君の幸せを願う~夢魔と少女の物語
少しだけ残酷かな?と言う物があるのでR15にしています。
あまり深く考えずに読んでいただけたらいいなぁと思います。
ふわふわと夜の闇を漂う。
さて、どいつに悪戯しようか。
僕は夢魔のピター。
夢魔の中でも最下級だから夢に入り込んでも淫夢は見せられず、ただ夢の中を少しばかり引っ掻き回して遊ぶ程度だ。
だけど人間の夢に入り込まなければエネルギーが吸収出来ずに腹が減る。
だから毎晩こうやってめぼしい人間を探して飛び回っている。
美味そうなやつがいても他の夢魔のお手付きだと僕が入り込む余地はないので、誰の手も付いていない、且つそこそこ美味そうな人間を探さなければならない。
この前まで餌にしていた人間は寿命で死んでしまった。
人間はすぐ死ぬから困る。
その点最下級とは言え悪魔である僕はそう簡単には死なない。
退魔師に直接的に攻撃を受けたら消滅してしまうけど、ただ少し夢で遊ぶ程度では退魔師なんて現れないし、弱い分警戒心も強いので危ないと感じる人間には近寄ったりしない。
僕が死ぬとしたら悪戯する為に入り込んだ夢に閉じ込められてしまった時かな?
人間の目が覚める前に夢から抜け出さなければ僕の様に力の弱い夢魔はその夢の中に永遠に閉じ込められてしまう。
そうなるともうそこから出る事は適わず消滅するしかない。
ふわふわと漂いながら荒れた一角を飛んでいると一人の少女が目に入った。
やけに小さく細い少女がボロボロの布を纏って煤けた顔を歪ませてすすり泣きながら眠っていた。
よく見ると体中痣だらけだ。
「人間ってヒデェ事するよなー」
何百年も生きてきたから僕は知っている。
人間は時に悪魔よりも実に悪魔らしい行動をするのだ。
自分よりも弱い者を笑いながら虐めるその顔は魔王様すらドン引きする程に醜い。
きっとその少女もそんなやつらに虐められている口なのだろう。
だから何だと言う話なんだけど。
別に人間がどうなろうとどうでもいい。
僕には関係がないんだから。
そう思って飛び去ろうとしたんだけど、何故かあの子が気になった。
眠りながら泣くなんてどんな夢を見ているんだろう?
夢魔としての単純な好奇心だったのかもしれない。
僕はえいっ!と夢の中に飛び込んだ。
薄暗くて黴臭い冷たい部屋で少女は蹲って泣いている。
そこに腹の出た男がやって来て少女の腕を掴むと無理やり立たせて腹に拳を捩じ込む。
「かはっ!」と少女の口から苦しげな声が溢れると男は更に数発腹に拳を捩じ込む。
「もっと啼け!」
男は実に愉快そうに、何なら恍惚な顔すら覗かせて少女を痛め付け満足すると部屋を出て行った。
それと入れ替わる様に今度はギラギラした仮面を付けた女が入って来て同様に少女を楽しそうに痛ぶって去って行く。
「痛い…痛い…」
少女の悲痛な声だけが冷たい空間に溶けて行く。
「何て最悪な夢なんだ!夢魔だってここまで酷い夢は見せないのに!」
そう言った僕の声に少女が反応した。
「誰?」
夢の中で僕に反応してくる人間なんて今までいなかったから酷く驚いた。
「なっ、何で僕の声に反応してるの?!」
「え?駄目だった?」
顔を上げて僕の目を見た少女は綺麗な空色の瞳をしていた。
僕は夜にしか飛び回れない。
陽の光を浴びると全身に激痛が走り、死にはしないがのたうち回る事になってしまうんだ。
だから人間の夢の中でしか昼間の空を知らない。
その空の色をそのまま閉じ込めた様な美しい瞳に思わず息を飲んだ。
「どうしたの?」
ポカンと不思議そうな顔をした少女が僕を見ている。
空色の瞳に僕が映り込んでいる。
「綺麗な目」
当然の様に口から出た言葉に驚いた。
まるで人間が口説いている時の言葉だったから。
「ありがとう」
僕の言葉に少女は明るい笑顔を向けた。
でも次の瞬間、部屋の扉がガタガタと鳴り、誰かが「開けろ!」と怒鳴る声が聞こえた。
