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転生貧乏令嬢メイドは見なかった!  作者: kyo


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52話 反撃1 情報集め

 長くなると思うので、おやつを作ろうと思う。皆様朝ごはんは食べられているだろうから、おやつで腹持ちするものがいいな。

 ミリアとトムお兄様に手伝ってもらってポテトフライを大量に。油がいっぱいあったから、ありがたーく使わせてもらったよ。


 皆様神妙な顔をしている。


「召し上がってください」


 出したものの、手を付けられない。

 芋嫌いか?

 お兄様とわたしとトムお兄様はバクバク食べる。ミリアは隣の部屋で食べてもらっている。


「あの、話とは?」


 聞かれて、わたしは慌ててポテトを飲みこんだ。


「反撃しましょう」


「反……撃……?」


 全くもって考えていなかったようだ。


「それには情報が必要なので、知っていること洗いざらい話してください」


「リリアンは豪気だな。リリアン、お前がつけているのはなんだ? バターか?」


「バター醤油もいけますよ」


「いい匂いがする。僕ももらおうっと」


 ラモン様が手を伸ばして、おいしいと呟くと皆様もやっと手を伸ばし始め、手が止まらなくなる。


「な、なんだこれは?」


「フライドポテトです。お芋を揚げました」


 お気に召したみたいだ。塩オンリーだけでなく、バター醤油など味変も楽しんでいる。


「それで、反撃とは何を考えているんだ?」


 タデウス様に尋ねられる。


「これから考えます。いつまでも受け身でいたら埒が明かないから情報をください。みんなで考えれば、きっといい案がでますよ」


 ポテトをもうひとつ頬張る。

 殿下が笑う。


「リリアンが辞退するので呼ばれたのかと思った」


 ああ、そうか。まあ、あんな目にあったからね。半分はわたしが悪いけど。

 それで皆様神妙な顔をしていたのね。


「ファニー様の役割がわかれば、有利に持っていけると思うんですよね。だから皆様の取り返したいもののことを詳しく教えていただけませんか?」


 わたしは菊花茶を一口のんだ。油っぽかった口の中がさっぱりして、またポテトをつまみたくなる。


「皆様のご家族がそれぞれに意味を考えられたと思います。でも賭けはそこにファニー様が食い込まれている。だから、クリスタラー家が関わることによって、何か思いつくことがあるんじゃないかと思うんですよね」


「話せる者だけが話す、でいいか?」


 殿下に確認されて、わたしは頷いた。


「もちろんです」


「兄上、王太子殿下がなくされた物は、精霊王の指輪だ。そんな名前だが、本当に精霊王の物だったわけではないし、力が込められたものでもない。ただ、あの森が我が国の所有であるからこの指輪がここにあると思わせるために作られた物だそうだ」


 精霊王の持ち物だったわけではないんだ……。


「お兄様、精霊王の指輪で何か聞いたことはありますか?」


「いや。聞いたことはない」


「そうですか」


 テオドール様がため息をついて話し出した。


「うちの弟がなくした魔石は、魔力を増強させる物だ。……周りから魔力を吸い取ってな」


「魔力を吸い取るの?」


 ラモン様が不思議そうに尋ねると


「吸い取られた方は、一生魔力が宿らなくなるそうだ」


「何それ」


 ラモン様が怯える。


「これが悪事に使われると非常に厄介だ。だから、その魔石を無効化する術を編み出した。そんな危険な物、後生大事に取っておくのが悪いんだ。オレは魔石を無効化して破壊したいんだ」


 テオドール様の明確な意志を感じる。


「お兄様、魔石について何か聞いたことは?」


「初めて耳にした」


 そうか。

 タデウス様は顔が青い。ちょっと簡単に聞きすぎてしまったようだ。


「あの、無理にはいいんです。言いたくなかったらいいんですよ」


「うちのは手紙だ」


 タデウス様が低い声を出す。


「手紙?」


 テオドール様が首を傾げる。


「ただの手紙だが、暗号を解読すると……多くの貴族を巻き込んだ事実がさらされることになる。そして、オッソー家に謝りたい」


 え?


