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転生貧乏令嬢メイドは見なかった!  作者: kyo


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41話 春を祝う4 嘘

 わたしだったら知りたいといえば、そうだろうなという表情をしている。


「ところで、リリアンと男爵は前からお知り合いだったのですか?」


「いいえ」


 間髪入れずにお兄様は嘘をつく。


「なるほど」


 何がなるほどなんだか、王子様は頷いた。


「リリアンから私たちとリリアンが知り合いだという話は聞きましたか?」


 何か間違った? 何かまずいことしちゃった?


「リリアンから聞いたのではありませんが、殿下たちがリリアンをファニーの世話役に引き抜いたことは存じております」


「ほう。……男爵の得意分野のお仕事でしたね、そういえば」


 何を言っているんだろう?


「よくお調べになったのですね。でも殿下の勘違いですよ。私はファニーの世話役を引き受けたというオーディーンメイド紹介所に尋ねただけですよ、経緯をね」


 お兄様はくすりと笑う。


「もうひとつ、お聞かせ願いたい。令嬢に伝えるか結果が出てからと思ったのだが、そろそろ抑えるのが限界のようでね」


 王子様はわたしに視線を合わせた。


「なぜ、夜会にリリアンが出たのかな?」


 え?


「夜会に出たのは君だね、リリアン」


 マテュー様が確信を持って言われる。

 な、なんで。顔だって出してないし、声だって違ったはずだ。それに彼らの前でわたしは声を出してない。


「何をおっしゃっているのか……」


「クリスタラー令嬢の魔力がリリアンとピタリと同じだった」


 テオドール様が紅茶を飲みながらおっしゃる。

 魔力! テオドール様は魔力を感知できると言ってた。


「植物の反応も、リリーを示していたよ」


 ラモン様の胸には生花が飾られていた。ラモン様は神力が使える。それでわかっちゃったの!?


「夜会に出ていたクリスタラー令嬢はリリアンの体型に完全に一致していました」


「一致って、君……見た目でそんな……」


 お兄様が証言を笑い飛ばそうとすれば、マテュー様はさらに言い募る。


「背の高さ、顔の大きさ、耳の位置、肩幅、胸の大きさ」


 ばっとお兄様に信じられないような物を見る目つきで見られる。

 ! カァーと顔が熱くなった。

 とにかく首を横に振って、否定をしておく。なんの否定かと言われるとわたしもパニクっててわからないのだが。


「なっ。ど、どこでわたしのサイズを??」


「どこって、いつも見てればわかります。腰、尻、腰の高さ、腕の長さ、手の大きさ、足の長さ、膝の位置、足幅、歩き方、全てがリリアンでした」


 顔から火がでそうだ。


「おい、マテュー」


 タデウス様がマテュー様をこづく。


「なんだ?」


「お前、もうちょっと言い方を考えろ」


 額を押さえている。


「リリアン、マテューは騎士になるべく常に相手の体格や癖を拾う訓練をして、身についているだけなんだ」


「そうそう、マテューに変な気持ちがあるわけじゃないんだよ。まぁ、体格を1ミリの誤差なく、含めてリリーと認識しているから、僕だったら気色悪いけどね」


 テオドール様のフォローとラモン様のフォローにならなかった何かでマテュー様が慌てる。


「気色悪いとはどういうことだ? 事実なんだ。リリアンの背は158センチで胸は……」


「マテュー様、やめてください! 二度とわたしの体型について具体的なことを言わないで!」


 ヒステリックな声がでた。


「え? あ、ああ、悪かった」


 勢いに押された感じで謝っているけれど、絶対、わかってない!


「パストゥール家のご子息と、とても仲がいいようだね、リリアン」


 お兄様の声音がじとっとしている。後で詳細を聞くからなという言葉がついているように感じる。


「私には今日初めてあった男爵とリリアンの方が親しげに感じられますがね」


 王子様は長い足をいったん伸ばして組み替える。

 あ。


「後ろに控えている侍従の方もとても信頼しているように見受けるよ。私たちには子猫が爪を立てるように、なかなか警戒をといてくれなかったのにね」


 なっ。


「……ああ、そういうことですか。皆様、ウチのファニーよりリリアンが気にいっているようですね」


 お兄様、何を言い出すんだ?


