陰謀の夜
西方にある複数の列強の連合からなるフランクリン神聖王国では現在各国の国王や高位の貴族が集まり真剣な面持ちで会議に臨んでいた
此処は神聖王国首都ヘイルダムにある貴賓館、王族や高位の貴族の重要会議の時のみ開かれる王宮に続いてこの国で最も豪華で巨大な館である
様々な国が連合国家を形成するクルジオン連合国家と違いこの国は宗教色が強く未だに魔物や亜人の脅威に曝されている人類を護る為に強い信仰心の下一丸となっている
連合国家にもかかわらず連合を名乗らず王国としているのも複数人いる聖王が一枚岩だからこそである
彼等の議題は何を隠そう少し前に神聖王国領土内に出現した件の黒い塔のことである
「時期的にそろそろだと思っていたがついに流れ着いたか・・・」
呟いたのは神聖王国の議会のリーダーを務めるフランクリン聖王だ
「ここ数百年は静かだった故に来る頃ではないかと覚悟していたが、よもや我等の領土内、しかも暗がりの森の向こう側とはな」
暗がりの森、【死霊候】と呼ばれる強力なアンデットを使役する死霊術師が拠点を構える最悪の土地である
「迂回しようにもあの森は広い、大きく周り込まねばならない、しかも塔が現れた場所はあの悪魔共の巣窟のすぐ近くではないか」
「確かに厄介この上ないですな」
「暫くは護りを堅めて様子を見るのが妥当かと」
そうして警戒をしつつもとりあえず周辺の防備を堅めて様子を見るという形で議会内の意見は一致した
神聖王国が会議する中で、奇しくも同じようにヒト為らざる者達も同様に会議に臨んでいた
「つまり私達はその漂流者を研究しているんです」
ここは万年城[ミレニアム]の中心にある円卓の間、やはり重要な議題を討論する場所である、皆がそれぞれ好き勝手な場所に座り会議に耳を傾けている
「この世界の情報を提供する代わりに対価として貴女の知る情報を教えて欲しいのです」
そう言って対面に座る少女、ヴァンパイア【氷結候】に話しかける
(うーん、知ってる情報って言っても何を話せば良いのかなぁ)
かつてはじまりの漂流者が万年城と共にこの世界に流れ着いて以降もこの世界には多くの[モノ]が漂流して来ていた
漂流者は全てではないがその多くの者が強大な力を持ち多くの強力なマジックアイテムを持ち込んだ、その中には世界そのものの理に干渉ないしは書き換えるような桁外れの性能を持つものもあると伝わる
レベルと云う強さの概念、階悌と云う魔法のパラメーター、技能やこの世界産とは別の特殊な道具、拠点ボーナスやポイントといったNPCの作成には必要不可欠な力もその根源やメカニズムは謎に満ちている、また拠点内の下僕《使役モンスター》がPOP《無限湧き》する場所の自動での出現等々拠点を持つものも仕組み《システム》も解らず使っているものも多い
そもそも何故彼等彼女達は漂流して来るのか、漂流前はどんな世界に住んでいたのか?
そして、今回この世界に流れ着いた漂流者は【氷結候】だけなのか?
(まあそれは追々解って来るだろうしね、神聖王国の奴等も手をこまねいていないだろうから他の諸侯に暴れてもらうかな?)
この陰謀の夜を境に各地に潜んでいた悪魔達が本格的に暴れ出す