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04 魔獣軍 ※バリオン視点

「ドッセエエエエイ!」


「ぶぎゃっ!」


「グルルルァァァ!」


「ぎゃああっ、離せえええええ!」


 オークが兵士の頭部を兜ごと砕き、フェンリルが脚にかじりついたまま駆け回る。


 ワシらと人間が入り交じって殺し合う平原は、血の海に染まっていた。

 其処かしこで沸き起こっているのは、獣の雄叫び、そして人間の悲鳴じゃ。

 正面突破を敢行したワシらは、敵の軍勢と正面からぶつかり、押し返していった。


「盛況じゃのう。これぞ戦場じゃ」


 特に白兵こそ醍醐味。

 自らの手で獲物を狩るのは、本能に刻み込まれた魔族の本懐じゃ。

 できるなら全員連れてきてやりたかったが、魔人軍の一部が公国へ移動したため、ある程度の戦力を南本陣に残さざるを得なかった。

 いっそ手薄になったこの隙にあっちから襲撃してくれたら、あいつらも喜ぶだろうに。


 バルバリア帝国。

 開戦当初は強固な守りをどうしても崩せず、魔王様のご期待を裏切らせてくれた相手だが、どうにも慎重すぎてつまらぬ。


 とはいえ今は目の前の敵じゃ。

 こいつらの場合は、どうやら悪い意味で慎重になったようじゃなあ。


 現在交戦中のエルラーダとかいう国は、こちら側との国境沿いに平原を挟んで北、中央、南と要塞都市を築いていた。

 元々は最近ワシらの仲間になった国を仮想敵として建設されたのじゃろう。遥か遠くからでも高大な城壁が見てとれる。


 ワシらの最終攻略目標であるエルラーダの首都までは、さらに2つの要所を突破しなければならんが、その初戦にしては戦力が少なかった。

 見たところ5万もおらんのではないか。

 おそらく3ヵ所の要塞に戦力を分散させたのじゃろう。


「こっちに魔族の群れが集中しているぞ!」

「ほとんど全部か!? 全然予想と違うじゃねえか!」


 もしや、変に勘ぐってこちらを囮と思い違ったのか。

 中央を突破するために配下を集中させたのは、あちらも確認しているはずなんじゃがな。

 いかんのう。

 頭数ぐらい上回っておらねば勝ち目はないぞ。


「まあ、それならそれで暴れさせてもらうか」


 ワシが空に遠吠えをすると、さらに配下の攻勢が強くなる。


「シャシャーーーーッ!」

「げうっ!?」

「ガルアアアーー!」

「あがっ!」


 まずはキメラやガルムといった四足獣が先頭に立ち、兵の密集する中に突撃。

 傷を負うことも厭わず兵士の胴体をかみ砕く。


「オラアア、肉饅頭ニナレヤアア!」

「ひいいい! うげっ!」

「ギャオーーーッ!」

「おい戦列を乱すな――おげえっ!?」


 遅れてミノタウルスとオーガの集団が武器を叩き付ける。

 鎧を陥没させるほどの一撃を喰らい、奴らは次々に肉塊をまき散らした。


「何なんだ、この殺意の高さは!?」

「セレスティアの奴らは生かしてるのに! これじゃ降伏したって何されるか……!」

「エッ、降伏スンノ?」

「! 馬鹿言え! 誰が魔族に屈するか!」

「ジャア死ネ! 紛ラワシイコト言ウンジャネエ!」

「ぎゃひぃーっ!」

「聞いてたのと違う! 本気で殺しに来てるじゃねえかあっ!」


 そうじゃ、ワシらは本気で地上を獲るんじゃ。

 ワシの目の前で魔界を統一した魔王様のために、この身の動く限り戦い抜く。そして、この世界を捧げるんじゃ。


「力じゃ押し負ける! 弓兵を出せ、矢を放て!」


 おう。

 数が足りんかったら、その分、戦法を変えて補う。

 頭を使い臨機応変に戦えるのが人間じゃ。

 ちぃと判断が鈍いがのう。


「なんだ、地面が!?」


 魔獣軍の前線と弓兵部隊にはまだ距離があった。

