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ぼっちと宇宙戦艦が異世界で  作者: あおおに


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2/20

ぼっちキングの初戦闘

先に第3話を公開してました!

すみません!!

 冒険者ギルド『鉄の拳と魔法の杖亭』の扉を潜った瞬間、皆人は後悔した。

 喧騒、汗の臭い、そして何より「視線」だ。

 最新鋭のセンサーが、酒場を兼ねたロビーにいる荒事師たちの視線を鋭敏に感知する。


「……計算外だ。新入り、しかも銀髪の優男は目立ちすぎる」

 内心の動揺を隠し、皆人は事務的に受付へと向かった。

 受付嬢は、機能美すら感じるほど手際よく書類を捌いていた。彼女の名札には「ミラ」とある。


「ギルド登録ですね? 代筆が必要ですか、それともご自分で?」

「……自分で書けます」

 皆人は、軌道上の『兵庫』が数秒で解析を終えた現地の公用語を、淀みない筆致で書き連ねた。名前は「カイト・アモウ」。職業欄には少し悩んで「魔導剣士」と記載した。


「はい、受理しました。では、こちらの魔晶石に手をかざしてください。あなたの魔力適性を測定し、等級を決定します」

 ミラが差し出したのは、拳大の透明な石だ。

 皆人は「魔力シミュレーター」の出力を最小の1%に絞った。目立ちたくない。平平凡凡とした「Fランク」か「Eランク」で、ひっそりと薬草採取でもして暮らしたいのだ。


 しかし、石は無慈悲にも純白の輝きを放った。

「……えっ? 白? 属性なしの純粋魔力……しかもこの密度……」

 ミラの手が止まる。周囲の冒険者たちも、その異様な光にざわつき始めた。


『兵庫』の演算によれば、この世界の魔力には必ず「属性」の不純物が混じる。だが、ナノマシンで生成された「擬似魔力」は、物理法則に基づいた純粋なエネルギー体だ。それが、この世界では「聖属性」や「根源魔力」と誤認されるレベルの代物だったのだ。


「……あの、何か問題が?」

「い、いえ! 素晴らしい才能です。本来ならDランクからのスタートも検討されますが、実績がないのでまずはGランクから。ですが、特例として初日の依頼受注を許可します!」


 押し切られるようにギルド証(鉄のプレート)を渡された皆人は、逃げるように依頼掲示板へと向かった。

「さて、まずは小手調べだ。一番難易度が低くて、街に近いのは……」


 掲示板をスキャンする。

【依頼:リーズ近郊、薬草園を荒らすゴブリンの討伐】

 報酬:銀貨2枚。

「よし、これだ。ゴブリン。ファンタジーの定番だな。衛星からの観測データによれば、体高120センチ前後、知能は低いが群れる習性がある。個別撃破なら問題ない」


 皆人が依頼書を剥がそうとしたその時、隣からふわりと、この殺伐とした空間には不釣り合いな「花の香り」が漂ってきた。

「あら、あなた。その依頼を受けるの?」

 鈴を転がすような声に、皆人の首がギギギと機械のような音を立てて回った。


 そこにいたのは、燃えるような紅蓮の髪をポニーテールにまとめ、白銀の軽装鎧を纏った美女だった。腰には豪奢な細剣を佩き、凛とした瞳が皆人を射抜いている。

「え、あ、はい。そのつもりですが……」


「悪いことは言わないわ、一人で行くのはおよしなさい。ゴブリンは狡猾よ。特にその……魔導師タイプの細い子じゃ、囲まれたらおしまいだわ」

 彼女はフッと目を細め、皆人を品定めするように見つめた。


(思考:心拍数上昇。瞳孔拡大。アバターのバイタルチェック……異常なし。これは……『見惚れる』という非論理的挙動か。落ち着け、俺は宇宙戦艦だぞ)

