ぼっちキングと最後の戦い
唐突ですが、今作はこれで完了となります。
ありがとうございました。
リーズの街に、また一つ賑やかな、それでいてどこか危うい平穏が戻ってきた。
カルルでの激闘を終え、皆人が連れ帰ったのは、かつて「聖女」として教会に奉じられていたナーグルだった。彼女をリーズへ連れてきたのは、皆人の直感によるものだ。組織に切り捨てられ、帰る場所を失った者の末路を、彼は前世を含め嫌というほど見てきた。
案の定、ナーグル自身も信仰の対象であったはずの組織への不信感を抱え、まるで迷子の子供のように皆人の後ろをついてきたのである。
「……また、増えたのね。今度は『聖女様』、ときたもんだ」
リーズのギルド併設の酒場に出向いた際、エルザは腰に手を当て、深い溜息をついた。その隣ではセーラも呆れたように肩をすくめている。
皆人は苦笑いするしかなかった。確かに彼の周囲には、いつの間にか個性的で、かつ美しい女性が集まる傾向がある。だが、そこは竹を割ったような性格のエルザたちだ。
「まあいいわ。あんたが連れてきたんだから、ろくでもない女じゃないんでしょう。ほら、飲もう! 歓迎会よ!」
エルザの号令で、その夜は盛大な宴となった。ナーグルは最初こそ、荒くれ者も混じる冒険者たちの喧騒に戸惑い、身を硬くしていた。しかし、次々と差し出されるエールや、飾り気のない——だが温かい——言葉に触れるうち、彼女の表情は徐々に和らいでいった。
祈りと規律しかなかった彼女の人生に、「ただの人間」としての喜びが染み込んでいく瞬間だった。
結局、その勢いのまま、ナーグルの居場所は皆人の屋敷に決まった。
「一人にするのは危なっかしい」という名目だったが、酔ったエルザとセーラが「じゃあ、私たちも住み着いちゃおうかしら!」と冗談半分、本気半分で乗り込んできた結果、皆人の屋敷は、ロッタ、ナーグル、エルザ、セーラが同居するという、傍から見れば羨ましい限りの、当人にしてみれば賑やかすぎる共同生活の場と化したのである。
朝、キッチンから漂うパンの焼ける匂い。
庭で剣を振るうエルザの気合。
ナーグルに家事を教えるロッタの少し得意げな声。
そんな日常が、皆人の心を静かに癒やしていた。
しかし、運命の歯車は、彼の休息を長くは許さなかった。
数ヶ月後。季節が移ろい始めたある日のことだ。
リーズの門前に、一人の男が現れた。その男は、右腕を失い、復讐心と狂信に燃える瞳をしていた。
「……目覚めさせたぞ。先史文明の神、その一端をな」
男が語ったのは、禁忌の地『黒鋼の回廊』に眠っていた魔導兵器獣の起動だった。男の名はシラス。かつて皆人に敗れ、組織の壊滅を招いた生き残りだった。彼は生き残った仲間たちの命をすべて生贄として捧げ、古の兵器を強引に再起動させたのだ。
その目標は、王都。かつて自分たちを追い出した国を、その根幹から焼き尽くす。その通り道にあるブラウスウェイト伯爵領は、すでに蹂躙され、廃墟と化している。
皆人は即座に動いた。
『兵庫』のバックアップ・システムにリンクし、戦況を確認する。
『大型熱源を感知。全長10メートル級の自立型魔導兵器獣『バハムート・ゼロ』と推定。現在、王都へ向けて等速進行中』
『兵庫』の無機質な声が、絶望的な状況を告げる。
「『兵庫』、主砲射撃。直接叩け」
皆人は命じる。空から降り注ぐ極大の光柱——荷電粒子砲が、地上を突き進む兵器獣を直撃した。しかし、光が晴れた跡には、無傷の巨躯が鎮座していた。
「無効だと? 反応弾クラスのエネルギーだぞ」
『対象周囲に『多積層位相変換シールド』を確認。外部からの長距離攻撃は、そのすべてが空間歪曲によって散らされます』
『兵庫』の回答に、皆人は舌打ちした。
「……直接、内側から叩くしかないか」
皆人は一人で現地へ向かう決意を固める。エルザたちが食い下がったが、皆人はそれを拒絶した。
「これは、俺にしかできない。君たちが行けば、あのシールドの熱量だけで蒸発する」
それは嘘ではなかった。だが、それ以上に彼は、彼女たちをこの絶望的な戦いに巻き込みたくなかったのだ。
廃墟となったブラウスウェイトの荒野で、皆人はその巨獣と対峙した。
