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改訂

作者: 雉白書屋

『速報です』


 とある定食屋。女性アナウンサーの声に男は箸を止め、棚の上にあるテレビを見上げた。


『この度、我々が非常に慣れ親しんだお話、【桃太郎】の改訂が決まりました』


 なんだそんなことか、と男は目の前の皿に視線を戻した。最近、そういった流れがあることは知っていたのだ。今さら驚くことなど何もない。


『まず、桃太郎のお供である三匹の動物。そのうちの一匹である犬ですが、狼に変更されることになりました。これは、かつてこの国に生息し、絶滅した狼がそれにあたるのではないかという歴史資料を検証し、明らかになった事実に基づくもので――』


 ふん、それくらいなんだってんだ、と男は鼻を鳴らし、グラスの中のビールをぐいっと飲み干した。


『また、桃太郎のお供の雉ですが、鶏に変更されることになりました。こちらも歴史的事実に基づき――』


 男はケッと吐き捨てるように口を鳴らし、皿の上にある唐揚げを箸で小突いた。


『そして最後になります、猿ですが……こちらは人間に変更することとなりました』


 男は驚いて顔を上げた。まさか――


『桃太郎が人々を率いて、悪しき鬼を退治したという、こちらも歴史的事実に基づいたものです。変更は以上です。桃太郎財団の声明によると、この物語は子供などに馴染みやすいよう平和的なつくりを意識していましたが、やはりこの国の始まりである神聖な物語であるので、史実に近づけるべきだと考えたとのことです』


「ちっ……勘定はここに置いとくよ!」


 男はそう言って、定食屋を後にした。ガラスの引き戸を閉める際、力が入り過ぎて割ってしまわないよう精一杯気をつけたが、押さえこんでいた感情はもう爆発寸前だった。電柱にもたれかかり、酔っ払いが吐くふりをしながら、彼は嗚咽した。


 ――何が歴史的事実だ。お前らが侵略したんじゃないか。平和に暮らしていたおれたちを虐殺し、島を乗っ取って、この国を築いたんじゃないか。


 抵抗虚しく敗れ去り、悪評擦り付けられ、鬼と名付けられた者たちの子孫である彼は顔を真っ赤にして泣いた。

 涙が染みこんだその地は紛れもなく故郷ではあるが、それもまた名を奪われて、乗っ取られたもの。生まれて間もなく母親に角を折られ、人間に紛れて暮らしているが、彼に安息の時はなし……。

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