「ファニーとリリアンに賭けは仕組まれたものだと言いたいわけですね。だから、ファニーに全部を知らせて巻き込みたい、と」


 王子様たちは、黙ってお兄様をみつめる。


「ところで、リリアン、君は貴族だったかい?」


「? ……いえ、平民ですが?」


 お兄様、設定を今確かめる必要がある?


「伯爵家が平民をねぇ……。お遊びなのかな?」


「それに関してはクリスタラー男爵に申し上げることではないと思いますが」


 タデウス様が切り返した。

 ん??

 なんか雰囲気が殺伐としている。


「皆様、お茶のおかわりはいかがですか?」


 トムお兄様の声がけで、張り詰めていたような空気が解かれる。


「まあ、猫も安心していいところは本能でわかるんじゃないかな」


 と思ったら、カップを持ち上げながら言ったお兄様の言葉で険悪さが戻ってくる。


「リリアンさん、一緒にお湯を取りに行ってもらえますか?」


 トムお兄様に言われてわたしは頷いた。

 だって、この部屋、空気悪いんだもの。




 廊下に出るとトムお兄様はクスッと笑われる。


「で、誰がお気に入りなんだい、ファニーは?」


「お気に入りってなんですか、お兄様、失礼ですよ」


「うわー、自覚なしか。それは気の毒に」


「トムお兄様、茶化さないでください。わたしは仕事をしに来てるんですから」


「ファニー」


 優しく呼びかけられて、わたしは振り返る。


「平民だって貴族だって恋はしていいんだよ。逆にしていけないのは、幸せになれるチャンスを自分で潰すこと。破れたのならそれは仕方のないことだけど、真剣に気持ちと向き合って、怖がらずに飛び込め。お前が幸せになるためなら、おれもアヴェルもなんだってしてやるから」


 いつもミリアと分け隔てなく同じように接してくれた優しいもう一人のお兄様。転んで怪我した時もよく手当てをしてもらったっけ。森で遊び疲れておんぶして連れ帰ってもらったりもした。わたしの初恋は何を隠そうトムお兄様だ。わたしはお兄様が大好きだっていっぱい伝えたのに、妹扱いはずっと変わらなかった。そりゃそうだよね。小さい頃を知っていて、ミリアとひたすら甘えまくったのだから。


「ありがとうございます」


 生活苦により強制終了されていた甘酸っぱい初恋。働きに出て、遠くにいて距離ができたからこそだとは思うけれど、素直にありがたいなと思えたことは、本当に初恋は終わっていたんだなと感慨深く思う。


 紺色の髪。トムお兄様の方が少し明るいけど。そっか、だから、最初からマテュー様に悪い感情を抱かなかったのかも。同じ髪色だってことだけで。


 給湯室に行くと異例の速さでお湯の入ったポットと交換をしてくれた。トムお兄様にみんな瞬きをいっぱいしながら見上げてくる。

 給湯室では貴族より侍従なんかの平民の方がよくモテる。ちょっと意地悪そうに見えながら、実際は優しいトムお兄様は、少しおしゃべりでもしたら絶対モテるだろう。


 お屋敷での話をしながら部屋へと戻る。空気がよくなってるといいんだけど。


「ファニー」


 呼ばれてトムお兄様を見上げる。


「ファニーって?」


 聞かれた! なんで部屋の外にラモン様が?

 ラモン様に手首を持たれて引かれる。

 部屋にズンズン入っていく。


「どうした、ラモン?」


「リリアンに乱暴にするな」


 テオドール様が注意してくださって


「あ、ごめん」


 ラモン様が手を離してくれた。

 トムお兄様がポットを持って部屋に入ってくる。


「侍従さん、なぜ、リリーをファニーって呼ぶんです?」


「え? ……ああ、ハイン様の早とちりですよ。ファニーの話をしていただけです」


 トムお兄様はとても自然に事実を伏せた。


「主人の妹である令嬢をファニーと呼び捨てているのか?」


「……私はアヴェルと乳兄弟でして、その関係でファニーも妹のようなものなんです。それより皆様、頭が冷えましたか? 女性を怖がらせる話運びはよくないですよ」


 トムお兄様、めちゃめちゃ笑顔だけど、わたしは笑えない。

 トムお兄様、相手は貴族と王族だから!


