ぼっちキングと魔導兵器
リーズの街を発ってから一週間。皆人一行が辿り着いたのは、北方の連峰に抱かれた深い渓谷の奥底だった。そこには、数千年前の「先史文明」が遺したとされる巨大な地下施設――通称『鋼鉄の墓標』が口を開けていた。
「ここが、例の遺跡ね……。空気が重いわ」
エルザが愛剣の柄を握り直し、周囲を警戒する。
入り口の防壁は、現代の石造りとは一線を画す未知の合金で構成されていた。皆人がデバイスをかざすと、不可視のセンサーが反応し、重厚な扉が地響きを立てて左右に分かれた。
『カイト、内部は特殊な電磁シールドと構造材によって構成されています。ここでの「兵庫」による大規模な外部要請攻撃、特に衛星軌道からの精密爆撃や広域熱線照射は使用不可能です。建物の崩落、あるいは跳ね返ったエネルギーによる自爆の危険性が98%を超えます』
(わかってる。だからこそ、こいつを持ち込んだんだ)
皆人が腰のホルスターから引き抜いたのは、異様な威圧感を放つ大口径リボルバーだった。
銃身には魔導回路が刻まれ、シリンダーに収まるのはわずか5発。だが、その一弾一弾が戦車の主砲にも匹敵する爆発的な運動エネルギーと、魔力を圧縮した「炸裂徹甲弾」である。
「行くぞ。目指すは最深部、宝物庫を守護するアダマンタイト・ゴーレムだ」
遺跡内部は、自律型の防衛機構がひしめく死の迷路だった。
皆人たちは極力戦闘を避けて進んだが、通路を完全に塞ぐ形で配置された守護者たちとは、交戦を余儀なくされた。
「来るわよ! 黒鋼ゴーレム、3体!」
エルザの警告と同時に、漆黒の巨体が壁から分離するように動き出す。通常の剣では刃こぼれするほどの硬度を誇る相手だが、皆人は迷わず引き金を引き絞った。
――ドォォォォン!!
閉鎖空間に、鼓膜を震わせる轟音が響く。
放たれた一弾は黒鋼ゴーレムの頭部を正確に捉え、着弾と同時に内部の魔導爆薬が炸裂。数トンはある巨躯が、まるで陶器のように粉砕され、後方の壁まで吹き飛んだ。
「相変わらず、あんたのその「鉄の杖」はデタラメな威力ね……」
セーラが呆れたように呟く。
さらに奥へ進むと、今度は魔力耐性に優れたミスリル・ゴーレムが立ちはだかった。物理攻撃を流し、魔法を無効化する厄介な相手に対し、バルカスが盾で突進して姿勢を崩し、その隙を皆人の銃弾が貫く。
「弾数は残り12発。温存したいが、出し惜しみは死に直結するな」
『カイト、前方に高密度の魔力反応。……来ます。この遺跡の「王」です』
通路を抜けた先。そこは、天井が見えないほど広大な円形ホールだった。
その中央に、周囲の光をすべて吸い込むような深淵の輝きを放つ、巨大な人型が鎮座していた。
それは、これまでのゴーレムとは存在感の次元が違った。
高さは5メートルを超え、その全身は世界で最も硬く、最も希少な金属――アダマンタイトで構築されている。
「……嘘でしょ。ミスリル・ゴーレムが可愛く見えるわ」
エルザが冷や汗を流す。
ゴーレムがゆっくりと立ち上がると、ホール全体が地震のような振動に襲われた。次の瞬間、ゴーレムは巨体に似合わぬ速度で踏み込み、巨大な拳を振り下ろす。
「散れ!!」
皆人の叫びと同時に、四人は散開した。
バルカスが構えた大盾が、風圧だけで悲鳴を上げる。エルザが神速の踏み込みで足首を斬りつけるが、アダマンタイトの装甲には傷一つ付かず、逆に彼女の剣が甲高い音を立てて弾かれた。
「セーラ、魔法を!」
「やってるわよ! 『極光の槍』!」
収束された熱線がゴーレムの胸部を直撃する。だが、アダマンタイトは魔法エネルギーを拡散・無効化し、煤一つ残さない。
「クソッ、こいつ……化け物か!」