どうやら僕と言う異物が入り込んだ事で少女の夢が少し変わってしまって、ここに入って来て少女を虐める行為をする夢の住人達が入って来れなくなった様だ。
「煩いね」
パチン!と指を鳴らして邪魔な物を消し去った。
扉の無くなった部屋に少女は目を丸くした。
「そっか、ここは夢だったんだね」
少女は嬉しそうに微笑んだ。
「お金が稼げないから殴られ屋をするしかなくて、いつも殴られてるから夢なのか現実なのかももう分からなくなっちゃってた」
「殴られ屋?何だい、それ?」
「お金を貰ってただ殴られるだけの仕事」
「うわぁ、人間ってエグい事するねー」
「お金が無いと生きていけないでしょ?私は体が小さいし、生まれつき足が悪くてまともな仕事には就けないし、でも稼いで来なきゃ父さんに怒られちゃうから」
「君の父さんは何をしてるの?」
「父さんは病気なの。お酒を飲んでないと死んじゃう病気。だから一日中お酒を飲んでるわ」
「そんな病気あったっけ?」
「父さんがそう言ったから多分あるんだと思う」
「ふーん、まぁどうでもいいけど」
急に興味が無くなったからこの夢から出ようと思ったら「もういなくなっちゃうの?」と少女の悲しげな声が聞こえた。
「もう少し話してたい。誰かとちゃんとお話するの久しぶりなの」
「へぇ。君、友達いないの?」
「いない」
「ふーん、そうなんだ」
「いなきゃおかしい?」
「別にー」
「私、サニ。あなたは?」
「え?僕?何で?」
「名前、聞いちゃ駄目だった?」
「いや、駄目って事はないけど、ここ夢の中だよ?聞いた所で起きたら覚えてないよ?」
夢魔が干渉した夢は「怖い夢を見た」とか「何か淫らな夢を見た」位にしか思い出せない。
名前を告げた所で目覚めればただの朧気な夢なのだ。
「変なやつ」
「そう?」
クスクスとサニが笑った。
「僕はピター」
「ピター。可愛い名前」
「はぁ?可愛い?!」
「うん、可愛い」
胸の中を直接擽られた様な不思議な気持ちになった。
*
次の日も僕はサニの夢に入った。
サニは夢の中で僕を待っていて、名前もちゃんと覚えていた。
稀にそういう不思議な力がある人間がいるのだが、サニもその手の人間だった様だ。
相変わらずサニは夢の中だと言うのに薄汚れていてみすぼらしい。
指を鳴らして全ての汚れと痣を消し去り、ついでに足も治してやった。
現実世界にまでは影響しないが、夢の中でなら好きな様に動き回れる。
「ピターは魔法使いなのね」
急に綺麗になって、足も動く様になった自分にサニは驚いていた。
「いや、逆に何で君は夢の中でまであんな姿なの?ここさ、君の夢の中だよ?夢の中は自由だよ?顔だって、何なら動物にだって姿を変えられるのにさ」
「そうなの?」
「そうだよ。他の人間なんて好き勝手に楽しんでるよ」
「そうなんだ、知らなかった」
「変な人間」
「そう?ピターは綺麗ね。綺麗な魔法使いさんね」
「綺麗?」
「ええ、ピターはとても綺麗よ。夜空を映した様な髪も星空みたいな不思議な瞳もとても綺麗」
「そんな事初めて言われた」
「そう?私、ピターみたいに綺麗な男の子、初めて見たわ。きっと魔法使いだからピターは綺麗なのね」
「魔法使いじゃないんだけど…」
「ん?何?聞こえなかった」
「別にー。ねぇ、歩いてみたら?ここでなら普通に歩けるし」
「そうね、やってみる」
サニは壁に手を付いてぎこちなく立ち上がると、恐る恐る不自由なはずの右足を動かした。
「動く!動くわ!…そっか、普通に歩けるってこんな感じなのね」
サニは不思議そうに右足をトントンと動かしていたが、顔を上げると光が差す様な明るい笑顔を見せた。
「普通って素晴らしいのね!」
きっと太陽はサニの笑顔の様に眩しいのだろうな、と思った。
その位に眩しい笑顔だった。
それから僕は毎晩サニの夢に入ってサニと色んな事をした。
僕が見て来たお芝居というやつをサニに見せたり、知り得る綺麗な服をサニに着せたり、サニが知らない動物を出してみたり。