「確かにリリアンを怯えさせたようだ。そして外に連れ出してそれを解いてくださったのですね、あなたが」


「お気に障ったのなら申し訳ありません。同じ年頃の妹がいるので、どうしても過保護になりがちでして」


 ふっとお兄様が笑った。


「悪かったよ、トム。私の大人気がなかった」


 トムお兄様は会釈をして、そしてわたしを席に誘う。

 また座らなきゃなのか。


「話は進みましたか?」


「いや、私たちも休憩して歓談していたんだ」


 そうなのか。では、まだわたしが夜会に出たって疑われたままなのね。

 お兄様はどうする気なんだろう。


「リリアンの好みのタイプについて話していたんだ」


 吸い込んだ息が変なところに入って咳き込むと、お兄様が背中をさすってくれる。お礼を言ってから抗議する。


「なんでそんな話になるんですかっ」


「それはリリーが僕たちに懐くには時間がかかったのに、男爵や侍従には簡単に親しんでいるから、年上が好みなのかと思って」


「この中でリリアンより上はオレだけだな」


「年上って年だけのことじゃなくて包容力とかそういうのじゃないの? それはテオにはまだ備わってない感じが」


 テオドール様が嬉しそうに言ったのを、ラモン様が正当な意見をぶつけた。


「リリアンは年下は嫌いか?」


 マテュー様に真剣に尋ねられて焦る。なぜ焦ってるのかもよくわからないけれど。

 やだ、みんながわたしを凝視している。私は手で顔を覆った。なんかわからないけど、壮絶に恥ずかしい。特にお兄様! 膝に肘をつき手に顔を乗せて首を固定してわたしを見るのやめて。身内にそういうふうにみられるの、一番恥ずかしい!


「皆様、からかわないでください! こうして脱線するようなら、もう今日はお開きにしませんか?」


「……確かにリリアンを休ませてやりたいが。ただ明日は茶会がある。その前に、結論まで出したい」


 王子様が言った。そっか、明日はお茶会があるのか。ドレスが贈られたということはやはり参加しないとなんだろうなー。


「大丈夫か? 疲れたか?」


 お兄様に尋ねられて首を横に振る。


「大丈夫です」


 なんかいたたまれないだけで。うーまた見られている。


「単刀直入にいきましょう。夜会に出たのはリリアンですね?」


 お兄様をチラリと見る。


「例えばそうだとしたら、それが何か?」


 開き直った!


「男爵はリリーをこき使いすぎじゃないですか?」


「わかっているなら、さっさと話し合いを終えましょう。休ませてやりたいので」


「リリアンはどうして身代わりなんか引き受けたんだ?」


 問い詰める口調に思わずびくっとなる。

 緊迫している雰囲気なのに、そのタイミングでグゥとお腹が大きな音をたてた。


「……そういえば、夕食を食べそこなったな」


 お兄様に頭を撫でられる。


「あの団体に絡まれなければ、王宮料理を堪能できたのに。ちょっとしか食べられませんでした」


 思わず恨みがましい口調になってしまう。

 自覚するとなんでひもじさって急激に増すんだろう? 胃がキューッと縮こまってお腹あたりを引っ張っている感じがする。

 王子様が吹いた。


「リリアンは、王宮料理が食べたいのか?」


「ちょっとお肉をいただいたのですが、味が濃いわけでないのに深く、プルプルのお肉でした」


 もっと食べたかった。


「そうか。男爵もお食事はまだですよね? こちらに料理を運んでもらっても?」


 え?