「オッソー家が冤罪で罪を被ったのを、我が一族は知っていた。卑怯にもその事実を公表しなかった」


 あ。風水の断罪絡みなんだ。


「タデウス様、わたしに謝る必要はありません。その……者ではありませんし、タデウス様だって悪くないじゃないですか」


 まさか、リリアンの方でも関与する何かがあるなんて。わたしは本物ではないし。タデウス様に悪いことをしている。

 その後もいつもと同じ雰囲気を作ってはいるが、顔色がひじょうに良くない。ひたすら心苦しい。


「僕のところのは教本だ。古いね。あんなの持ってても困ると思うよ」


 ラモン様はのんびりした口調で告げる。


「ラモン、初版本を読んだことないのか?」


 テオドール様が尋ねる。


「ひとつ改稿前のは読まされたけど、あんな古いのは読まないよ。でも、そうか何か糸口になるなら、あの人に聞いてみるよ」


 あの人?


「見事に家宝のある者に取り入り、手にしているな」


 お兄さまが顎を触り考え込んでいる。


「その家宝がなんに使えるのか、全くの謎ですけどね」


 ラモン様がお兄さまに答える。


「どうですか? 何か思い当たることはありますか?」


 殿下がお兄さまに尋ねた。

 お兄さまが首を横に振る。

 皆様の取り返したいものを聞いてみたけれど、クリスタラー家としてピンとくるものはないようだ。何かわかるかもなんて大口を叩いて、話しづらいことを言わせた手前、申し訳なかった。


「クジネ男爵令嬢は、自分の評判が地まで落ちたから、同じ男爵令嬢のわたしの評判を下げて、わたしに噂を移すつもりなんじゃないかと思いましたよ」


「そんなバカな」


「でもお茶会でも夜会でもクジネ男爵令嬢より、ファニー様の陰口の方が凄かったですよ。顔を隠しても男を落としてるって」


「それはお前が可愛いからヤキモチをやいているんだ」


「そうだよ、ファニーは可愛いからな」


 身内だからね。お兄様とトムお兄様の可愛いはありがとうと聞き流す。


「では、わたしはクジネ令嬢に接触してみます」


 皆様がわたしを驚いたように見た。

 昨日クジネ男爵令嬢に会った時は、キラキラして見えなかったし、可愛いのは可愛いと思ったけど、守りたいとはならずにすんだ。もし、今日話す機会があったら話してみよう。何かヒントがあるかもしれない。でも、わたしは賭けのことを知らないはずなんだから、そこは気をつけなくちゃ。


「頼もしいが、何を探るつもりなんだ?」


 タデウス様に心配そうに見られた。


「令嬢に言われて、耳に残っている言葉があって。そこをつついてみるつもりです」


「何を言われたんですか?」


 マテュー様も心配そうだ。


「〝おちなかったのだから、それなら幸せでいないとでしょう?〟」


 皆様、一様に無表情になる。


「楽しく過ごしているのかを聞かれて、続けて言われました」


「おちるって何を指しているの?」


「わかりません」


 正直にラモン様に答える。


「わからないけれど、令嬢は幸せでいるファニー様に用がある気がしたんですよね」


 そして、もし、同胞なのだとしたら、何かもう少し見えそうな気がする。だから同胞なのかそれを知りたい。前世の言葉を投げかけてみようと思う。ただあちらの要求がわかるまではわたしが前世の記憶があることは知られたくないから、その言葉はどこで知ったと聞かれても人伝に聞いたとかなんとか言ってごまかそうと思っている。


「皆様の取り返したいものは、やはりすべて大切なもののようですね。賭けでは勝てたとして、そして向こうが素直に対応したとして、戻ってくるのはひとつです。でもわたしたちが取り返したいのは4つ全部です。令嬢の家も探してなかったんですよね? それぞれ大きいものではないけれど、一体どこに隠したのかしら? まぁ、バラバラに保管してはいないでしょうから。例えば、本当に持っているのかと尋ねて、どうしても見たいと言ってみるのは?」


「もし見せたら、持っていないと言い張っていたのだからそれは偽っていたことになり、そこで捕らえられるかもしれない。だから絶対に見せないだろう。細心の注意を払って『欲しがっているもの』としか言わないぐらいなんだ。不確かでもこちらはそれにすがるしかない重要なもので、こちらが強く出られないことを知っているんだ」


