5話 本好きと見習い編集者
新しい展開がくるそうな。
だんだん書き溜めが無くなっている…出来れば毎日投稿したいと思う今日この頃でした。
高校生ライトノベル作家ーー数年に1度、現れることがあるこの称号だが、これこそが俺、西園寺肇の出版業界での肩書きだった。
小中高と昼休みになれば毎日、本を読み漁る日々。図書室を根城とした学生生活。当然友達が沢山できる訳もなく、暗然たる陰キャ生活を過ごしていた。
図書室の司書さんと仲良くなるのは言うまでもない話だが、本を読んでいるうちに芽生えてくる思いがある。
"本を書きたい"
それを思ったのは小学生高学年の頃。拙い日本語を必死になって紡ぐ。何回書いても本の中の小説のように面白い話は書けない。俺は小説作りに没頭した。それこそ学校の休み時間も休まず書き続けた。
良い作品とは何が違うのか。語尾が連続しているのは変だ。話の展開がつまらない。
そんな苦労を重ねながら、話を綴った。
中学3年生の頃にはネットの小説投稿サイトに投稿するようになった。最初こそ少なかった閲覧数も、徐々に数字を伸ばし、人目に触れることも多くなっていった。
高校生1年生の春、小学生の頃から書き続け推敲を幾度となく重ねていた作品が、出版社の目に止まった。
だから俺は東京に越してきた。出版業界は東京に集まっており、作業しやすいように高校も東京にした。
幸い図書室での日々が功を制したのか頭は良かったため、何とか東京の名門高校へと進学することが出来た。
新人賞を取りそれから3年間、執筆を怠ることなく書き続け、今ではライトノベル作家としては若手のエースとして出版業界では期待されるまでになった。
俺が小説を書いていることを知っているのは家族と柊、一部の先生だ。柊に関しては普段から俺が怪しかったらしく、バレた。大事になって注目を浴びるのだけは勘弁だが柊は黙っていてくれた。
「いつになっても図書室は安寧の地だよなぁ」
しみじみと思いながら新刊のコーナーで良い作品はないかと探す。
ライトノベルにしては修辞的な西園寺の作品は、文学作品としての名も高いが、それは根幹に良い小説が好きだということがあるからだろう。文学作品として軽視されがちなライトノベルにおいて、新たな価値観を生み出したと言える。
「あぁ、光明渉先生の新刊か。」
光明渉、幻想的な世界観と人間ドラマが人気の有名作家だ。この人の文章は読む人を魅せる。流石の語彙と天性の表現力。流石としか言いようがないほど美しい。
手にすると、ずっしりとした質量感、新刊特有のインクの匂いも嫌いじゃない。
「すみません、これ1冊お願いします。」
受付の司書さんは毎日毎日熱心だねぇ、と言いながら貸し出しのバーコードを読み込む。
今日はご飯を食べてから相原さんの話を聞きに行ったから時間が無い。
「いつもありがとうございます。」
落ち着いて本を読みたかったが、仕方がないだろう、次の授業の支度もしなくては行けない。安寧と休息は放課後までの楽しみだ…と思ったが、今日は放課後に編集者との打ち合わせがあること思い出した。
さらば安寧と休息の図書室よ…
煌びやかな放課後に別れを告げる。
ある程度の頻度で行われる打ち合わせでは、新作の案や、現行の原稿(激寒)の話し合いなどがある。第三者の目があると新たな視点に気づけて良い作品になるというものだ。皆が思っているよりも打ち合わせは和気藹々としている。締切が迫れば切羽詰まった雰囲気になることもあるが、どちらかと言うと努力型である俺の作品は、そうそうそういった雰囲気にはならない。
苦ではないが人と関わるのは気を使うしそんなことよりは本を読んでいたい。
ちょうどその時、L○NEの通知が来た。
着信:担当編集 神崎 伊織
「もしもし、西園寺です。」
『神崎です。今日の打ち合わせなんですけど、実は新しく編集見習いという形で編集部に来た子がいてですね。まだ当分は見習いなのですが、初顔合わせということで、先生のご自宅にお連れしてもよろしいですか?』
神崎さんは真面目でテキパキとした女性だ。たまに悪戯な所を見せることもあるが…まあここの話ではないか。
締切の催促はあまりされたことがないが、話し合いにおいては適切なアドバイスをくれる。
しかしまたこんな時期に変わった部署変更があったものだ。担当編集が変わらなければ基本俺には関係ない話なので何でもいいが。
了解ですとだけ告げると、神崎さんは5時過ぎに家に来るそうだ。
不思議なタイミングの新人編集見習いは気になるが、一体どんな人なんだろう。
気になることはあるが、家に帰ってからは次回作の考案をせねばならない。
眠気覚ましのコーヒーとお菓子を途中のスーパーで仕入れて帰ることにするか…。
ー都内マンションー
「すみませんー、着きました」
どうやら連絡通り編集者見習いの人と一緒に来たようだ。玄関から2つの声が聞こえる。
家に帰ってからは執筆に熱中していたため、インターホンの音に気づくことが出来なかった。
「はーい、今行きます。」
玄関の施錠を解く。高校生で一人暮らしということだから安全面も兼ねて少し家賃の高いマンションに住んでいる。
重みのあるドアを開けると、そこには神崎さんが袋を持って立っていた。
いつも打ち合わせをする時はお茶をしながらというのが定石になっているため、そのお菓子が入った袋だろう。
隣に居るのが編集者見習いの方か。
そう思って目を向けると、思わずお互いに固まってしまう。
「せん…ぱい?」
聞き馴染みのある声がした。そう、昼休みに特別教室で聞いたような、そんな声。
少女は目を丸くして呆然と立ち尽くしていた。
「相原さん…?なんでここに?」
そう、神崎さんと一緒に来た編集者見習いはーー相原咲良だった。
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