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ぼっちと宇宙戦艦が異世界で  作者: あおおに


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18/19

ぼっちキングと防衛戦

 リーズの街を包む空気は、もはや祝祭の残り香すら消え失せ、死と鉄の臭いに支配されていた。

 門の外に広がるのは、かつての煌びやかな鎧を纏いながらも、その中身を腐敗した肉体へと変えた「遠征軍」のなれの果てだ。数百の足音が不揃いに大地を叩き、地響きとなってリーズの城壁を揺らす。


「来るぞ! 構えろ!」

 冒険者ギルドの面々、そして恐怖に顔を引きつらせた衛兵たちが武器を握り直す。皆人はその最前線で、静かに右腕を掲げた。


 アンデッド化した遠征軍の動きは、生前とは似ても似つかないものだった。関節は強張っており、一歩一歩が緩慢で、戦略的な隊列など微塵も感じられない。しかし、それがかえって不気味な圧迫感を生んでいた。


 何より厄介なのは、彼らが身に着けている先史文明の遺産だ。

 遺跡から持ち出した魔導の武器が、持ち主の意志とは無関係に、周囲の負の魔力に反応してひとりでに発光している。自動追尾機能を持つ矢、持ち主を物理的に保護する障壁、そして振るうだけで真空の刃を飛ばす長剣。


「……あいつら、死んでるくせに道具だけは一流かよ」

 バルカスが毒づきながら、大盾を構える。

「『兵庫』、アスピスの出力を最大に固定。周辺の味方を守れ!」

『了解。擬似祈祷力場発生装置:アスピス、展開。有効半径、20メートル。エネルギー供給、安定』


 皆人の周囲に、淡い白銀の光がドーム状に広がる。直後、アンデッド軍が放った魔導の矢の雨が力場に衝突し、激しい火花を散らした。本来なら衛兵たちの命を容易く奪うはずの攻撃を、皆人の「盾」が無効化していく。


「お返しだ。……収束光子砲:プリズム・レイ、照射!」

 皆人の右腕から、凝縮された青白い熱線が放たれた。光は前方のアンデッド数体を一瞬で蒸発させ、後方の地面を激しく爆装させる。だが、その威力とは裏腹に、皆人の表情は険しかった。


(……チッ、燃費も使い勝手も最悪だ)

 プリズム・レイの射程は、この平原での会戦においては決して長くはない。さらに、一度撃てば再チャージに数十秒の「空白」が生まれる。押し寄せる数千の死者を一掃するには、あまりに手数が足りなかった。


 戦闘開始から一時間が経過した頃、戦場は敵味方が入り乱れる泥沼の混戦へと突入していた。

「カイト! 右から来るわよ!」

 エルザの叫びと共に、魔導装甲に身を固めたアンデッドの騎士が力場の隙間に突っ込んでくる。皆人は腰の剣を抜き、プリズム・レイのチャージが完了するまでの時間を白兵戦で繋ぐしかなかった。


 上空では、軌道上に待機する『兵庫』が攻撃の機会を窺っている。

『カイト、目標地点の混戦率が80%を超過。高出力攻撃は味方を巻き込む恐れがあります』

「分かっている! 後方にだけ撃て!」

『了解。精密爆撃を開始します』


 遥か高空から降り注ぐ光の杭が、アンデッド軍の後列を叩く。しかし、それは敵の増援を削る程度に留まり、目前の絶望的な状況を劇的に変えるまでには至らない。


 その乱戦の渦中で、二つの悲鳴が上がった。

 かつて強欲に目を輝かせていたギルバート子爵と、北方の雄であったラインハルト伯爵。

 アンデッド化し、理性を失った彼らは、ただの「強力な動く標的」に過ぎなかった。


 ギルバートは、手に入れた魔導剣を振り回しながらもエルザの連携攻撃の前に沈み、ラインハルトは、バルカスの盾で押し潰されたところを衛兵たちの槍に貫かれた。かつての権力者たちの最期は、驚くほど呆気なく、そして惨めなものだった。


 だが、真の絶望は、その後にやってきた。

 戦場の霧が晴れた一角に、その男は立っていた。

 ブラウスウェイト伯爵。

 シャルフィヤの父であり、皆人にとってもある種の縁があった男。


 彼の姿は、他のアンデッドとは明らかに異なっていた。腐敗は進んでおらず、その瞳にはどす黒い執念の火が灯っている。彼は手に、一振りの禍々しい黒剣を握っていた。

「……おお、皆人……我が娘が愛した、異邦の英雄よ……」


 その声は、喉の奥から漏れ出る呪詛のようだった。伯爵は一歩、また一歩と皆人に近づく。周囲のアンデッドたちが、まるで彼に道を譲るかのように退いていく。


「お前のその力、その知識……全て、儂に捧げよ。シャルフィヤという絆があれば、お前は儂の駒として相応しい……。儂のものになれ……儂のものになれ……」

 呪文のように繰り返される言葉。それは生存への執着というより、権力への、そして「より強き存在」への歪んだ所有欲だった。


「伯爵、あんたはもう死んでいるんだ。その言葉に、魂はこもっていない」

 皆人は剣を構え直し、静かに告げる。

「……シャルフィヤには、悪いことをした」

 伯爵が黒剣を振り上げた瞬間、皆人の右腕がこれまでで最大の輝きを放った。


「せめて、苦しまずに逝け」

 プリズム・レイの零距離射撃が、伯爵の胸部を貫く。それと同時に、皆人は踏み込み、伯爵の首を鮮やかに斬り捨てた。

「儂の……ものに……」

 その呟きが、地面に落ちる頭部から漏れ、やがてかき消えた。





 最後のアンデッドが倒れ伏したのは、空が深い群青色に染まり、一番星が瞬き始めた頃だった。

 リーズの街の門前には、夥しい数の死体と、壊れかけた魔導装備が散乱している。生き残った冒険者や衛兵たちは、勝利の歓声を上げる気力すらなく、ただその場に座り込んでいた。


「終わった……のよね?」

 セーラが杖を支えに、震える声で呟く。

 皆人は返事をせず、戦場を見渡した。

 奇妙なことが起きていた。あれほど強力な力を放っていた魔導装備の数々が、持ち主であるアンデッドが完全に沈黙した直後、まるで霧が晴れるように「消失」し、あるいは正体不明の者たちによって回収されるかのように、戦場から消えていたのだ。


 残されたのは、ただの古びた鉄屑と、無惨な死体だけ。

「『兵庫』、残留エネルギーをスキャンしろ。原因は特定できたか?」

『……否定。アンデッド化を引き起こしたトリガー信号は、戦闘終了と同時に消失しました。遺跡の防衛システムによるものか、あるいは第三者の介入か。現在のデータでは判別不能です』


 皆人は空を見上げた。

 街は守られた。ギルバートも、ラインハルトも、ブラウスウェイトも消えた。

 しかし、この事件が何だったのか、なぜ彼らは死してなお街を襲ったのか。その本質的な謎は、暗闇の中に消えたままだ。


「また、来るかもしれないな」

 皆人の呟きは、夜風に流されて誰の耳にも届かなかった。

 遠征軍の全滅という衝撃的な結末を迎え、リーズの街は一応の平和を取り戻した。だが、それは新たな「何か」が始まる前触れに過ぎないことを、この時の皆人はまだ、直感でしか理解していなかった。


 不気味な静寂が、戦場だった荒野を包み込んでいく。

 事件は終息した。しかし、残された禍根は、誰にも気づかれぬまま地下深くで静かに脈動を続けていた。

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