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11 片腕 ※バリオン視点

「では交代で休息を取るように。警戒を怠るでないぞ」


 月とやらが分厚い雲の合間に隠れ、闇の帳が落ちた夜の草原。

 野営のために張った幕舎の前で、ワシは配下に指示を出した。


 中央を陥落してから3日。

 ワシら魔獣軍は部隊を分け、北と南の要塞都市へ向けて進軍を開始していた。

 今後の首都侵攻に備えて後顧の憂いを断つためじゃ。

 侵攻部隊は北と南にそれぞれ3万。

 北の指揮はワシが、南は紳士的な戦闘をすることに定評のあるギガスに任せた。

 残りは中央に残し、負傷したものの手当てと周辺の哨戒に回らせた。


 生き残った都市の住人は殺さずに逃してやった。

 すでに戦意は失っておったし、戦場にいられても邪魔なだけじゃからな。


 戦闘終了時点で魔獣軍の犠牲は2千ほど。

 5万の軍を相手取ったとは思えんほど優秀な数字じゃ。

 これならば補充の必要もないと、ワシは即日侵攻を再開した。

 魔霊軍の侵攻対象はアルケイのさらに1つ先の都市までで、その後は合流して首都を攻める手筈になっておる。

 あまり遅れるとアリサが突っ走って首都に攻め込んでしまうかもしれん。制圧を急ぐに越したことはない。

 明日の行軍に備えて早めに寝ておくかと幕舎に入ろうとしたその時。


(む……血臭?)