 しかし、矢をつがえた兵士の背後に広がる地面が、ぼこりと音を立て、雑草を巻き込んだまま隆起する。

 まるで花が咲くように、裂けた顎を開いて姿を現したのはデスワーム。

 呆気にとられる弓兵の1人を頭から吞み込んで、波打つように地中へ潜る。

 それだけではない。


「ギイイイイイイッ!」


 奴の這い出した穴から無数のゴブリンが地下水のように湧き出しては、手近な兵士へと手当たり次第に襲いかかった。


「クソが、たかがゴブリンに……あぎゃあっ!」

「数が多すぎる! 早く立て直しを……!」


 いきなり隊列の中心に敵が出現し、奴らは混乱に陥っていた。

 その隙をワシらが逃すはずもない。

 視線を切った奴から順に魔物の餌になっていく。


「体を食わないでくれえっ!」

「ぶぐっ……! イヤだ、いやだあああ!」


 敵は総崩れを起こしていた。

 要塞都市の姿が見えるところまで軍を進ませたところで、城壁から空に魔法が放たれ、耳を裂くような音が響く。


「退却だ! 全員、都市まで戻れ!」


 指揮官の合図だったか、奴らは戦場から脱兎のごとく逃げ出した。

 追撃しつつ都市へと進軍するが、城壁から矢と攻撃魔法が飛んでくる。


「ウギッ!」

「グエッ!?」


 その間、数を減らしながらも、人間の兵士は要塞の門へ我先にと流れ込んでいった。

 分厚い城門が閉じようとしたところで魔狼が何体か侵入を試みるが、隙間から突き出された大槍の餌食になった。


「ふむ、立てこもりか」


 城壁や門を破壊するにはちと時間がかかる上に犠牲が大きいな。

 ここは、攻城用に考えとったあれでいくか。


「おい、サイクロプスとギガスを呼んでこい」

「モウ来テマス」


 陽光を遮るような巨体を持った2種族が前へ出る。

 どちらも移動は遅いが、我が軍でも1、2を争う力自慢じゃ。


「よし、やれ」


 ワシの指示で奴らは()()()()()()岩石を左右から抱える。

 そして、気合一閃。


「「ドルアアアアッッ」」


 呼吸を合わせ、空高くぶん投げた。

 弧を描いた岩は城壁を軽々と越え、門の内側へ着弾する。


「カタパルトか! だがその軌道では城壁は壊せん!」

「やはり魔族! 知能は馬鹿だな!」


 罵詈雑言が聞こえるが、サイクロプスたちは次々と岩を城壁の先へと放り込む。

 別にワシらは城壁を破壊するつもりはない。

 そんなことをせんでも、中から開けさせればいいんじゃからなあ。


「……!? なんだ、岩が動いた?」

「この岩、魔族だぞ!」


 気付いた時にはすでに遅い。

 投げ込んだのはロックゴーレムとストーントータスの群れ。

 岩石に擬態しとるが、立派な魔獣軍の尖兵じゃ。


「と、止めろーーーー!」


 間もなく行動に移った奴らが、兵士を蹴散らしつつ内側から開城にかかる。

 見た目通りの防御力を誇る2種の魔物は、妨害をものともせず閂を外してワシらを導いた。


「さて、続きじゃ」


 目の前に広がる城下町を、ワシらは縦横無尽に破壊していく。


「魔物が入りこんでる……!」

「兵士は何をやってるのよぉっ!」


 どうやら兵士でない人間もいるようじゃ。

 退避させておらんかったのか。

 もっとも戦えん奴らはどうでもいい。

 ワシらは目についた兵士を片っ端から潰していく。


「あっさり入られたぞ! 一旦退いて……あぎぃっ!?」

「嫌だ死にたくない! 逃げ……ぐぎゃあ!」


 敵に背を見せるな。

 それでも国を守る兵士か。


「むむ?」


 民家の中で何やら声が聞こえる。


「奥サァン。旦那ノ居ヌ間ニ、俺トシッポリシヨウゼェ!」

「いやああああ!」

「オ嬢チャン、俺トハーフオークヲ作ラネエカァ!?」

「誰か助けてぇっ!」


 むむむ。

 戦闘中だというのに鼻の下を伸ばした馬鹿がおる!