皆人はリボルバーを構え、三連射を叩き込んだ。
爆音とともに火柱が上がる。だが、煙が晴れた後に現れたのは、表面のコーティングがわずかに剥がれ、数ミリほど削れただけの無傷の魔神だった。
『カイト、通常攻撃は無意味です。装甲厚は推定500mm以上。全弾を一点に集中させ、装甲を貫通させる以外に勝路はありません』
「わかってる……最初から、そのつもりだ!……エルザ! バルカス! 時間を稼げ! 足を止めるだけでいい、奴の胸部から目を離すな!」
皆人の指示に、三人が命懸けの連携を見せる。
バルカスが真正面から挑発し、ゴーレムの強烈な一撃を盾の「いなし」で受け流す。その隙にエルザが背後から関節部を狙い、セーラが重力魔法でゴーレムの動きを一瞬だけ鈍らせる。
そのわずかな静止。皆人は全神経を集中し、「ある一点」を見定めた。
アダマンタイト・ゴーレムの胸部。そこには、すべての動力を司る「大魔導核」が眠っているはずだ。
――カチリ、と世界が止まる。
一発。二発。
皆人の放つ銃弾が、狂いもなく同じ着弾点を叩く。
アダマンタイトの火花が散り、衝撃波が空気を震わせる。
「……ダメよ、カイト! 全然効いてない!」
エルザが叫ぶ。彼女の目には、皆人の攻撃が無駄な抵抗にしか見えなかった。
だが、皆人の目は死んでいなかった。
五発、六発……。リロードを挟み、指先が焼けるような熱を帯びても、彼はひたすら一点を穿ち続けた。
そして、十発目の銃弾が着弾した時だった。
パキィィィィィィィン!!
硬質な、だが確かな「亀裂」の音がホールに響き渡った。
「今だ! 装甲が割れたぞ!!」
皆人の絶叫とともに、ゴーレムの胸部装甲が剥落し、その奥で脈動する、禍々しいほどに巨大な魔導核が露出した。
「よくやったわ、カイト!!」
「全員、最大火力!! 叩き込めぇぇ!!」
エルザの剣が、セーラの魔力が、そしてバルカスの渾身の一撃が、剥き出しになった心臓へと集中した。
光が溢れ、空間を白く染め上げる。
次の瞬間、アダマンタイト・ゴーレムは断末魔のような駆動音を上げ、その巨体を崩壊させていった。
静寂が戻ったホールに、金属の崩れる音だけが響く。
皆人たちは肩で息をしながら、崩れ落ちたゴーレムの残骸を見下ろした。
「……勝った、のね」
セーラがへたり込む。
ゴーレムの残骸からは、夢にまで見た深蒼の金属塊――大量のアダマンタイトがドロップしていた。これだけの量があれば、カイトの『兵庫』製システムを劇的に強化し、シャルフィヤを守るための「最強の盾」を完成させることができる。
「おい、カイト。あっちを見てみろ」
バルカスが指差した先には、ゴーレムが守っていた重厚な扉が開いていた。
そこは噂通りの宝物庫だった。先史文明の高度な技術で作られた魔道具や、現代では失われた「古代の英知」が記された魔導書が並んでいる。
「これなら、伯爵家への面目も立つし、私たちの装備も一新できるわね」
エルザが笑いながら、皆人の肩を叩く。
カイトは、手に入れたアダマンタイトの欠片を握りしめ、遠い空の下にいる少女の姿を思い浮かべた。
(待ってろ、シャルフィヤ。次にあいつが現れた時、俺はもう、お前を連れ去らせはしない)
『カイト、素材の回収を急ぎましょう。これほどのエネルギー反応を放置すれば、他の魔物が寄ってきます。……それと、お疲れ様でした。あなたの射撃精度、0.01mmの狂いもありませんでしたよ』
「フン……当たり前だ。俺を誰だと思ってる」
皆人は『兵庫』の皮肉に少しだけ笑みを返し、仲間たちと共に、宝の山へと足を踏み出した。
それは、絶望的な戦いを乗り越えた者たちだけに許された、勝利の瞬間だった。