夢の中のサニはもう泣く事もなくなりいつもニコニコと笑っていた。
だけど僕は気付いていた。
サニの生命エネルギーが毎日少しずつ弱くなって来ている事に。
僕はサニからエネルギーは盗っていない。
余りにも弱々しいエネルギーだったから盗れなかったのだ。
なのにサニは日に日に弱っていく。
夢から抜け出しサニの体を見ると初めて見付けた時よりもそこら中に痣が増え、所々からは切り付けられた様な傷も見えた。
僕は余りにも低級な悪魔だから人間に干渉出来ない。
何かしてやろうにも力が足りなさ過ぎてもの一つ動かす事が出来ない。
触れたくても触れられない。
そんな自分がもどかしくて、何故か泣きたくなった。
守ってあげたい。
そんな感情を人間に抱くのは初めてで、自分の感情が何なのか分からなかった。
せめて夢の中でだけでもサニに幸せになってもらいたいと思った。
だから僕は毎日サニの夢に入った。
サニが喜びそうな物を見せ、時には空を飛んでみたり、雲に寝そべってみたり。
サニは何をしても喜び、幸せそうに笑ってくれた。
だけどやっぱり日に日に弱っていく。
夢の中に入り込んでちょっと悪戯が出来るだけの僕には何も出来ない。
「ピター?どうしたの?」
「…何でもない」
「何でもないって顔じゃないわ?」
「…何で君は笑っていられるの?君はもうすぐ死んでしまうだろう?」
「そっか…やっぱり私、もうすぐ死んじゃうんだね」
そう言うとサニはニッコリと微笑んだ。
「何で笑えるの?人間は死にたくないとみっともなく足掻く生き物だろう?何で君は足掻こうとすらしないの?」
「だってそれは生きていて少しでも楽しい記憶があるからでしょ?私には何もないもの。起きているうちはただ怖くて痛くて苦しいだけ。ピターと会ってる夢の中だけが幸せで、本当は目覚めたくもないの」
「死んでしまったら夢も見れなくなるんだよ?」
「あら?私はそうは思わないわ。だって誰も死んだ後の事なんて分からないじゃない?もしかしたらずっと夢の中で笑っていられるかもしれないじゃない?」
「それはそうだけど…」
「私ね、ピターが夢に来てくれるまでいつもこのまま死んでしまいたいなぁって思ってたの。寝ても覚めても怖い事や痛い事ばかりで、何一つ楽しい事なんてなくて、辛くて寂しくて。でもピターに会えた。こんなに楽しくて幸せな時間が貰えるなんて思ってなかったから神様に感謝したわ。ピターに会わせてくれてありがとうございますって。きっとピターは神様が私に最後に与えてくださった天使じゃないかと思うの。だからきっと私が死ぬ時はピターが迎えに来てくれるんじゃないかと思っているの」
そう言うと本当に可愛らしく笑った。
胸がギュッと絞られた様に痛むのに、その笑顔に頬が熱を持った。
仲間の夢魔が言っていた言葉を思い出した。
「たまに人間に移入しすぎて恋に堕ちる馬鹿な悪魔がいるんだよな」
あの時は馬鹿にして笑っていたがもう笑えない。
僕もサニに恋をしているのだから。
この訳の分からない感情も人間の恋愛に結び付けると腑に落ちた。
同時に悪魔である僕がサニにとっては天使だなんて、騙している様で嫌な気持ちになった。
悪魔である事を今まで何とも思わなかったのに、何なら少し誇らしくさえ思っていたのに、急に自分の存在が疎ましくなった。
悪魔と天使は対極な存在だ。
僕が天使だったならサニをこんな風にただ弱らせておく事はしないだろう。
こんなにか弱く儚く可愛いサニに手を差し伸べて救い出してあげる事だって出来たはずだ。
「…僕は天使じゃない…悪魔なんだ…」
「そっか、ピターは悪魔なのか。ピターは私の魂を食べに来たの?」
「そんな事はしないよ!」
「悪魔は人の魂を食べるんでしょ?」
「そう言うやつもいる。でも僕はほんの少し夢に悪戯するだけしか出来ない」
「私、ピターになら魂を食べられてもいいわ。私の魂を食べたらピターとずっと一緒にいられるでしょ?あなたの一部になってずっといられるでしょ?そうなったら嬉しいと思うの」
