただけなのに、どうしてこんなに食欲をそそるのかしら」

 魔導師のクレアが、パチパチとはぜる火を眺めながら呟く。

「それは『スパイス』のせいだよ。空腹と、この景色、そして火を囲むという原始的な高揚感だ」


 皆人は焼き上がった魚を一人一人の皿に盛り分けた。

 一口食べた瞬間、ミラの手が止まった。

「……美味しい。街のギルド食堂の料理より、ずっと贅沢に感じます」

「だろ? 不便を楽しむのがキャンプの真髄だからな」


 食後は、念願の天然温泉タイムだ。

 前回のような「全裸の乱闘」を避けるため、皆人は周囲にナノマシンのセンサーを張り巡らせ、さらにエルザに周辺の警戒を交代で依頼した。


「カイト、あんたは本当に心配性ねえ。ま、その分、私たちは安心して羽を伸ばせるけど」

 そう言って、エルザたちは賑やかに湯船へと消えていった。

 夜、女性たちの楽しげな笑い声が岩壁に反響し、夜空へと吸い込まれていく。


 皆人は一人、少し離れた岩に腰掛け、コーヒーの代わりのハーブティーを啜っていた。

『カイト、同行者全員のバイタルを確認。ストレス指数が平均40%低下しています。今回の「引率」は成功と言えるでしょう』

「……ああ。静かではないけど、これも悪くないな」


 皆人は、テントの側で揺らめく焚き火の火影を見つめる。

 一匹狼だった彼にとって、誰かのために火を熾し、居場所を作るという行為は、思いのほか心地よいものだった。

「次は、もっと本格的な『燻製料理』でも仕込んでみるか……」


 皆人は、明日への小さな野望を胸に、夜の静寂を楽しんだ。

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― 新着の感想 ―
こんなのはハーレム展開じゃない、と思いつつ憧れます。つーか、普通のモテモテ展開よりずっと素敵。
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