ぼっちキングの金稼ぎ
投稿の順番、間違えてました!
こちらが第3話になります!
申し訳ありません!!
翌朝、皆人は安宿の硬いベッドで目を覚ました。
窓から差し込む朝日は、ナノマシンの網膜フィルター越しでも十分に眩しい。
「……おはよう、『兵庫』。昨夜のアルコールによる脳への影響は?」
『皆無です。ただし、エルザ氏との接触によるドパミン放出量は、過去24時間で最大値を記録しました。いわゆる「浮かれ気分」と推測されます』
「……余計な分析だ。それより、今日の予定を立てるぞ」
手元の銀貨5枚。宿代と食事代を引けば、残りは心許ない。この世界の物価を地球の感覚に引き直すと、ゴブリン狩りは「効率の良い日雇い」程度だ。自律型宇宙戦艦の化身たるアバターを維持し、さらに「文明的な生活」を送るには、より高効率な資金源が必要だった。
「ターゲットをゴブリンから一段階引き上げる。ランクᎠからᏟ相当の魔物……『オーク』だ」
『了解。リーズ周辺の森林深部、および湿地帯に生息を確認。個体戦闘力はゴブリンの約12倍。推奨される討伐方法は、小隊による連携ですが……』
「俺一人で十分だ。出力設定を5%まで開放する」
皆人はギルドへ立ち寄り都合の良い依頼を探すも、最低ランクの彼ではまだオーク関連の依頼を受けることが出来なかった。
仕方なく、依頼は無しにオークの魔石納品だけに切り替える。
受付のミラが「もうオークですか!? 無理はしないでくださいね」と心配そうに声をかけてくれたが、彼は軽く手を振って街を後にした。
オークの生息地までそれなりの距離があるが、そこは超高性能なアバターの健脚でぶっ飛ばして行く。
森の深部へ入ると、空気の「重さ」が変わった。
腐葉土の匂いと、獣特有の強烈な脂の臭い。皆人は光学迷彩ドローンを高度30メートルに展開し、俯瞰視点で索敵を開始する。
「……見つけた。だが、先客がいるな」
センサーが捉えたのは、4人組の冒険者パーティーだった。
重厚な盾を構えた戦士、大剣を担いだ男、後方で杖を握る魔導師、そして弓を構えた斥候。装備の使い込み具合から見て、中堅のCランクといったところだろう。
彼らの目の前には、1体のオークがいた。
体高2メートルを越える肥大化した筋肉の塊。
鋭い牙を生やした猪の頭部。
手には粗末だが巨大な棍棒を握り、鼻息を荒くして咆哮を上げている。
「……分析開始。あのパーティーの戦闘行動を記録しろ」
『了解。……非効率的ですね。前衛の心拍数が上昇。魔力の集束速度も遅い。オークの一撃を盾で受けるたびに、骨格へのダメージが蓄積されています』
皆人は茂みに身を隠し、その「死闘」を観察した。
冒険者たちは必死だった。戦士が咆哮を上げてオークの注意を引き、その隙に大剣使いが横腹を叩く。魔導師が呪文を唱え火球を放つが、オークの厚い皮脂に弾かれる。
「……ぐあああッ!」
戦士の盾がオークの棍棒に弾かれ、大きく体勢を崩す。絶体絶命の瞬間、斥候の矢がオークの眼球を射抜き、辛うじて致命傷を避ける。
10分以上の時間をかけ、満身創痍になりながら、彼らはようやく1体のオークを仕留めた。
「はぁ……はぁ……クソ、今日は調子が悪いぜ……」
「馬鹿言え、オークを1体狩るのがどれだけ大変か分かってんのかよ……」
彼らが肩を貸し合いながら、オークの魔石を拾って去っていく姿を、皆人は無機質な瞳で見送った。
(……おかしい。今の戦闘データ、明らかに『非効率』すぎる。あの4人の総出力なら、運動エネルギー変換でもっと早く決着がつくはずだ)
『カイト、それは誤解です。彼らは「人間」であり、あなたのような「超伝導演算回路」も「ナノマシン強化骨格」も持っていません。彼らにとって、今の戦いは文字通りの命懸けなのです』
「……そうか。俺の『1%』は、この世界の『普通』じゃないんだな」
皆人は何かモヤモヤした物を胸に抱えながら、さらに森の奥へと進んだ。
