9話 企画書と手伝い
中々いい所で区切りがつかず貯め書き使い切ってしまいました。他の話に比べたら長いかもしれない。
ーSide 柊玲乃ー
「みんなすごいやる気だな…。」
そう話しかけてくるのは元隣の席、西園寺肇だった。今は既に2回の席替えを終えており、別々の席になっているが、席替えを経ても近くの席になり、クラスの中では1番喋る相手といえる関係になっていた。
「そうだね、行事が目的で馳高入る人もいるくらいだし。」
伝統ある進学校、というのは勉強ばかりしている訳では無い。文化祭や体育祭など、高校の花形とも言える行事では、本気を出して競い合う。それが学校の方針であり、生徒たちもみな活気づいていた。
「俺も足引っ張らない程度には参加しなきゃいけないよな。」
あまり乗り気でなさそうな西園寺は、周りを見ながらそう言う。
私もそれほど乗り気ではないのだが、周りに迷惑がかからないように程々に参加しようしていた。
「それじゃあ役割分担を決めたいと思います。」
学級代表が号令をかけると、学祭の役割決めが始まった。
以前の話し合いで出し物はお化け屋敷に決まっていた為、展示に必要な役割を黒板に書き出していく。出し物のデザイン担当や、組み立ての設計、次々に決まっていく。
かく言う私は、出来れば役職につきたくなかったので、最後の最後まで粘るように黙っていた。
「じゃあ、最後の役割なんですけど…誰かやってくれる人はいません?」
最後の役割は企画書審査というもので、企画書に目を通して問題ないかを確認する係だった。しかし残る人数は5人。割と面倒くさそうな係なだけあって誰もやり出そうとしていない。
「私がやります。」
ジャンケンで、と学級代表が言い出す直前に切り出した私の名前が黒板に書かれる。
ジャンケンをして注目されるよりは自分から言い出して事を始末したほうが気分的には楽だ。
「ありがとうございます。それではそれぞれの分担を協力しながら進めてください。」
そうして私は学祭の企画書審査係になったのだが、予想以上に企画書審査が大変な係であることに、この時はまだ知る由もなかった。
役割を決める話し合いから少し経って、企画書が出来始めた。教室内の禁止構造や、組み立て時の塩ビパイプの運輸経路であったり、企画書に目を通すのは、予想以上の作業だった。こんなことになるならジャンケンを面倒くさがらずにやれば良かった、と思う程にキツい仕事は、学祭に近づく程に作業量を増していた。
そんな疲労が溜まっていたある日の朝、休み時間も作業をしなくてはいけないほど溜まった企画書たちをみて、西園寺が話しかけてきた。
「凄い作業量だな…。ここまでの仕事だとは思わなかった。」
うわぁと同情の目を向けてくる西園寺の言う通り、連日家で企画書に目を通してもまだまだ終わる気配はなかった。
「思ったより大変だった。でもやるって決めた仕事はやり遂げないといけないから。」
そうかー、と横目に言いながら西園寺は私の席まで来る。
「俺も手伝うわ。あの時俺も役割持たずに残ってた訳だし、」
1人に任せるのは悪いだろ、といった感じで置いてあった書類を持って行ってしまう。
「ちょっと…」
手伝ってくれるのはありがたかったが、やはり申し訳なさや不甲斐なさのほうが大きい。
西園寺はそんなことも気にせずに席に戻ってしまう。
(意外に優しいし気が利くんだよね…)
初期のイメージからだいぶ違ってきていた西園寺の性格は、優しくて思っている以上に気が利く。ただその性格はクラスの人の知るところではないのだが。
放課後になって西園寺が私のところに来た。
「わりぃ、全部は終わらなかったわ。凄い量あんのなこれ。」
西園寺の手には先程持っていった書類の半分程度があった。
「いえ、やってくれるだけで十分ありがたいんだけど。残りの書類は一体?」
「あぁ、家帰ってからやろうと思って。持ってきた方が良かったか?」
