13 天啓 ※エルラーダ王視点
「はぁ!? グランバルトもテレーザも撤収しただとぉ!?」
軍議の間で受けた使者からの報に、余は耳を疑った。
「は……指揮官が負傷したとのことで、これ以上の戦闘は不可能だと」
「そんなもの軍だけ置いていけばよいではないか! 引き止めろ!」
「すでに帰還の途についています。今からではもう……」
「余の許しもなく!? ええい、クソの役にも立たん奴らめ!」
ふざけるにも程がある。
勝手に逃げ帰るとは、やはり口だけだったか、あの若造。
「あっさりと都市を制圧されおって。どうやって奪い返せばよいのだ……!」
魔王軍との開戦からすでに9日。
その間、我が国は前線3つの要塞を含む4つもの都市を魔族に奪われた。
前線に送った15万の軍はことごとく敗走。
死亡した兵の数は8万にもおよび、今や負傷した兵の救護と都市を追われた平民への施しで各領は混乱状態だ。
一方で日を追うごとに勢いを増しているのが魔王軍だ。
当初7万の見立てだった奴らの数は、今や数えるのも馬鹿馬鹿しいほどの大軍勢に成長していた。
その多くは、死んだ兵士の亡者だ。
奴らは殺した兵士を復活させ、軍に吸収しながら増長を続けていた。
元はただの死体だから損壊が進めば動かなくなるようだが、その規模と自分も群れに組み込まれるのではないかという恐怖で士気を落とす兵士が後を絶たないらしい。
(この分だとエリューザも戦死したか)
諸侯が持ち上げるから次期女王に選定してやったのに、聖剣まで持ち出しておきながら大敗を喫しおって。
途中で寄こした援軍要請はなんだったのだ。中途半端に1万も出した軍はあっさり壊滅したぞ。
これでは双子の弟リオルのほうがマシだ。
胎でお前に取られた分の栄養を回せばリオルはもっと優秀になったかもしれぬのに、どうして死んで来なかった。
どいつもこいつも、これではセレスティアに攻め入るどころではない。
「陛下。前線から合流した兵も含め、我が軍の総数は当初の半分を割っております。数では勝っていても、これでは……」
「言われずともわかっている!」
魔王軍は首都手前のハーディー侯爵領まで迫りつつあった。
中央には魔獣の群れが、両翼に亡者の軍団が展開し、以前よりも統率のとれた動きを見せているらしい。
我々も同地へほとんどの軍を集結させているが、誰の目からも劣性は明らかだった。
現地の指揮はリオルに任せているが、とにかく兵の数が足りない。
「自治連にもっと兵を回せと通達しろ。このままでは奴ら亜人の住み処も無事では済まんはずだからな」
「はっ……」
「後は無いか。てっとり早く兵を増やす方法は――」
その時、余の頭に考えが閃く。
「……禁を解く。賤民以下に武器を持たせることを許可する。その後で敵に送り込むのだ」
その場にいた諸侯がはっと顔を上げる。
そうだ、それしかない。
賤民とは貧民街で汚らしく生きる者の総称。
まともな職にありつけず、明日の命もわからん生活を送るだけの、時折さらって手頃な労働力や慰み者として使うくらいしか価値の無い奴らだ。
「首都近辺の賤民を前線に向かわせるのだ。数合わせには十分だろう」
「おお、さすがです陛下! あの塵共なら亡者化しても大した戦力にはなりませんからな」
はたして諸侯らの称賛が、余の策の正しさを顕す。
賤民は本来、武器を手にしただけで死罪としている。
己の身分もわきまえず、理不尽な反乱を企てる愚考を防ぐためだ。
だが奴らとて我が国の民であることに変わりはない。
国の危機に身命を賭して体を張るのは当然の義務といえた。
「そうだ……今は国をあげて戦う時なのだ……となれば」
残る問題。
低下した士気をどう回復するか。
「思いついたぞ、最良の策を」
□■□■
「助けて、あなたぁっ!」
「お父さぁーんっ!」
「やめろ! 俺の妻と娘をどこに連れて行くんだ!」
何人もの女と娘が兵士により連行される。
全員、首都で手に職を持つ平民どもの妻子だ。
「陛下のご命令だ。12から32歳までの女は前線で我々のために働いてもらう」
「そんな……どうして俺たちの妻が!」
「娘に何をさせる気だ!」
「あぁ? だから、たっぷり世話をしてもらうんだよ」
士気を上げるにはてっとり早く“欲”を満たしてやるのがもっとも効率的だ。
人のものや生娘をもらえると聞き、やる気を出さぬ者はおるまい。
「前線に連れていくなんて死にに行かせるようなものじゃないか!」
「お願いだ、連れていかないでくれ! ぐふっ!?」
「悪いが恨むなら魔王を恨め」
「俺たちだって命がけだ。このぐらいの褒美があっていいはずだ……っ」
「お願い! せめて娘はゆるして!」
「うわああーん、怖いよぉーっ」
余の命令だというのに、兵士に詰め寄る平民の男ども。
だが所詮は力を持たぬ平民。たちまち叩きのめされる。
「国は俺たちを守ってくれるんじゃないのか……!」
「なんでこんなことに……!」
なんで?
全部魔王のせいに決まっているだろうが。
しかし安心しろ。
ここに来て余の頭は冴えに冴え渡っておる。
まるで女神イリジアナが天啓を授けたかのようだ。
必ずや戦況を覆してやるから、今以上に忠誠を誓うがいい。
「ククク……他国の力なんぞ要らん。魔王も魔族も、余が皆殺しにしてくれる!」




