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04 黒白の出会い

「お前たちもだ、武器を降ろせ。この方々は勇者パーティーだぁ」


 彼女が言葉を放つと、周囲の兵士たちは即座に武器を降ろした。

 年齢は20代後半ほど。

 黒と銀、左右にそれぞれ違う髪の色を流した背の高い女性ダークエルフだ。

 防塵用と思われる黒色のコートをまとい、切れ長の目から鋭い視線をこちらへ向けている。


「何しろ人類の切り札だからなぁ、我々のせいで傷でも負われたら大変だぁ。もっとも風の噂じゃ、魔王に手も足も出なかったそうだがぁ」


 そう言って小馬鹿にしたような笑みを浮かべる彼女。

 兵士から難民が離れたのを見届けると、おれは注意を怠ることなく声をあげる。


「隊を率いているのは君か」

「ええ、バルバリア帝国領ディアドロス妖精国国境警備隊隊長カルナ・スィードリです。部下たちの無礼、この通りおわびいたしましょう、ライル・グランバルト王弟殿下」


 そう言って馬から降りると、堂々とした仕草で腰から体を折るカルナ。


「……おれのことを知っているのか」

「有名人ですから人相ぐらいは把握しておりますよぉ。不敬があっては国交にヒビが入りますからなぁ」


 その顔には底の知れない不敵な笑みが浮かんでいる。

 国境警備隊らしく観察眼はあるようだが、言葉とは裏腹に、その態度からは敬意を払うような様は微塵も見受けられない。


「で、人類の味方であるはずの勇者様が我々に牙を剥くとは、どういう了見でしょうかぁ」

「お前たちこそ難民相手に略奪を行うとはどういうつもりだ」

「なにぃ? そうなのかお前らぁ。事実なら最低だぞぉ」


 やや半眼になったカルナの視線が降りかかるものの、ダークエルフの兵士たちは物怖じせずに言う。


「我々は与えられた仕事をしていただけです」

「今は戦時。魔王軍の間者が紛れているかもしれないのに身元のよくわからん奴らを国内に入れられるわけがない」

「どのみち密入国は死刑っすよ、死刑」


 それを聞いたカルナは満足そうに頷く。


「だったら仕方ない、ダークエルフは勤勉だぁ。情に流され職責を疎かにはしないぃ」

「お前ら……っ」


 どう見ても彼らはただの人間だ。

 百歩譲ってスパイが紛れ込んでいたとしても、一人一人調査していては救える命も救えなくなってしまう。

 それなのに。


「そう睨まれましても、命令なので」

「家を失くしてどうせ絶望しかないのです。殺して楽にしてやるのが温情というもの」

「僻地で金持ってうろついてるカモがいたら略奪しちゃいますよ、誰でも」


 聞くに堪えない言葉の数々。

 思考が野盗とほとんど変わらないのはどういうことなのか。


「血も涙もない連中ね……」

「変わらねえな、帝国は」

「あなたたち、そんな態度でこれから協力していけると思うの?」


 その時、リーシャが珍しく語気を荒げて口を開く。


「んん、エルフかぁ。調子はどうだ。我々を追い出した後の森林浴はさぞ心地いいだろう」

「300年も前の話でしょ。生まれる前のことまで根に持ってるなんて執念深いんだね」

「我々は民族差別の被害者。種の遺恨を末代まで語り継ぐのは当然だぁ」

「人間相手に侵略戦争を画策したのはどっち」

「解放戦争だ。我々は自由のために戦った。自治連のようなヒトの犬とは違うぅ」

「そのために人間よりエルフを多く殺したんでしょう」


 エルフとダークエルフ、元々森で暮らしていた2つの種族は、過去に凄惨な戦争を繰り広げた経緯がある。

 結果的には周辺国の支援を受けたエルフが勝利したけど、お陰で両者の間には底の見えないほどの溝が生まれてしまった。


「フン。で、協力とはどういうことだぁ」

「言葉通りだよ。王国も帝国も、残りの勢力がまとまらないと地上は魔族に滅ぼされてしまう」

「なんだやっぱりお前らじゃ魔王には勝てないのか。このなんちゃって勇者共め」

「……ギルバースは倒す。でも魔族の大群からみんなを守るには限界がある。あなたたちだって他人事じゃないでしょう」


 魔王軍の規模は、その“質”も“量”もいまだにはっきりしていない。

 ただでさえグランバルトもバルバリアも開戦当初から侵攻を受けているのに、それに加えて内陸からも攻撃が始まれば戦況は一気に傾く可能性が高い。

 地上の皆で団結しなければ、犠牲は際限なく増えていく。


「皇帝陛下にもランフォード様から打診が来ているはず。あの御方は清廉よ。こんなことしていると知ったら、それこそヒビが入るどころじゃない」

「ん~……?」


 首を傾けて唸るカルナ。

 その時、難民の治療にあたっていたポーラがこちらへ駆けつける。


「ライル、怪我を負った皆さんの傷は回復しました!」

「ありがとう、ポーラ」

「ほう、女神の加護は回復力にも影響するのかぁ」


 違う。

 ポーラの回復魔法は、彼女自身の女神への信仰と努力で体得したものだ。

 女神の加護は攻撃魔法やシールド魔法などの強度には影響するものの、どういうわけか治癒効果にだけは影響を及ぼさない。


「さすがですなぁ。ひとまずこれで我々の蛮行はめでたくチャラというわけだぁ」

「そんなわけないだろ!」

「ハハハ。で、協力でしたっけ。まぁ~、団結のためだとおっしゃるのでしたら彼らを受け入れるのもやぶさかではありませんがぁ」

「ひっ……!」


 カルナが一瞥すると、まだ立ち直れていない難民たちの顔色があっという間に白くなる。

 国へ入れたところで、その後どういう待遇を強いられるかなんて火を見るより明らかだった。


「お前たちの助けはいらない。難民は全員、我が国で保護する」

「なんと、全員」

「ああ。勇者としてでなく、王弟としてのおれの意志で彼らを王国の民として迎え入れる」


 あまり権力は使いたくないけど、場合が場合だ。

 こうなったらグランバルトが助ける以外、救う方法はない。


「よ、よろしいのですか!」

「大丈夫、皆に住居と食料を提供するよう兄上――国王陛下へ書状を送ります。安心してください」

「ああ! ありがとうございます……!」


 おれの言葉を聞くと、昏い顔をしていた難民たちの顔に明るさが戻り、涙を流して頭を下げて来る。


「この場においてはカルナ・スィードリ、お前が帝国の代表だ。難民たちへの略奪をやめて退がれ。――これは“命令”だ」


 有無を言わせるつもりはないと、おれは眼前のダークエルフを睨み据える。


「そういうことなら是非もなし。いやぁ、平和的に解決できるようで何よりですなぁ」


 もう少し揉めるかと思ったものの、彼女はあっさりと引き下がった。

 部下たちにとっても予想外だったのか驚いている様子だ。



「でも……いいんですかねぇ。安請け合いしちゃって」



 そう言ってこちらを見たカルナの表情には、黒い瞳と嫌な予感しかしない白んだ笑みが浮かんでいた。


春先から身の回りが慌ただしかったため執筆時間がつくれませんでしたああああああああ(泣


またぼちぼち投稿してくんでよろしくお願いします!

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