さも当たり前かのように手伝ってくれる西園寺に思わず戸惑ってしまう。
「そこまでしてもらうのは悪い、と思ったけど実際結構キツくてさ…お言葉に甘えたいかも。」
期限付きの書類もあり、それこそ今日中に終わらなければならないものもあっただろう。
「今日までのやつもあったんだけど、どうしよう。」
時間ないよね?と西園寺に聞くと、大丈夫だぞーと返事が返ってきた。
「教室で出来ないかな。明日の朝までに提出すればいいらしいし。」
「おっけー。ぱっぱと終わらせて帰ろうぜ。」
放課後になり、クラスには人が居なくなっていたため、2人して窓際の席に座った。効率重視で作業するため、久しぶりの隣の席だ。
「こうやって隣の席なのも久しぶりだよな。」
同じことを思っていたらしい西園寺は作業をしながら話しかけてくる。
「そうだね、自己紹介の時の西園寺の印象は最悪だった。」
冗談めかしてそう言うと、西園寺はあれはミスったなーとどこか他人事な様子である。
「でも、思ったより親切だし優しいよね。手伝って貰っておいてこんな評価なのも悪いけどさ。」
「思ったよりってなんだよ。大人数とつるむのは得意じゃないが少人数でつるむのは意外と好きだったりするんだぞ。まあ自己紹介のせいもあってクラスで喋る人はあまりいないが。」
西園寺の意外な一面にへーと話半分に聞きながら黙々と作業を進める。
「最初の頃、私と話してくれたのはなんで?私は自分でもあまり愛想がいい方ではないと自覚しているけど。」
「愛想悪いか?あんま気にしたことはなかったな。」
中学の頃から教室の隅で静かにしていた私は客観的に見てお世辞にも愛想がいいとは言えなかった。
「俺も愛想を振りまくのは苦手だし。人の性格をそんなところで判断するのは早計がすぎるってもんだろ。」
西園寺はそう簡単に言ってくれるが、きっと一般にはそんな考えの人は少ない。
クラスで静かな人がいれば触れないし、面倒くさがりな性格も他人からしたら関わりたくないだろう。
「それに、話してみたら意外と良い奴そうだし。さっぱりしてて人の内側に無理やり入ろうとしてこない所とかも居心地がいいんだよな。」
そう言われると少し照れくさいが、私も思っていることはほとんど西園寺と同じだった。
「意外とってなんだよ。」
少しの照れくささを隠すように、そう茶化す。入学当初よりもだいぶ話しやすくなったのは2人の相性が良かったというのもあるだろう。互いに過干渉しない性格というのか。
沈黙が続く教室には紙の擦れる音とペンで修正する音だけが鳴っている。
お互いの時間を分け合っている空間は不思議と居心地が良い。
「あと少しだけど、学校閉まるの6時だからこれ以上は出来なさそう。」
今日は月曜日ということもあり校舎から6時には出ないといけなかった。
「これくらいなら私が家に持って帰ってからやるよ。こんな手伝ってくれてありがと。」
そう言っても西園寺は納得してなさそうな雰囲気である。
「どっか一緒に出来る所はないよな?やるなら最後まで手伝わせて欲しいんだけど。」
きっと一人でやると言っても今の西園寺は聞こうとしないだろう。まったくお人好しな人である。
「ファミレスとか?」
ついでに夕飯とかも済ませたい、と付け加えると、西園寺はスマホで近くのファミレス店を検索し始める。
「ここから10分くらいのところにあるな。」
「じゃあそこ行こ。」
荷物と書類をまとめると教室をでる。
初夏ということもあって外はまだ明るい。
夕暮れ時に前を歩く西園寺。
(こういうところは気がきかないというか、なんというか。)
「ちょっと待ってよ」
小走りで西園寺の隣まで行くと忘れてたかのようにおお、と返事がある。
こういうのを青春っていうのかもしれないな、なんて柄にもないことを考えてしまった自分が恥ずかしい。
ファミレスで何食べようかな。
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