「……この中で一番、口がうまいか、クジネ令嬢が苦手としているのは誰でしょうか?」


 皆様、顔を見合わせている。


「どういう意味だ?」


 テオドール様に答える。上品な方々だから正攻法しか考えないんだろうな。


「皆様、近いうちにクジネ令嬢と必ず話してください。そして令嬢が何が苦手かを探るのです」


 なんかわたし悪役っぽいな。


「何が苦手か?」


「圧がある人が苦手、とか。直球で聞いてくる人が嫌とか。含みを持たせた会話が腹が立つとか。令嬢の苦手とすることがあるはずです。それを探ってください。令嬢が最も苦手とする方が交渉するんです」


 心理戦だ。少しでもこちらに有利になるようにしないと。相性の良いかたが言葉巧みにも有効だが、彼女の周りは彼女を大好きな人で埋め尽くされているからそちらの扱いは長けていそうで、苦手な人の方がボロを出しそうな気がしたんだ。


「あ、閉じ込められた感がお好きではないようなので、すぐには助けが求められない状況とか効くかもしれません。それで絶対に、ブツを見せてもらう言質をとってください。見たからって持っていたと捕まえたりしない、他の介入はない、誓約魔法をしてもいいとか言って。そしたらそれをとりに行くかするでしょう? その場所を探るんです。探るだけですよ。家宝が全部手に入ればいいですけれど、本物かもその場ではわからないでしょうから。場所を知っておくんです」


 呆気に取られた顔をしていたが、立ち直りが早かったのは殿下だった。


「なんていうか、君、たくましいね」


「女性から、そんな悪どい、失礼、発言が飛び出すとは」


「悪女っぽいリリーも魅力的だね」


「あの女に近づいて、手をあげないようにするのに苦労しそうだ」


 テオドール様はかなり彼女が嫌いみたいだ。


「いつも取り巻きがいるから、そいつらと別行動させるのが一番大変そうだ」


 マテュー様が額を押さえる。


「……それからご家族に今一度、家宝のことをよく聞いてみてください。欲しがられた理由があるはずです。それを少しでも知っておかないと」


 そこでお開きにすることにした。帰り際、本物のファニーと一人ずつ話す機会をくれと言われ、お兄様が頷いた。明日から何人かずつ話すと約束した。

 皆様が出て行かれてからお兄様を問い詰める。魔力でも神力でも体型でもわかっちゃう。どうするの?と。お兄様は考えてあると嗤った。



 少し休憩してから夜会への用意だ。昨日、休憩室で何かがあったことは知られてしまった。口止めはしているが、人の目がなかったわけではないからね。わたしとフィッシャー家が関わっていることもバレたようだ。だから表向きには、パトリック様が酔っぱらい、わたしとフレディ様が介抱した。休憩室に先にいらした外国の侯爵様にパトリック様が酔って失礼なことをした。それでちょっとした騒ぎになったということにしたそうだ。

 ここでわたしたちが夜会を欠席したら、どんな尾ビレがついた噂になるかわからない。大したことではないアピールだ。

 パトリック様からは朝早くにお詫びの花をいただいた。これは本物だった。



 今日はタデウス様のドレスにした。結局わかることはなかったのに、いいたくないことを言わせてしまった。それが頭に残っていたからだろう。

 ブラウンに明るい緑を合わせた優しさを纏わせたようなフリルのついた可愛らしいドレスで。装飾品はトパーズだった。決して派手ではないが、奥ゆかしく品がいいので華がある。

 今日のお化粧は眉も目も手を抜かずにバッチリ描きこまれている。ドレスの優しい印象に合わせるのかと思いきや、何事にも物怖じしそうにない迫力あるメイクだ。確かに気の強い勢いのある派手目な印象がドレスのふんわりした可愛さと相まって中和される。ミリア、すごい! 今日もまたヴェールをする。こんな素敵にしてもらったのに隠すのはもったいないと思える腕だ。

220709>だがら→だから

誤字報告、ありがとうございましたm(_ _)m


220709>意地がやける→腹が立つ

これも方言だったなんて(°▽°)びっくり!

適切に、ありがとうございましたm(_ _)m


221229>ファニー→リリアン

思い切り身内から身バレさらしてました!

適切にありがとうございましたm(_ _)m


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