確かに人間の魂を食らう事は出来る。
人間の魂を食らうと悪魔としての力が増し、今まで出来なかった事が出来る様になったりもする。
だけど一度食らうと引き返せなくなる事を知っている。
僕の仲の良かった友達は人間の魂を食らっておかしくなった。
何かに蝕まれて行く様に徐々に壊れて行った。
契約を取り交わさずに魂を食らうとそうなるのだ。
僕らみたいな低級が召喚されて魂の契約を交わす事なんてない。
人間の魂を対価にしてその願いを叶える等と言う大それた力はないのだから。
「ねぇ、ピター?私を食べて?」
「出来ないよ…」
「どうして?」
「君が好きなんだよ、サニ」
「…嬉しい」
サニが顔を真っ赤にして僕に抱きついてきた。
柔らかく温かいサニの体を僕もギュッと抱き締めた。
その時夢が突然揺らいだ。
強制的に誰かがサニを起こそうとしていた。
サニが目を覚ます寸前に僕は夢から飛び出した。
するとそこにはサニの傷だらけの体を足蹴りしながら、酒臭い息でサニを怒鳴る男がいた。
「おい!オラ!起きやがれ!何時まで寝てるんだよ!金はどうした?!酒がねぇんだよ!」
サニがヨロヨロと起き上がると男はサニに酒瓶を投げ付けて「酒買って来い!」と怒鳴った。
「昨日お金を渡したじゃない」
サニがそう言うと男は「あんな端金じゃ酒一本買ったら終わりなんだよ!」と怒鳴り、テーブルを派手に蹴飛ばした。
倒れたテーブルが床に散らばった酒瓶にぶつかり、酒瓶は派手な音を立てて割れた。
破片がサニに飛んで行き頬から血が流れるのが見えた。
男はそんなサニの事なんて何とも思わないのか、ただ「酒だ!」と怒鳴っている。
怒りで目の前が真っ赤に染まった。
この男が諸悪の根源だ。
そう思うと堪らなく腹が立った。
怒りで全身が膨れ上がるのを感じた。
感情が抑えきれない。
気が付くと僕はその男の魂を奪っていた。
手の中にはドス黒い魂がウヨウヨと醜く蠢いている。
自分に人間の魂を奪えるだけの力がある事に驚いた。
と同時に自分も友の様に堕ちていくのだと分かった。
奪った魂は少しずつ僕の中に吸収されている。
口から飲み込まなくても勝手に入り込んでくる。
あぁ、そう言う事なのか…
僕は理解した。
友もこんな風に薄汚れた魂を怒りに任せて奪って、その汚れが全身を蝕んだのだろう。
人間の悪意は悪魔のそれよりも醜く醜悪で、否応なく全身を蝕んでいく。
毒なのだ。
じわじわと広がり、狂わせ、闇に染める。
「ピター?」
サニの声がして振り返ると、サニが不安そうに僕を見ていた。
どうやらあの男の魂を吸収した事でサニに僕の姿が見える様になったらしい。
「君の大切な父さんの魂を食らった」
「ピター?」
「…サニ、お別れだ」
「どうして?!」
「僕は悪魔だ。君とはいられない」
「嫌!」
「サニ、君は生きるんだよ。生きて幸せにおなり」
何が出来るのか分からなかったが、ありったけの魔力をサニに送り込んだ。
魔力は生命エネルギーだ。
きっとサニは生き残れるだろう。
願わくばサニがもう苦しくない様に…
笑っていられる様に…
*
【サニ】
父さんがドサリと倒れたと思ったら突然ピターの姿が見えた。
ピターの手の中にはドス黒い塊が握られていて、それがピターの手の中に少しずつ入り込んでいる。
あれは良くない物だと思った。
思わずピターを声を掛けると、右目から涙を一筋流したピターがとても悲しげな顔でこちらを向いた。
「君の大切な父さんの魂を食らった」
ピターの手に握られているそれが父さんの魂なのだろう。
だけど私にとって父さんは大切なんかじゃない。
ピターの方がよっぽど大切で失いたくない。
心の中ではそう叫んでいるのに声が上手く出ない。
「幸せにおなり」
そう言うと風が吹き、思わず目を閉じた。
目を開けるとそこにはピターの姿はなく、あんなに重くて痛かった体は傷すらなくなり、悪かった足も治っていた。