 お兄様に確認をとると、タデウス様が動く。廊下に出て、指示を出してきたみたいだ。

 あっという間にワゴンにいくつも料理とそして背の高いテーブルが運ばれてきて、ソファーや背の低いテーブルをどかして、この大人数の座れる用意が整った。テーブルの上にはさっきパーティで見かけたお料理が所狭しと並ぶ。

 一つのカゴにはパン粥といくつかのおかずが詰められていて、寝ているお嬢様が起きられたらとのことで、至れり尽せりだ。

 トムお兄様も席につくように言われて、みんなでご飯をいただいた。王子様たちも夕飯を食べていなかったみたいだ。


 プルプルのお肉だ! 噛めば噛むほど味が出てくる。頬を押さえてしまう。この味をずっと口の中に残しておけたらいいのに。

 一口も食べずに下げられてしまった、野菜のゼリー寄せみたいなもの。ゼリーの部分はすっきりしているのに口の中でクラッシュしていって中の野菜と噛み締めると深い味わいになる。

 これはジェノベーゼソース? ショートパスタにかかっていて、ニンニクが食欲を刺激する!

 みんなでおいしいと感想を言いあいながらいっぱいいただいた。最後の一口ケーキまでいただいて、大満足だ。


「満たされたかな?」


「ありがとうございます。お腹も心も満たされました! ごちそうさまでした」


 そういえば何を絡まれていたんだと尋ねられ、一部始終を話した。


「陛下から直接声をかけていただいたから、妬ましかったんだろう。けれど、あのふたりには気をつけた方が良さそうだ」


 王子様から言われると怖くなる。


「ファニーへの縁談は今年は大量にきていてな。ウチより格上なので断りの手紙を送ったんだが、殿下たちと同じようにそれでも諦めずに未だ誘いくださるのが、パトリック・フィッシャー様とフレディ・エドマンド様だ」


「それを根に持ってらっしゃるってことですか?」


 フィッシャー様、イケメンの部類だけど、意地悪そうだった。


「フィッシャー伯爵か。クリスタラー家の領地と隣りですね」


 隣り? そうだったっけ?


「エドマンド、聞いたことないな」


「男爵だな。先代が騒ぎを起こして伯爵家を名乗れなくなった。元イグロニア伯爵といえば聞いたことがあるだろう?」


 首を傾げたテオドール様に、タデウス様が説明する。さすがだ、よく知っていらっしゃる。


「断られたんですよね?」


 お兄様に確認しておく。


「ああ、7人の方々がお断りを入れてもファニーになぜか執着しているんだよ」


 5人は賭けを指示されてだけど、後のおふたりはなんだろう? フィッシャー様なんかわたしのこと、嫌いだよね、あれ。


「……リリーは陛下に会うのをあんなに怖がっていたのに、夜会に身を偽って出るのは平気だったの?」


 意味のない会話で和んできていただけに、ラモン様に問われて冷水を浴びせられた気がした。


「そうだな。王族に身分を偽ったら、それこそ洒落にならないぞ」


 テオドール様も不思議顔だ。


「男爵はその責を負う覚悟はおありなんですか?」


 タデウス様がきつい口調で問いかける。


「本当だ、不自然だね。男爵は殊の外リリアンを大切にしているみたいだから、王族に嘘をつかせるなんてさせるように思えない。そうだとしたら、君、もしかして……」


 どきっと心臓が跳ねた。

 ファニーってバレた?

 ……一瞬焦ったが、でもそれはそれでいいことなのかもしれないと思った。

 だって嘘をつかなくてよくなるんだもの。

220708>食べはぐったな→食べそこなったな

方言だったなんて(°▽°)

誤字報告、ありがとうございましたm(_ _)m


220718>殿下→王子

ご指摘、ありがとうございましたm(_ _)m

(2207186修正は地の文の王子と殿下の調整です)


220726> 恨みましい→恨みがましい

誤字報告、ありがとうございましたm(_ _)m


220813>パンがゆ→パン粥

誤字報告、ありがとうございましたm(_ _)m

220813>休まして→休ませて

誤字報告、ありがとうございましたm(_ _)m



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