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RVALON Ⅰ   作者: 竜;
When I Come Around
7/59

When I Come Around-04

04


「……ちゃ~ん……益子ちゃ~ん」


 呼ばれている?……そう自分の名前だ。

 でも……そう……友達も両親もみんなちゃんなんて付けない。

 昔好きだった近所のお兄ちゃん?……違う……女の人の声もする……ゆっくりとして……柔らかい……優しい……懐かしい……そう、大好きだった……


 瞬きをした、そんな感覚だった。


 益子の前に広がるのは緑豊な夏の熱に萌える草原。


 ソーダ水のような青空がどこまでも続き地平線でセパレートされる草原。


 瞬きをした。目の前には小川ができていた。


 瞬きをした。横を見ると川の先は池になっていた。


 瞬きをした。池には色とりどりの蓮の蕾が浮かんでいた。


 近くまで行ってみよう。


 益子は池に着くと蓮の花を見た。

 それが合図かのように蕾は一斉に光だし幾層も重なる花びらがふわりふわりと開いていく。

 夢をみているようだ。


 楽しくなり池の中の蓮を見て歩いていると開いていない蕾が二つ。

 それは他の蓮とは違い所々茶色く変色していたり虫に食われていたりとお世辞にも綺麗とはいえなかった。


 しかし


「益子ちゃ~ん……益子ちゃ~ん……」


 その中からだ。自分の名前を呼ぶ声がする。


 近づくとその蕾は益子から離れていく。


「……!……!?」


 益子は自分の声がでていないことに気がついた。

 突然不安になりあたりを見回すと先程までの鮮やかな世界は黒い雲に覆われ目が開けられないほどの風が吹き荒れていた。


 益子は恐くなり隠れる場所のない広野で蹲った。

 自分の頬を涙が伝うのを感じて目を開けるとその垂れた雫は眩く輝き一滴の音が頭の中に響くと自分を中心に池ができ、先程の色とりどりの蓮の花が周りを囲んでいる。

 そして前からはあの廃れた蕾が二つ、漂うように近づいてくる。


 声は聞こえない。


 ゆっくりと手を伸ばす。


 今度は離れていかなかった。


 益子が触れると蕾はそこから石化した。


 まるで早送りを見ているかのように苔が育って行き一筋のヒビが入ると池の底に沈んで行ってしまう。


 慌てて潜り蕾の後を追うが加速的に距離はひらいて行く。


 やがて息が苦しくなり益子が水面に顔をだすとそこはショッピングモールのフードコート。


 益子はソファーに大きくもたれるように座っていた。



 益子を包んでいった光で軽く奪われた視界が回復してくるとスパイクはゆらりとこちらに向かって来る人影に気付く、先程とは何かが違う。雰囲……いや人が変わったとすら思える。

 咄嗟に攻撃態勢を取るが、


「また時の随に紛れた音色が聞こえる頃に」


 その声が頭の中に響き目の前に立っている人物を見上げる。


「……主しゃま!」



§ §



「ふふふふふ~ん♪主しゃまぁ主しゃまぁ」


『あの、スパイクさん、何があったかわかりませんので先程から臭い嗅いだり執拗に体を擦り付けたりしている理由を聞かせていただけますか?』


「視界がぼやけていたとはいえ主人に牙を剥くなどあってはならないのでしゅ。なので今後間違えないようにあたちの匂いを……」


『あまり強く付けすぎると玉藻さんに誤解されますよ?そういえばその玉藻さんから無断でお昼をすっぽかしたお仕置きを選らんでおくようにと言付けが……』


「ひやぁ!ペンペンは嫌でしゅ!そういえばあたちお昼から何も食べてないのでしゅ」


『もう夕飯の時間になってしまいますね。そこまで時間を忘れるほどの何かが?』


「あ、そうでしゅ。主しゃま!実は主しゃまと同じようなマスクを被った人が。オシャレな帽子とシュっとした服と……キンキラの時計持ってたでしゅ!」


『世の中似たセンスをお持ちの方もいることでしょう。でも先程の様子だとその方はあまり友好的でなかったように見受けられますが」


 僅かに嗅ぎなれた主人の匂いに寸でのところで攻撃を止めたスパイク。

 徐々に消えていく先ほどの男の記憶を何とか紡ぎ主へ伝える。


「え~っと、う~んっと……変な人でちた。踊ったり女の子の行く先塞いだり」


『その記憶から消えていくといった現象は私の呪いと酷似していますね。局からお達しの出ている敵対勢力の疑いのある方といった可能性も高いのですが特に何かされたわけではないのですね?』