「何をやっとるかキサマらぁ!」


 ワシは壁をぶち破ると、人間の雌に飛び掛かる寸前だったゴブリンとオークの頭をひっつかんで強制的にこちらを向かせる。


「ヒィ!? バリオン様!」

「下半身丸出しで何をやっておる! 何度も教えたじゃろうが、“魔獣軍は紳士たれ”と!」


 子孫繁栄は戦時外でやれ。

 魔王軍が盛りのついた野獣の集まりだと噂されたらどうする。


「オ、オ許シクダサイ!」

「ホンノ出来心ダッタンデスゥ!」

「駄目じゃ! 死んで目を覚ませえい!」


 双方の頭蓋を握り潰して軍規を乱したけじめをつける。

 言ってわからん輩は叩いて教えるしかない。

 しつけの基本じゃ。


「まったく……ん?」

「ひ……ひ……」


 視線を移すと襲われそうになった人間の女が肩を寄せ合い震えておった。

 当然じゃが戦意のようなものは見られん。


「うちのはね返りとは、えらい違いじゃなあ」


 それからも我が軍の攻勢は続いた。

 すでに城壁の制圧も完了し、城からも煙が上がっておった。

 命令系統も崩壊したか、もはやまともに戦う兵士はおらぬ。

 軍を指揮する将軍なり領主がいるとしたらあそこじゃと、わしも城へ向かおうとしたその時。

 場内の厩舎から派手なマントと鎧を着た男。その周りを取り囲むように騎士たちが馬に跨り城を離れていくのが見えた。


 人間は、身分の違いを明確にするため衣服を着飾る生き物。

 おそらくはそれなりの者と見た。


「むんっ!」


 ワシは後ろ脚に力を込め瞬発すると、一同の前へ躍り出る。


「ひっ! し、獅子の化け物……!」

「おさがりください閣下!」


 数名の兵が身を挺してかばうとは、やはり上位の者だったか。


「どこへ行く。そっちには都市の反対側へ出る門しかないぞ」


 すると男は、感情を剥き出しにしてワシに叫んだ。


「き、き、キサマらが! キサマらのせいで私の領地が……あああ……!」

「なんと。ここがお主の縄張りか」

「閣下、お退きを!」

「やかましい! お前たちが役に立たないせいで撤退などする羽目に……!」


 気持ちはわかるぞ。

 ワシも縄張りを荒らす輩はこの手でぶちのめさんと気が済まん。

 じゃが、部下にまであたるのはよろしくないのう。


「1つ教えてやる。ここで暴れている魔族を率いているのはワシじゃ」

「!?」

「ワシを殺せば配下も動揺して、戦況を一変させられるかもしれんぞ」

「……! ……っ! おい、お前たち、奴の首を獲れ!」

「なっ!?」

「どのみち私の盾になるつもりだったんだろうが! やれ!」

「う……うわああーーっ!」


 4人の騎士が馬に跨ったままこちらへ槍を振り上げる。

 おう、その意気じゃあ。

 ワシは背中の大戦鎚を構え、咆哮一閃。


「ぬああーっ! “雷獣ノ戦嵐舞(サンダーメア)”!」


 雷撃とともに繰り出された範囲攻撃は、射程に入り込んだ敵を馬ごと灼き尽くした。

 後に残ったのは()()だけじゃ。


「さて――上に立つ者同士、一騎打ちといこうかのう」

「あ……あ……」



 □■□■



 殺した閣下の肉を頬張りながら、周囲を見渡す。

 城も占拠され部下が勝鬨をあげておる。

 どうやら大勢は決したようじゃ。

 腰を降ろしたワシは、溜め息を吐く。


「やはり威力が落ちたのう。まだまだ若いもんには負けたくないんじゃが」


 さっきの一撃。

 以前なら骨の髄まで焼けたもんじゃがなあ。

 ワシも衰えとるんじゃな。

 ……いつまで魔王様の幹部をやっとれるかのう。


(こんな風に考えるようになったのが、トシの証しなんじゃろうなあ)


 しかし休んではいられん。

 まだまだ敵を殺さねば。


「お前はまだ若いんじゃ。せいぜい魔王様のお役に立てよ。()()()


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