 魔族ならば誰もが知る臭いが、風に乗って鼻腔をくすぐってくる。

 あまり新鮮な感じではないが、確かに血の臭いじゃ。

 すると幕舎の反対側から喧騒が聞こえてきた。

 加えて小競合いのような、剣と剣が交わる音。

 まさか血の気の多い奴らが揉めとるのか。

 しかし配下が叫んだのは。


「敵ダーッ! 敵ガ陣ノ中二入リコンダ!」


 まさかの奇襲を告げる報が響く。

 さらにその声とほぼ同時。

 ワシの背後にどっぷりとした血の臭いが立ち込め、空気が動いた。


「うおおおおおーっ!?」


 咄嗟に斧を構える。

 幸運にも斧は首筋に振るわれた一撃を弾いた。

 まともに喰らっていたらワシとて只では済まんかったじゃろう。


「なんと、人間か!?」


 長剣を手に対峙してきたのは人間の男じゃった。

 軽鎧を着ているが、その全身は余すところなく真っ赤に塗られ、濃い臭いを充満させている。

 どうやら獣の血で己の臭いを消し、ここまで隠密行動してきたようじゃ。


「あ~惜しい。号令をかけていたお前が大将だな。その首もらい受けようか」


 口惜しそうな様子は微塵も見せず、男は続けざまに長剣を振るう。

 先に戦った兵士たちとは比較にもならん重厚な連撃に、ワシは防戦一方じゃった。


「豪胆な奴じゃのう! 夜襲とは意表を突かれたわい!」

「劣勢を覆すとなると他に思いつかなくてな。もっとも本当はここまでする義理はないんだが――」


 周辺でも配下と此奴の仲間の戦闘が始まっておるが、数は30もおらんだろう。

 目立たずに極少数の精鋭でワシを討ちに来るとは、仲間共々、見上げた胆力という他ない。


「まあ、中ボスでも倒しておけば顔も立つだろ!」


 そして乗り込んできたのが決して蛮勇などでないことを、その実力は証明していた。

 黒塗りの剣も相当な業物のようじゃが、何より攻撃の軌道が読めん。

 此奴、かなりの手練れと見た。


「いきなり猛者が湧いて来るとは楽しいのう! あとワシは中ボスじゃないぞ! 魔王様の片腕と呼べ!」


 胸が昂る、心が躍る。

 こういう願ってもない非常事態が起きるから戦いはやめられん。


「ワシの名はバリオン! おぬしは!」

「グレゴリオだ。魔族にもそういう礼儀とかあるのか?」

「無い! 強敵の名は知っておいたほうが燃えるじゃろう!」

「そうかい。後で部下の魔族の前で連呼してやるよ。お前の首級を掲げてな」


 軽口を叩いている間も奴の剣勢は衰えを見せない。

 まったく底の見えん男じゃ。

 しかし、やられっぱなしは性に合わん。

 そろそろこちらも行かせてもらう。


「ウ……オオオオオオオオオー!」


 《プラズマブレス》。

 腹の底に溜まった雷撃の吐息を放つ。

 拡散した稲妻は敵を灼きつくすほどの効果はないが、確実に感電させ相手の自由を奪う。


「ぐっ……」


 ブレスの直撃を受けたが、少々呻いただけで奴の動きはほとんど鈍らなかった。

 属性防御の装備でも付けておるのかもしれぬ。

 じゃが動きは一瞬でも止めた。

 その隙を逃さず、ワシは一気に畳みかける。


「ゆくぞグレゴリオ! 《サンダーウェポン》!」

「来い、バケモン」


 手加減無用。

 奴を両断すべく雷を纏わせた戦斧を打ち振るう。

 しかし攻撃は尽くかわされた。

 それどころか少しでも気を抜けばカウンターを仕掛けてくる。


「凄まじい奴じゃな! おぬしこそ勇者に相応しいんじゃないか!」

「魔族に認めてもらってもな。残念だが、オレより優れた御仁がいるんだよ」


 奴も奴なら剣も剣。

 その切れ味は掠っただけでも平気で皮を削いでくる。

 もっとも奴のほうも、斧に付与した雷の拡散により体力が奪われておる。

 そうして消耗戦を続けていると、騒ぎを聞きつけた他の部下もこっちへ集まってきた。


「ふむ。名残惜しいがあいつらの来る前に決着を付けるか。おぬしはワシの手で討ちたいでな」

「そりゃ有難い。囲まれたらどうにもならないからな」


 1度後方に大きく下がったグレゴリオは、大きく息を吐き出した後で剣を上段に構える。

 同じくこちらも斧へ力を集中させた。

 双方の呼吸が合致したところで、一瞬の静寂の後その時が訪れる。


「《孤影・流転》」

「《雷閃鎚(ミョルニル)》!」


 繰り出されたのは闇色の残滓が描く神速の踏み込みによる一刃。


 対するワシが放つのは、雷速から凪ぎ払われる閃光の一撃。


「……っ!」


 雲の合間からようやく差した月明り。

 淡光に映し出されたのは、鮮血と共に宙を舞う剣を握り締めたままの右腕じゃった。


「……オレの、負けか」


 失くした二の腕から下をもう一方の手で抑え、グレゴリオが肩を落とす。

 どうやら勝負あったようじゃ。


「はは、さすがにただの人間には荷が重かったな」

「なんの、良い戦いじゃったぞ。もう少し踏み込まれていたら臓物をぶちまけておったわ」


 間を置いてワシの胸当てが縦に割れ、毛皮の奥から血が流れ出した。

 こんなに美しい斬り口は初めて見る。

 まさに僅差の勝利と言えよう。


「誉め言葉をどうも……ハァ」


 男は敵意の消えた表情で地面に刺さった己の剣に近付くと、しがみついたままの右手を取った。

 そして、こっちへ無造作に放り投げると。


「首はやれないが腕はやるよ。じゃあなバケモン」


 直後。せっかく張った幕舎をなぎ倒し、軍馬とそれに乗った騎士が姿を現した。

 その体は同じように獣の血に塗れておった。

 奴らはワシの横を素通りすると、グレゴリオの体を抱えてあっという間に駆り去っていく。奴の空いた手にはちゃっかり剣が握られていた。


「おいおい!? ここに来てそれは無いぞ!」


 腕なんぞどうでもいい。

 馬ごときの速度で逃げられると思っては困る。

 しかし、背後からさらに剣を抜いた騎士がワシを奇襲する。

 配下と戦っていた連中が一斉にこちらへやってきているらしい。


「我々が足止めします! グレゴリオ様、ご武運を!」

「済まん。お前たちの献身は必ず陛下にお伝えする」


 全ては奴を逃がすため。

 騎士どもは決死隊となってワシの行く手を阻んできた。

 これほどの覚悟をもって戦に臨んでいたとは、魔王様の言う通り人間は侮れん。

 それから周囲の敵を討ち終えた頃には、奴の姿は彼方へ消えていた。


「まさか逃げられるとはのう。最後までしてやられた気分じゃ」

「バ、バリオン様! ゴ無事デシタカ!」


 ようやく部下どもがやってくる。まったく何をしておったのか。

 後でワシも含めて反省会じゃな。


「おう、追手ならかけんでええぞ。見苦しいだけじゃからな」

「ソレガ、魔王様カラ御伝達ガアリマシテ」

「何?」


 その後、部下の口から出た言葉にワシは度肝を抜かされた。



「はァ!? アリサが負けたァ!?」


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