「ご忠告、感謝します。ですが、これでも身を守る術は心得ているつもりです」


「ふふ、自信があるのね。私はBランクのエルザ。もしピンチになったら叫びなさい。近くの森で『大牙狼』の調査をしてるから、運が良ければ助けてあげる」

 彼女はいたずらっぽくウインクをすると、長い足を弾ませてギルドを出て行った。


 皆人は数秒間、その場に立ち尽くした。

「……Bランク。戦闘力推定値は、ゴブリンの50倍以上か。それにしても……」

 皆人は、彼女の歩き方、筋肉の付き方、そして通り過ぎる際の香りをデータとして保存しようとしている自分に気づき、慌てて演算を打ち切った。


「いかん、ぼっち歴が長すぎて、女性免疫が完全にゼロだ」

 と言うか、皆人の記憶には女性との交際経験は無い。人格データを提供したのは、まだ20才前だったのだ。その後に皆人がどれだけ女性と付き合ったかは、もう調べ様がない。




 街の外、北の森。

 皆人は、茂みの影で光学迷彩ドローンからの映像を受信していた。

「ターゲット確認。ゴブリン3体。武装は棍棒と錆びた短剣。風下に位置取り、奇襲をかける」


 アバターの身体能力なら、正面から突っ込んでもコンクリートを砕く拳で粉砕できる。だが、皆人は慎重だった。

「杖」の先端にある演算補助ユニットを起動。


「魔力シミュレーター出力3%。火炎属性の周波数をシミュレート。熱源誘導、ロックオン」

 皆人は指先を向けた。本来なら呪文を唱える場面だが、彼は脳内のコマンドを「実行」するだけだ。


 指先から、ソフトボール大の火球が放たれた。

 ゴバッ!!

 一瞬だった。

 火球はゴブリンのど真ん中で炸裂。爆風がゴブリンたちをなぎ倒す。


 皆人は小剣を抜くと、起き上がる前のゴブリンたちに次々とトドメを刺して行った。

 超高性能なアバターにはそれなりの剣技がインストールされているが、そんなものも必要としない簡単な作業だった。


「ふむ、問題ないな。精神的動揺も感じられないし」

 むろん、そんな不必要なストレスは感じない仕様だ。

 ゴブリンたちの身体は魔力として霧散し、後に小指の先程の大きさの輝石を残した。


 黒く光沢のある真球だ。

「これが魔石か。ゴブリン・クラスだと、これ1つで銀貨1枚になるんだったな」

 日本円に換算すれば、大まかに1000円ぐらいの価値である。


 皆人は魔石3個を拾うと、大事に腰のポーチにしまい込んだ。

 数少ない彼のアルバイト経験からすれば、これで3000円の儲けとは、信じられない思いだった。

「金銭感覚がバグりそう・・・」


 森を出てリーズの街へと続く街道を歩きながら、皆人は脳内でせっせと計算を行っていた。

「移動時間、片道30分。索敵および戦闘時間、約120秒。回収作業、30秒。……合計、約1時間弱か。これで銀貨2枚と魔石の売却分。時給に換算すると、前世の深夜のコンビニバイトより遥かに効率が良いな」


 もちろん、これは『兵庫』のバックアップと超高性能アバターがあってこその話だ。普通の新人冒険者なら、ゴブリン3体に囲まれれば命の危険がある。命懸けの報酬としては妥当、あるいは安すぎるくらいなのだろう。


 街の門を潜る際、門番が皆人の姿を見て「ほう、もう戻ったのか。怪我もなしか、運が良かったな」と声をかけてきた。皆人は「ええ、まあ」と曖昧に微笑み、再びギルド『鉄の拳と魔法の杖亭』の重い扉を押し開けた。


 夕刻に近いギルド内は、昼間よりもさらに熱気を帯びていた。依頼を終えた冒険者たちが酒を煽り、自慢話や愚痴を言い合っている。皆人は最新鋭のセンサーをフル稼働させ、酔っ払いの予測不能な挙動を回避しながら、迷わずミラのいる受付カウンターへと向かった。