ドローンが新たな熱源を検知する。今度は3体のオークが、倒した獲物の鹿を貪っている。
「『兵庫』、アバターの出力を7%に。魔力シミュレーター、雷属性に固定。局所的な高電圧放電を行う」
『承認。アーク放電、準備完了。対象の神経系を一瞬で焼灼します』
皆人は隠れるのをやめ、堂々とオークたちの前に姿を現した。
オークたちが醜悪な顔を歪め、立ち上がる。同時に、皆人は「杖」を向けることすらせず、ただ指をパチンと鳴らした。
――パシュッ。
乾いた音と共に、紫電が空を走った。
目にも止まらぬ速さで放たれた雷の矢は、3体のオークの眉間を正確に貫通。
脳を直接焼かれたオークたちは、悲鳴を上げる暇もなく、糸が切れた人形のように崩れ落ちた。
戦闘時間、わずか0.8秒。
「……あっけないな」
オークたちの肉体が霧散し、後にゴブリンより一回り大きな魔石を残す。
皆人は倒れたオークの元へ歩み寄り、魔石を拾い集めた。
先ほどのパーティーが10分以上かけて命を削った相手が、自分にとっては「スイッチを押すだけ」の作業。
『カイト、感情の揺らぎを検知。自責の念ですか?』
「いや……ただ、報酬と労力のバランスが崩れすぎていて、少し怖くなっただけだ。これでは『狩り』ではなく、単なる『資源回収』だ」
ゴブリンのそれよりも大きく、深い緑色に輝く魔石。これ1つで大銀貨1枚――日本円で約1万円近い価値がある。
「3万円……か。ものの数分で」
前世の記憶にある、深夜に働いて得た日給。それを一瞬で超えてしまった事実に、皆人は自分の存在がこの世界の理から大きく外れていることを痛感せずにはいられなかった。
皆人がカウンターにオークの魔石3個を置くと、周囲の空気がざわめいた。
「……カイトさん。これ、本当にお一人で?」
ミラの声が上ずっている。
「ええ。運良く、食事中で無警戒なところを魔法で仕留められました」
「……運良くって、オーク3体を同時に……。あなた、本当に何者なんですか?」
ざわつくギルド内。昼間見かけたあのパーティーも隅の席にいたようで、皆人の出した戦果を見て絶句している。
「嘘だろ……あの新入り、一人でオーク3体だと?」
「魔法一発で仕留めたってのか……? どんな高位魔導師だよ……」
皆人はそれらの視線を無視しようとしたが、背後から鋭いプレッシャーを感じて足を止めた。
「……カイト。あんた、私の想像以上に『ヤバい』わね」
エルザだった。
彼女は腕を組み、鋭い眼光で皆人を射抜いている。その瞳には、昨日までの軽薄な好奇心ではなく、同じ「強者」を見る警戒心と、それを上回る興味が宿っていた。
「Bランクの私だって、オーク3体を無傷で相手にするのは骨が折れるわ。それを、たった数時間で、服も汚さずに帰ってくるなんて。……ねえ、あんたの『師匠』って、一体誰なの?」
皆人は一瞬沈黙し、それから少しだけ口角を上げた。
「……『兵庫』という、とても厳格で、正確無比な先生ですよ。エルザさん」
「ヒョーゴ? 聞いたこともない名前ね。……でも、いいわ。これだけの実力があるなら、もうGランクなんておままごとは卒業ね。明日、ギルドマスターに報告して、特例昇級を推薦してあげる」
エルザに肩を叩かれ、皆人は苦笑した。
目立ちたくない、平穏に暮らしたい。そう願っていたはずなのに、彼の持つ「科学の力」と「規格外のスペック」は、残酷なまでに彼を特別な存在へと押し上げていく。
『カイト、次の目標設定を提案します。この地域の支配種である「ワイバーン」の生息域を特定しました。討伐すれば、現在の資金不足は一気に解消されますが?』
「……少し休ませてくれ、兵庫。これ以上目立つと、平穏なスローライフが夢のまた夢になってしまう」
皆人は手渡された大銀貨の袋を握りしめ、宿へと向かった。
重い大銀貨の感触は、この世界における自分の「異物感」そのものの重さのように感じられた。