鋼鉄の巨躯から漏れ出る魔力は、周囲の空気をプラズマ化させ、バチバチと放電している。
皆人は「加速装置」を起動し、神速の領域で跳んだ。
「プリズム・レイ!」
展開した右手の砲身から放たれる収束光。それは「呪いの力場を無効化する」特質を持つ。確かにプリズム・レイはシールドを透過し、巨獣の外殻を焼いた。だが、相手の図体が大きすぎた。針で刺した程度の傷では、停止させるには程遠い。
「なら……これしかねえか」
皆人の脳裏に、一つの作戦が浮かぶ。
擬似祈祷力場発生装置:『アスピス』を限界出力で展開し、敵のシールドと干渉・中和させる。その一瞬、シールドが消失したタイミングで『兵庫』の最大出力を叩き込む。
それは、自分自身もまた『兵庫』の射線上に留まり続けることを意味していた。
成功率は高い。だが、生存率は……限りなくゼロに近い。
「『兵庫』、照準固定。チャージを開始しろ。最大出力だ」
『……カイト、その座標には、あなた自身も含まれます。承認できません』
「これは命令だ。優先順位、アルファ1。マスター権限でロックを解除する。……いいか、一発で終わらせるぞ」
皆人は苦笑した。シラスの仲間たちは、このバケモノを起こすために命を捨てたという。なら、それを止める側も、それなりの代償を払わねば釣り合いが取れない。
「加速装置、オーバードライブ!」
世界が止まった。
皆人は弾丸のような速度で巨獣の背後に回り込み、その冷たい金属の皮膚にしがみついた。
直後、全身の毛穴から血が吹き出すような圧迫感と共に、アスピスを展開する。
青白い光が巨獣の赤黒いシールドと衝突し、空間が悲鳴を上げた。火花が散り、次元が歪む。
「今だ! 撃てえええええ!!」
天が割れた。
夜を昼に変えるほどの純白の光が、軌道上から垂直に降り注ぐ。
直撃。
皆人の感覚は、そこで途切れた。熱も、痛みも、エルザたちの面影も、すべてが白い光の中に溶けて消えていった。
……
リーズの街では、数日が過ぎた。
エルザたちは、門の前で立ち尽くしていた。
「……あいつ、遅いわね。またどっかの女を助けて、鼻の下でも伸ばしてるんじゃないの?」
エルザが冗談めかして言うが、その声は震えていた。
隣でナーグルが祈るように手を組み、ロッタは泣き腫らした目で遠くを見つめている。
彼らが信じた「無敵の男」は、ついに帰ってこなかった。
だが。
リーズから数千キロ離れた、未開の西域。
そこにある交易都市『ギルガ』の近くの森に、一つの小さなカプセル——降下艇が音もなく着陸した。
プシュッ、と不活性ガスが噴き出し、ハッチが開く。
中から出てきたのは、平平凡凡とした風貌の青年だった。
これまでの「皆人」のような、人を惹きつける美貌も、圧倒的な魔力の威圧感もない。どこにでもいる、少し体格の良い若者だ。
「ふう……。やっぱり、限界出力での同期消滅はキツいな。バックアップ・アバターへの転送が間に合ってよかったよ」
青年——新たな器を得た皆人は、自分の手を確認するように握ったり開いたりした。
『兵庫』の音声が、頭の中に響く。
『マスター。新しいアバターのスペックを確認します。筋力、耐久値は平均以上ですが、魔力適正は著しく低いです。以前のような派手な戦法は推奨されません』
「いいよ、それで。今回は能力もそんなに高くない。頑丈さだけが取り柄だ。……地道に行くさ」
彼は苦笑いしながら、森の向こうに見える都市の城門を見上げた。
エルザたちへの申し訳なさはある。いつか、また会える日が来るかもしれない。だが今は、この「新しい命」で、もう一度世界を歩いてみたかった。
「さて、今度こそ地道に楽しむぞ~」
ワクワクした表情で、一人の平凡な青年が歩き出す。
彼の名はもう皆人ではないかもしれない。あるいは、皆人のままであるかもしれない。
いずれにせよ、新しい物語の幕が、今ここで上がったのだ。
(完)
AIの助けを借りて、リハビリ兼実験と思って書き出した今作でしたが、AIの便利さを感じながらも、まだ使いこなすには至らないなぁと痛感しました。
一応、良い勉強になったと思いながら、次作は更にAIを使いこなすか、もしくはAIに頼らないか、試行錯誤しながら進めて行くとします。