「お帰りなさい、カイトさん。……あら、その様子だと、無事に終わったようですね?」

 ミラが顔を上げ、驚きを隠さない表情で迎えてくれた。

「はい。依頼のゴブリン3体、討伐完了しました。これが証拠の魔石です」


 皆人はポーチから、先ほど回収した3つの輝石を取り出し、カウンターに置いた。ミラはそれを手際よく手に取り、鑑定用のルーペのような魔道具で確認する。

「……傷一つない、綺麗な魔石ですね。火属性の魔力反応があります。魔法で一撃でしたか?」


「ええ、まあ。運よく不意を突けました」

 皆人の回答に、隣で聞き耳を立てていたベテラン風の冒険者が「へっ、魔法使いの坊ちゃんが前衛もなしにゴブリンを焼いて来たか。景気のいい話だ」と鼻で笑った。だが、ミラは真剣な表情で書類に筆を走らせる。


「カイトさん、これは立派な戦果です。魔石の買い取りを含めて、報酬は銀貨5枚になります。それと、初日の依頼を完璧にこなしたということで、ギルドの評価点ポイントも加算しておきますね」


【今回の収支データ】

 基本報酬: 銀貨2枚

 魔石売却(3個): 銀貨3枚

 合計: 銀貨5枚

 ジャラリ、と手渡された革袋の重みに、皆人の指先が微かに震えた。これが、この世界で自分の力(と科学の力)で稼いだ最初の対価だ。


「ありがとうございます。……あの、これでもう帰っても?」

「はい。ですが、もしよろしければ明日のために、もう一段階上の依頼を予約していくことも可能ですよ?」

 ミラの営業スマイルに一瞬心が揺れたが、皆人は首を振った。今日のところは、この「異世界情緒」を処理するだけで、脳の演算リソースが限界に近い。


「あら、本当に無事だったみたいね」

 背後から響いたのは、出発前に聞いたあの鈴を転がすような声だ。振り返ると、そこには紅蓮の髪をなびかせたエルザが立っていた。彼女の鎧には薄っすらと返り血が付着しており、激しい戦闘を終えてきたばかりであることを物語っている。


「エルザさん。お陰様で、何とか」

「何とか、ねぇ。その涼しい顔を見る限り、私の心配は取り越し苦労だったかしら」

 彼女は皆人の腰にある小剣と、汚れ一つないマントに目を留めた。Bランクともなれば、相手の立ち居振る舞いからある程度の技量を察するのだろう。彼女の瞳に、先ほどのような「子供を見る目」ではなく、微かな「好奇心」が混じる。


「カイト、と言ったかしら。あなた、どこで魔法を学んだの? その魔力の扱い、並の学府出じゃないわね」

「……独学です。辺境で、少し特殊な師匠についていました」

(嘘ではない。軌道上の『兵庫』の頭脳はある意味、世界最高の師匠だ)


「ふぅん、秘密主義ね。まあいいわ。生き残ったならお祝いよ。どう、これから一杯? 奢ってあげるわ。新人の初仕事を祝うのは先輩の義務だしね」

(思考:アルコール摂取によるアバターの機能低下リスク……0.02%。社交的メリット……計測不能。だが、ぼっち歴20年の経験則によれば、ここは『受ける』のが正解か?)


「……お言葉に甘えてもいいでしょうか。ただし、お酒はあまり強くないので、果実水で」

「あはは! 本当に優等生なんだから。いいわよ、マスター! こっちにエールと、この坊やに一番いい果実水を!」

 エルザに肩を叩かれ、皆人はたじろぎながらも、酒場の喧騒の中へと引きずり込まれていった。


 宴は、皆人にとって未知のデータの連続だった。

 エルザが語る「大牙狼」との死闘、冒険者たちの荒っぽい笑い声、そして石造りの建物に染み付いた古い油の匂い。


(分析:この世界の人間は、常に死と隣り合わせだ。だからこそ、今この瞬間の生を謳歌しようとするエネルギーが、演算予測を上回る……)

 宿に戻り、簡素なベッドに体を投げ出した皆人は、天井を見つめた。


「……悪くないな」

 独り言のように呟くと、彼は『兵庫』とのリンクをスリープモードに移行させた。

 明日の予定は、まだ決まっていない。だが、この見知らぬ天井の下で、彼は確かに「カイト・アモウ」としての一歩を踏み出したのだった。

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