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RVALON Ⅰ   作者: 竜;
When I Come Around
3/59

When I Come Around-02

02


 何故だかわからないが自分は今走っている。どうしたのかって?


「それがわからないから走ってるのよ!」


 誰に言うわけでなくそれは頭の中を整理する為の自問自答から出た言葉。

 名門の女子校に通う彼女は普段ならお淑やかという絵から出て来たかのように足音は気品という音符が踊り、笑うときは口に手を当て歯茎を見せず、その水を閉じ込めたかの様に艶かなセミロングの黒髪に一筋の乱れも許さないのだが今の愛海(なるみ) 益子(ましこ)16と半年くらいは現在一心不乱に見知らぬ森を駆けている。


「代々木公園とか新宿庭園じゃないよね!あたし確信した。不思議の国に迷い込んだアリスだって絶対「あらあら~」なんて悠長な台詞言えるほど余裕ない!」


 焦りや恐怖に似た感情が支配する中、不思議と靄が晴れるように記憶がはっきりとした輪郭で思い出されてくる。

 そう、自分は夏休み前に海に行こうと計画していた友人達と水着を新調するべく都内のショッピングモールへと繰り出していた。


「買い物終わって、お昼食べて、ブリザードストーンのアイス食べて……」


 何処にでもいそうな仲良し女子高生グループの休日。

 益子が声をかけるとそこには誰もいなかった。


 友人達だけではない、文字通り自分以外誰もいなかったのである。

 友人達がふざけて益子から隠れる程度なら何の違和感もない。

 しかし平日ですら人がいないところを探すほうが難しいような場所に今は自分一人しかいないとなれば小さな疑問をすっ飛ばして一気に恐怖に包まれるだろう。

 だが益子に訪れたのはそれだけはなかった。


「そう!あいつ!あの男、変なこと起きてすぐになんか異様な格好してるもんだから逆にあたしの方が場違い?みたいにすら思えちゃった」


 その男は夏の日差しを避けるにしても暑苦しい黒いレザーのハット、ジャケットは少しくすんではいるが艶の残る臙脂色のこれまた革製なのか少し重たげな印象。

 下はスーツのそれではなく黒味の強いジーンズだろうか?腰には若者がつけるようなウォレットチェーン、ホームセンターで売っているような単純なデザインではなくどこかのブランドの物かと思われる。

 センスは別として服装など個人の自由だ。夏でも冬でも好きな物を着れば良い。

 だが何より益子が異様と感じたのは……


「あのガスマスクなによ!」


 そう、男は何処の国の物かはわからないが明らかにその場に似つかわしくないガスマスクを着用していた。


「あれ?でもマスクしてたならなんであたし男だって思ったんだろ?服装?体つき?そもそもそんな人物なんて……」


 はっきりとしてきた所でいきなり頭の中に再び靄がかかった様に霞みそれ以上が思い出せない。思い出せないのだが、


「そう!あたしそいつに追われてるんだった!」


 ようやく自分が走っている理由に辿り着くと必死で走り続けていた四肢及び三半規管がエマージェンシーコールを鳴らし続けていたことに気づく。

 益子はスピードを徐々に落としていき前を見て走っていたはずだが唐突に現れた様な森の出口であろう光を勝手にゴールと思い込んだ。


「へへ、部活には入ってないけど足と体力には自信あるんだよね。お嬢様ナメんなっての」


「確かに同年代の女子の平均以上ではありますね。土台が良い分積極的に鍛錬すれば公式に記録を残せるかもしれません」


 独り言を聞かれたから驚いたわけではない。

 その男が最初からそこにいたかのように益子の少し後ろから話しかけてきたからだ。


「この場合名乗るのが礼儀かと思いますがそもそも迷い込んでしまった貴方は招かざる客人。すぐにお引取りいただくので極力無駄は省きたいのですが……」


 益子の判断は「逃げろ」であった。

 声をかけられた瞬間驚きこそしたが男が流暢に話を続けたところで咄嗟に走り出したところを見るとこの状況でもまだ冷静さは失っていないようだ。


 勝手に希望と思い込んだその光へと一直線に駆ける……が、有りえないが在りえた。

 益子の後ろにいたその男は今自分の進行方向へと立っている。

 理解だけが追いつかない益子に向かって男は軽く開いた掌を真っ直ぐ向けて言った。


「ご停止を。この先は貴方の考えているようなところではありません」


 その言葉を聞かなくても女の自分が得体の知れない人物にタックルして無事罷り通れるとも思わないと判断するより早く足は急ブレーキを掛けていた。


「ご英断です。おそらく私の井出達で怪しんでいることでしょう。信ずるには足りないとは思いますが今のところ私は貴方に危害を加える者ではありません。寧ろ利害が一致しているので味方とさえ断言しても差し支えございません」


「よく喋る男を信用するなってお婆ちゃんが言ってた」


「別段信じてもらわなくても結構ではありますが強制は些か後ろめたくも思いますので」


「やっぱり!あたしに乱暴する気でしょう!?……」


 その台詞を言い終わる前に益子の横を何か熱を帯びた光が森の出口を塞いでいる男に向かって飛んで行った。


次の03は3分割になっています。

丁度良い文字数で区切れないので長かったり短かったりします。

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