02 西へ
「待たせたわね。みんな」
王城内の宿舎にて。
友達のお見舞いに行っていたヘレンが合流して勇者パーティー全員がそろう。
「おかえり。具合はどうだった? テレーザの隊長として魔王軍と戦ったんでしょ。凄い子だね」
「アタシのライバルだもの、当然よ。あの分ならすぐに調子を取り戻すわ」
「そっか、良かったね。とりあえず、みんなに話があるんだ」
おれは1度全員を見渡した後、魔王軍がエルラーダとオストワルドを侵攻したこと。
そしてすでに2国とも滅んでしまったことを告げた。
「クソ、やっぱり事実だったのか!」
「半月で国を2つも滅ぼすなんて……」
「自治領はどうなったの、エルフの森は!?」
「今のところ亜人には手を出していないみたいだけど、予断を許さない状況は続いてる。……だからおれは西へ向かおうと思う。1人でも多くの人を救出するために」
国が滅んでも民の多くは魔族の支配に怯えながら暮らしている。
なんとかして彼らを安全なところまで避難させてあげたい。
「オレは構わないぜ。勇者ってのはそういうもんだからな」
「ええ。見過ごせないわ」
「……行こう」
バクトたちは迷うことなく賛同してくれた。
最近はずっと鍛錬に時間を費やしていたことだし、今こそ修行の成果を見せる時だ。
「あのでも、もしまた魔王が現れたらどうしましょう」
だけどポーラだけが不安そうに手を挙げる。
「私たちはスキルこそ磨きましたが装備はあまり変わっていません。もっと入念に準備すべきではないでしょうか」
控えめに、異議を唱えてきた。
「おいおい、今大事なのは装備より命じゃねえか」
「そうよ。それにまた邪魔されたらどうするのよ」
「この前は驚いたよね……まさか装備の眠ってる塔を沈められるなんて」
魔王に敗北した後、おれたちは鍛錬の他に歴代勇者の武具を集めるべく各地を回っていた。
勇者の武具は各国が遺跡に封印するという形で管理していて、安易な政治利用を防ぐために魔族の出現時以外の持ち出しを禁止している。
兄上から許可を得たおれたちは、ひとまずグランバルト国内の遺跡を探索することにした。
だけど……どういうわけか、おれたちの行く手を妨害してくる魔族が現れた。
サハギンやマーマンといった海棲魔族だ。
奴らは直接戦いを挑んで来ない代わりに、遺跡である洞窟の入り口を爆破して封鎖したり、湖に建てられた塔の地盤を破壊して水没させたり、いやらしい工作を再三仕掛けてきた。
今は職人たちが頑張って引き揚げ作業を行っている。
「卑怯な真似しやがって、何なんだあいつら」
「いつも先回りされるんだよね……」
「誰かアタシたちの動きを監視してる奴でもいるのかしら」
「ギクッ。た、たまたま近くに海魔の巣でもあったのではないですか。あ、そうです。テレーザに行ってみましょう。古くからの遺跡が沢山あったはずです」
「西と逆方向じゃねえか」
「何あんた、怖いの?」
「そういうワケじゃないですけどぉ。すみませんライル、ちょっとお花を摘みに行っても?」
「う、うん」
そう言ってポーラはどこかぎくしゃくした感じで部屋を出て行ってしまった。
「ねえ。なんか最近あの子おかしくない?」
言われてみれば、魔王と戦ってから上の空でいることが多くなった気がする。
「うーん……ポーラだけ戦闘職じゃないから保守的に考えちゃうのかも」
彼女の担当は回復を主体とした後方支援で、攻撃魔法は光属性のもの以外ほとんど扱えない。
でもポーラの支援があるのとないのとでは戦闘の安定感がまるで違う。
どうにか西へ行くことに納得してほしかったけど。
「……なあ、ライル。難民って、グランバルトはどのくらい受け入れられんのかな」
ふとバクトが尋ねて来る。