「えっとでしゅね、キンキラ時計を見てたと思ったらさっきまで止めてた女の子をすんなり通すと草木で作ったような扉がパァって光って。気づいたらあたちだけになってたのでしゅ」


 それを聞いた主はじゃれているスパイクを正面に構え念を押す様に問い正した。


『確認しますよスパイクさん、今現在私たちの周囲にはその扉らしきものは見当たりません。ですがその賑やかな男性とそれに追われていた女性は光と共に消えた。間違いないですね』


「はいでしゅ」


 すぐさま主はスパイクを丁度良く切られている切り株の上に置くと札を一枚取り出し玉藻へと伝心する。


 ……


「はぁ~い!いつも主様のお傍に。電話一本出前迅速ご用命はいつでも愛の特急、超良妻玉藻ちゃんですぅ」


『スパイクさんと無事合流できたのですがなにやらトラブルに出会っていたらしく……大変申し訳ないのですがその後始末といいますか確認だけでもしておかないといけなくなりましたので……』

「……遅くなりますの?」


『私も今聞いただけですのでなんとも……状況次第では……』


「ちょっとそこの爬虫類にお話が。……スパイクさん?玉藻ちゃんの作ったご飯食べたくないならガスホース咥えて自己発火の後爆ぜていただいても構いませんよ?今晩の食卓はドラゴンと柘榴で飾らせていただきましょう。良いですか?晩御飯の時間に遅れたり主様と玉藻ちゃんの夜の時間を抉るようなことがあったら……わかりますよね♪……主様ぁ~で・き・る・だ・け、お早いお帰りお待ちしてますねぇ♪」


 伝心を終えた主は心ここにあらずの目を点にして一点を見つめているスパイクを強めにゆすり声を掛ける。


『……スパイクさん、放心している場合ではありませんよ。今日は局長に言われて家族サービスしようと不死屋のケーキ買ってきたのですから。玉藻さんも保冷剤も待ったなし……、端的に申しますと切羽詰っています、それもかなり」


「怒った玉藻しゃん恐い……」


『お仕置きも嫌ですよね?』


「ペンペンも嫌い嫌いも恐い……」


『みんなでケーキ食べたいですよね?』


「……がんばりましゅ!」


 主は鞄から金属製のシガレットケースの様な物を取り出しその中からガラスを内包した筒を一本手にすると自らの胸へ突き刺し次に上着の内ポケットから出した札を二枚重ねでスパイクの額に貼り付ける。


 一枚目の札が弾けるように燃えて消えると目を見開いたスパイクが激しく唸りを上げ、体を電気が取り巻きバチバチと音を立てる。

続いて青白い炎が全身を包み込み短く吠えると主との間に空気が歪み小さく渦を巻きながら千切れた草や小石を吸い込み始める。


『時空を歪めて開口、同時に時間軸を特定、次元を固定してください、集中集中。私が入れれば問題ありません。口の面取りは不要です、微調整は私の方で行いますので他の事に気は回さないで最短距離を繋いでください……』


 やがて現れた自身の身長の半分ほどのどす黒い穴に片足を入れると止まることなくその中へ飲み込まれて行く。

 その最中も片腕を伸ばし先ほど自身の胸に突き刺した物と同じ、ライフルの弾丸の様なものをスパイクに渡す。


『……起きたら戻り用の穴の準備を、ブースト状態では詠唱はいりませんが大雑把になりますのでブレスは使用しないでください。ポイントを押さえつつ慎重かつ大胆にお願いします。状況に備えてアンプルを咥えて準備していてください」


 ぽっかりと開けられた空間は急いで間違いを修正するかのように収束し消えた。


 本来足りていない力を前借りした状態のスパイクは意識を失い倒れこむ。

 去り際に主が言っていたアンプルだが一定の時間がくれば額に貼ったもう一枚の札が目覚ましの役目を果たす。

 しかしまともに体を動かせない時は強い点滴のような効果のあるそれを噛み砕き強制的に栄養を摂取して先ほどの手順に移るためである。


 ちなみに主が自身に打ち込んだ物とは種類が異なり様々な使用方法があるアンプル、ある程度までの効果は確認できているが作った本人も理解できていな部分が多く、7割が不安要素という謎の多いアイテムなのである。


挿絵(By みてみん)

アンプルはペンダントとして実際に制作しました。

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