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03 もっと信用してください!

「……? 何の話だ」


 素知らぬ顔で尋ねてくる息子の声を聞いて、思わず手が止まる。


「ですから勇者パーティーとやらの討伐ですよ。バリオンに行かせるのですか?」


 言われて気付く。

 これは……我ら6人が最後に顔を合わせた会議だ。


 地上侵攻を開始して半月。

 膠着状態に陥った戦況を打破するため、我は全幹部を魔王城に召還した。

 そこで制圧した要塞の1つが、勇者パーティーに奪還された報告を受けたのだ。

 この時はまだ、勇者という存在を軽く見ていた。


「お任せを魔王様。人間の若造などワシが捻りつぶしてやりましょう」


 自信たっぷりに胸を叩くバリオン。

 だが、こいつを向かわせた先にある結果を知っている。


 バリオンは負ける。

 それから全てが狂い出したのだ。


(そもそも、どうしてこいつを行かせることになった……?)


 たしか理由は――


「何かご懸念が? バリオンが受け持つ南方面でもありますし、問題ないかと思いますが」


 そうだ。

 持ち場が1番近かったとかいう、適当な理由だった。

 もっとも勇者の脅威がどれほどのものかわからなかった当時としては、妥当な判断だっただろう。


「わたしが交代しても構わないが」

「魔族の指揮苦手だもんね、サッちゃん」

「うるさいな! あいつらが言うことを聞かないんだ!」

「いきなりお前が行っても現地が混乱するだろうが。バリオンの面子も考えろ」

「数人ノ勇者ヨリモ、数万ノ軍ト戦イタイ」

「わははは! というわけで今回はワシの手柄にさせてもらう!」


 こんな感じで、特に反対意見もなかったから任せたのだ。


 決定したのは――我だ。



 …………。



「……………………行け」

「は?」

「全員で行け」



「「「「「え(エッ)!?」」」」」



 聞こえなかったのか。

 全員だ、全員。

 裏切り者同士、仲良く行ってきたらいいだろうが。


「ぜ、全員ですと!?」

「お待ちください! それでは各方面の指揮系統がおざなりに……!」

「さすがにそれは、まずいんじゃないかなーって」


 なんだ不満か。

 大変なことになるとも知らず文句を言いやがって。


「チッ……じゃあ自分で行く」

「いやいやいやいや!?」

「本当にどうしてしまわれたのですか!?」


 ええい、うるさい。

 もう誰も信じられん。

 配下なぞ要らぬ、全部自分でやる。

 侵略もひとりでやってくれる。

 できなかったがやる。


 だがそんな我の気も知らず、幹部たちは大混乱だ。


「どうにも魔王様の様子がおかしいのう……」

「そんなに勇者パーティーの活躍が気に障ったのかしら……」

「まさか侵攻が遅れているせいで不信感を……!?」

「我ラノ能力ガ疑ワレテイルダト!」

「そ、そんな……ギルバース様!」


 挙げ句、一斉にこちらを振り返ると。



「「「「「もっと我々を信用してください!」」」」」



 やかましいわ!!!! どの口がほざくか!

 こんな時だけ足並みをそろえやがって!

 我はお前らなどとっくに見限って……ああ、畜生がぁ!


「保留だ! 勇者の件は一旦保留にする!」

「ほ、保留ですか?」

「ああ。代わりに軍を再編する」

「再編ですと?」

「――まず全軍戦闘中止。北と西方面の軍は撤収させ、それぞれ南と東に合流させろ。期限は7日だ」

「撤収!? お待ちを、さすがにそれは……!」


 待て待てとうるさい奴らだ。

 軍を退くのは癪だが、今はそれが最善なのだ。


「もともと短期戦の予定だった。それがどうだ。半月経って国1つ落とせていないではないか。とっくに想定は外れているのだ。戦略の練り直しは必須だろう」

「ですが、さすがに性急過ぎでは? もう少し様子を見ても……」

「様子見という運頼みは好かんな。闇雲な行軍の先には破滅が待つのみだぞ」

「……むう」


 現場指揮を任されるジュリオは不満気だ。

 明らかな劣勢でもない状況での撤退には抵抗があるのだろう。


「言っておくが、お前たちに落ち度は1つもない。あるとするなら人間どもの力を見誤っていた我のほうだ。少なくとも力押しだけで勝てる相手ではなかった。それがわかれば十分だ」

「魔王サマが非を認めるなんて……」

「意外と潔いところもあったんですなあ」


 何か引っかかる物言いだが、このままでは本当に失敗するのだから潔いも何も無い。

 それに再編案自体は、()()ジュリオから提言されたものでもある。

 当時はプライドが許さずつっぱねたが、最終的には認める方向になってしまった。その時にはもう手遅れだったが。

 いずれたどり着く結論なのだ。


 地上は『ディアドラ』と呼ばれる1つの大陸と、回りを取り囲む大小の島々で成り立っている。

 五閃刃を軍団長とした5つの軍団で構成される魔王軍は、それぞれ四方に分かれて大陸を侵攻していた。


 東からゼスティガ率いる『魔竜軍』。


 西からジュリオ率いる『魔人軍』。


 南からバリオン率いる『魔獣軍』。


 北からアリサ率いる『魔霊軍』。


 そして外海を制圧しつつ補給などのサポート任務にあたるのが、ディーネ率いる『海魔軍』だ。


 開戦当初、我が軍は怒涛の勢いで大陸沿岸部の港や砦を占領した。

 当時は幸先の良い出だしを切ったと息巻いたものだが、そこまでだった。

 人間の築いた内陸部の要塞は堅牢で――それでも時間を掛ければ落とせなくもなかっただろうが、防衛網を破れずに膠着状態が続くようになった。


 総合戦力ならば圧倒的にこちらが上。

 それでも敗北を喫してしまったのは、勇者の力が規格外だったからでも、配下の実力不足からでもない。

 戦力を分散させすぎたあまり、各国の軍勢と総当たりしてしまったのが原因だ。

 一刻も早く方針転換せねば、また同じ結果を招いてしまう。


「……わかりました。戦闘を停止し、速やかに軍を動かします。お前たちもいいな」


やがてジュリオがいち早く首肯し、残りの面々も後に続く。


「それで、その後はどうなさるのでしょう?」

「まずは認めようではないか。人間が、ただ蹂躙されるだけの脆弱な存在ではないことを」


 奴らを侮ってはならない。

 対等な敵と見なして全力で挑まねば、この戦いは負ける。

 そのためにも、まずは自ら手本を示す必要がある。


「予備の軍から3隊ほど準備をさせろ。我が出る」

「魔王様自ら……!?」

「よく見ておけ。このギルバースの“戦術”を」


 どうして今この場所に時間が戻ったのか、理由はわからない。

 それでも我は、甚だ不本意ながら、もう少しだけこの余興に身を預けることにした。


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