「領地全部からやってきたとしたら100万人ぐらい軽く超えるよな。寝床や食料を用意するなんて簡単にできるのか?」
「うーん、すぐには無理かな。でもテレーザだって協力してくれるだろうし、南のバルバリアでも受け入れるだろうから何とかなるはずだよ」
難民が逃亡するとしたら東のグランバルトか南のバルバリアしかない。
特に西端のオストワルドが頼れるのはバルバリア帝国だけだ。
帝国とグランバルトとの仲は決して良くないけど、魔王軍が襲来した今は兄上も同盟を組む意向を示しているし、あっちからも前向きな話が持ち上がっているらしい。
今は有事だ。
全員で助け合わなければ一枚岩の魔族には勝てない。
そこには家を失って困窮している人たちを助けることも含まれるはずだ。
「……どうだろうな」
「え?」
「オレはあの国出身だから言えるけどよ。あいつらが人助けする姿なんて想像もつかねえんだ」
「そ、そうなの? でも……」
「奴らは部族単位でそれぞれの領地を治めてて基本的によそ者は歓迎されねえ。農村だって平気で焼き払う連中だぜ。魔族が共通の敵であることに違いはないだろうが、こんな時だけ協力するなんて考えられねえ」
たしかに、バルバリアが軍を動かさなかったのは気になる。
でも助けを求めてくる人たちの手を振り払うなんて、そんなことあるのだろうか。
「だったら帝国との国境沿いに向かうのはどう? 考えるより直接確かめるのが1番よ」
「賛成。たしか近くに獣人の自治領があったから、わたしも様子を見てみたいし」
ヘレンとリーシャの言葉におれは首肯する。
ひとまずの目的地はエルラーダとバルバリアの国境だ。
その後は中央に向かい、取り残されている現地の人々を可能な限り救出することで話がまとまる。
「ただいま帰りました、ライル」
ちょうどその時、ポーラが戻ってくる。
おれはひとまず経緯を伝えてポーラにも来て欲しいと頼むと、意外にあっさり彼女は承諾した。
「ええ、ぜひ参りましょう。ですが事を荒立てては難民にも被害が及びますから魔族との戦闘は極力回避するのが望ましいですね」
「う、うん……」
「えらい変わりようね……」
それからおれたちは長い旅になることを考慮して出立の準備を始めた。
□■□■
「魔王様、こちらポーラーがお」
『なんだ、緊急か』
「はいがお。実はライルたちが――」
『――何ィ? 説得できんのか』
「残念ですが今回は聞き入れてくれそうにないがお。このままだと現地の魔族と衝突してしまうがお」
『戦闘自体が目的ではないのだな。わかった、こちらで対策を練っておく』
「了解がお。それと装備集めの邪魔はもっと慎重に。何度も先回りされて怪しんでるがおよ」
『ふむ……さすがに警戒してしまうか。どうせいつかは手に入れてしまうのだから可能な限り先延ばししたかったのだが』
「もし私が魔王様に情報を売り渡してるなんて知れたら一貫の終わりがお。気を付けて欲しいがお」
『ああ、わかった。だがそろそろスパイにも慣れてきたろ。スリルがあっていいものだろう?』
「背徳感が半端ないがお。胸がばっくんばっくんがお!」
『それが生の実感というものだ。さらなる貢献を期待しているぞ』
「あのでも、それはそれとして支配してる民に酷いことしないで欲しいがお……」
『フフフ、案ずるな。大人しく従う分には命を保証しよう』
「うう、どんな強制労働をさせているのか不安で仕方ないがお」
『ひとまずご苦労だった。あまり場を離れると怪しまれるから戻っておけ』
「はっ、任務に戻りますがお。……ああ、ごめんなさいライル。勇者パーティーの動向は私のせいで魔王様に筒抜けなの。本当、私がスパイだってバレたらどんな顔するのかしら……!」