「ピター!」
外に飛び出してピターを探し回った。
死んだ父さんを放ったまま私は夜の町を駆けずり回った。
でもどれだけ探してもピターは見つからなかった。
あんな家には帰る気になれず、私はそのままピターを探す旅を始めた。
行く先々で日銭を稼ぎながら旅を続けた。
あれから10年が過ぎていた。
あんなに小さかった体は今ではすっかり大人の体になり、きっと今ピターに会っても私だと気付いてもらえないかもしれない。
だけど会いたかった。
あの地獄の日々の中で唯一の光だったのがピターで、ピターに好きだと言われた時魂が喜びに震えた。
あまり感情の出ない私だったが、本当に本当に嬉しかったのだ。
今私が元気でいられるのはピターのお陰だ。
ピターが悪魔だとて構わない。
そばにいたい、いて欲しい。
その一心でピターを探し続けた。
夜の森と呼ばれる、昼間でも不気味な程に暗い森の奥でピターを見付けた。
木の洞に身を隠す様に眠るピターはあの日のままの姿をしていた。
でもよく見ると体のあちこちが真っ黒い灰の様に崩れかけている。
「ピター!」
駆け寄って近付くとピターが目を重そうに開いた。
「…サニ?」
「そうよ、サニよ!」
「近付くな…駄目だ、君まで穢れてしまう」
「それは父さんの穢れなのね?」
ピターの頬にそっと触れた。
スルリとした滑らかな感触が伝わってくる。
「駄目だ、離れろ」
頬に触れる手に黒いモヤの様な物が纏わり付いてくる。
「嫌よ。私、ピターから離れないわ」
「どうして?」
「だって私、あなたに心を食べられてしまったんだもの」
「僕は食ってはいない」
「ううん、食べたの。私の心はあなたに囚われてしまったの。だから離れない」
「君まで死んでしまう…」
「いいの」
「良くない!君は幸せになるんだよ、サニ」
「私の幸せはあなたと共にいる事よ?私の幸せを奪わないでくれる?」
そう言うと黒に染まりつつあるボロボロのピターを抱き締めた。
私の中にも黒い物が入り込んでくるのが分かったが、ピターと一緒だと思うと怖くなかった。
「サニ…ごめん…僕が君に関わったばかりに…」
「ピターがいなかったら私は楽しい気持ちも幸せな気持ちも恋する気持ちも知らずに死んでしまっていたわ。私はね、今幸せなのよ、ピター」
ピターの手が私の頭を撫でる。
黒い物が入り込んで来て苦しいはずなのに、心はとても温かい。
見上げたピターの瞳は相変わらず綺麗だ。
ピターの目を覗き込みそのままピターの唇にキスをした。
「私を見付けてくれてありがとう、ピター」
突然のキスにピターの顔が真っ赤に染まった。
「サニ、大好きだよ」
目の前が真っ黒に染まる直前、ピターの優しい声が聞こえてきた。
「私も大好きよ」
ピターにピッタリと抱きついたまま、私達は闇の中に溶けて消えて行った。
*
【???】
やれやれ、世話の焼ける事だ。
悪魔と人間の恋など許されるはずがない。
そのうち消えてしまうだろうと思っていた感情は最後まで消えず、闇の中にあっても美しく光り輝いている。
余りの眩しさに不浄な物が消し飛んでしまう程である。
本来であれば輪廻の輪に乗れるはずのない汚れた魂であるはずの悪魔の魂は青白い光を発している。
それに離れない様に寄り添う娘の魂はほのかに桃色の光を発している。
「どうした物か…」
引き剥がそうと試みてもきつく抱き合った様に離れてくれない二つの魂。
これでは輪廻の輪に乗せられないではないか。
「何故こんなに惹かれ合ってしまったのだ」
大きく溜息を吐き二つの魂を小瓶に詰めた。
飽きるまで二人きりにしておけばそのうち離れるかもしれない。
その時に輪廻の輪に乗せてやればいいだろう。
明るい日差しの中、小瓶の中の二つの魂は幸せそうに揺れていた。
本来の夢魔とは違うと思って頂けたら…
その点あまり深くツッコミを入れずにもらえたら有難いです。
手厳しいご感想は泣きそうになるので御遠慮頂けたら助かります。