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06 聖剣 ※姫騎士視点

 禍々しい。


 それが、自分より年下であろうと思われる女に抱いた印象だった。

 黒髪の下に映る双眸が薄暗い色を湛え、言い表しようのない感情と共にこちらを睥睨する。

 軽鎧と重鎧の中間のようなデザインの装甲とスカートからは細い四肢が見えていた。

 剣士とは程遠い体格であるにもかかわらず、その手に握られているのはどす黒い刃身を持つ大剣だ。

 魔物の爪のような装飾が施されたそれは、一見すると実用性に乏しく儀式に用いるような類のものに見える。

 問題は、女がそれを苦も無く握り締め、炎のようにゆらめく紫紺の光を放っていることだ。

 それはまるで殺気を具現化したような色。

 見ていると背筋が凍りつくような輝きだった。


「貴様、何者だ!」


 護衛の騎士が武器を構える。

 しかし、それより早く女が動いた。


「《讐撃ノ剣舞(デッドリィ・バッシュ)》」


 細腕から信じられない早さで軽々と大剣を一閃させる。


 するとその軌道上に、女が放つ光と同じ色の()が出現。

 矢のように射出されたではないか。


「がっ!?」

「うげっ!」


 頭や胸を撃ち抜かれ、対峙した騎士数人が呆気なく絶命する。


 私は悟った。

 同じ人間と軽く見てはいけない。

 向けられた殺気も、全てが本物。

 

 こいつは魔王軍から差し向けられた、敵だ。


「もしや、下の騒ぎはお前の仕業か!」


 反射的に私はそんなことを訊ねていた。

 人間の女にしか見えないが、こいつの実力は、おそらく他の魔族とは比較になるものではない。

 だとしたら、こいつが魔族の指揮官である可能性が高い。


「……そうだけど」


 案の定、奴は肯定した。

 よし、よくわからないが、この騒ぎを起こしたのはこいつらしい。

 つまりこの女を倒せば、少なくとも周囲で起きている事態は収束するわけだ。

 のこのこ乗り込んでくるとは、馬鹿な奴だ。


「ふふふ、運が巡ってきたではないか。……おい、聖剣を」


 私は帯剣を捨て、代わりに従者が差し出した純白の剣を手に取る。

 ルーンの宝飾が施された持ち手からは、神の領域であることを示すような重厚な感触が伝わってきた。

 鞘から引き抜けば女の持つ剣とは真逆の、夕闇を打ち払うような輝きが周囲に拡散する。


「おお……美しい……」


 水に濡れたような刃を目の当たりにした騎士たちが溜め息を漏らす。


「……何だ、その剣?」


 女が尋ねてくる。

 訝しむような表情だが、私にはわかる。

 内心は焦りまくっているに違いない。 


「ふふふ。これこそ我がエルラーダの至宝にして、王と王位継承者にのみ扱うことを許された聖剣――【クラウソラス】だ!」


 まさかここで使うことになるとは。

 しかし、油断ならない相手なのは間違いない。

 全力で挑んで然るべきだろう。


「聖剣……」

「驚いたようだな。この剣は勇者パーティーのリーダーでもあった初代エルラーダ王が使っていたもの。その後もエルラーダ出身の勇者へと受け継がれ、歴代魔王を何体も成敗してきたのだ」


 奴の眉がはねる。

 魔王を倒したと聞いて、恐れをなしているのだろう。


「地上にある7つの勢力は始まりの勇者パーティーが作り上げた。本来世界を牽引する役目はリーダーを務めた我が国にある。その証拠たるがこのクラウソラス。私に刃向かうは世界と刃向かうことも同じなのだ」


 そう、世界の主役はグランバルトでもバルバリアでもない。

 有史以来の伝統を守り、大陸の中央に栄える我が国こそ、世界の中心となるべき存在。

 勝利という言葉は我々のためにある。


「聖剣は、魔を討滅する力である勇者の加護を“聖炎”に変える。私は勇者ではないが、歴代の込めた残滓がまだこの中には残っているのだ。魔王を討ち滅ぼすに十分なほどの余力がな」


 ふふふ怖かろう。

 何しろ勇者以外に、魔王を討伐できる可能性のある存在が現れたのだからな。

 戦慄せよ、魔の者よ。

 もっとも、私を一刻でも悩ませたことは絶対に許さんがなあ!


「さあ、刮目せよ!」


 魔力を込め、聖剣を発動する。

 目の眩むような輝きとともに、聖剣が白き炎に包まれた。

 それは目の前の女が持つ剣と対極を為すものだった。

 発動するのは2度目だが、私は勝利を確信する。

 いける。

 これなら汚らわしい魔族どもを一掃できる。

 なんだ、はじめから自分で先陣を切れば良かった。


「エルラーダ王国第一王女、姫騎士エリューザ・エルラーダ参る! 今こそ軍国の威光を愚かな敵の身に刻み付け「話が長い」てや――――」


 何かしら、女の呟きが聞こえた刹那。


 構えたはずの聖剣が、目の前を舞う。

 その握りには、人の腕らしきものがグローブごと左右一緒に添えられていた。

 その表面に刻まれているのはエルラーダ王家の家紋。

 つまりその持ち主は、私の親類ということになる。


 あれ。


 両手にいくら力を込めようとしても、筋肉が動かない。

 これから敵を成敗しなければいけないのに。


 あれ、あれ。

 私の腕の先から飛び散っているのは何だ。


 指から先の感触が無い。

 私の両手はどこへ行った。


 くるくると孤を描いた聖剣が床に突き刺さり、ぼとりと二対の腕が投げ出される。


 じんわりと襲ってくる痛み。

 それは――

 手首から先をばっさりと失って赤黒い断面をのぞかせる、私の両腕から至ったものだった。



「ギ、ギイエエエエーーーーー!?」



 痛い、痛い痛い痛い痛い痛い――!!!???


 生まれて初めて味わう、脳の裏側まで灼くような激痛。

 何これ、何これぇ!?

 痛いよォ!?


 ぷしゃあっと音を立てて、私の体から赤い液体が飛び散っていく!

 血だ! 王族の血が、私の中の高貴な血が漏れてる!

 すぐ治療してもらわないと!


 でもその前に、私の両腕!

 どこ!?

 私の腕、どこぉ!?


「話が長すぎて半分も頭に入って来ない! 馬鹿にしてるなオマエ!」


 いつの間にか懐に入り込んだ女が、大剣を薙いだ姿勢のまま不快げな声を放つ。


 そんなのどうでもいいでしょお!?

 それどころじゃないのよお!

 私の腕、どこよ!?


 早く探して!

 くっつけて!


 私は、私は、エルラーダの姫騎士なんだからぁ!!!!


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