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03 最良の敵

「さて、そろそろだな」


 魔王城の一室。

 我が腰を下ろす玉座の前には、水晶のモニターがずらりと並んでいる。

 そこには精強なる我が魔王軍を上空から撮影した様子と、戦場となる都市や平原、そして遠方ではあるが整然と並ぶ敵兵の軍勢が映し出されていた。

 50羽に及ぶハーピィが空から映した光景を転送し、中継しているのだ。


「前線の敵は東も西も15ほど。援軍その他も踏まえたら総勢力は片側だけで30ってとこですか。想定通りですねー」


 玉座の背もたれで頬杖をつき、甘ったるい声音でディーネが口を開く。

 この設備を造ったのもこいつだ。

 例の水晶を改造したものだが、こういうアイテムはやはりスパイのあれに転用されているのではないかと思うと複雑だった。


「……ん? あれはグランバルトの旗か。もう援軍に回っているとはな」


 エルラーダの軍勢の中に幾つか異なる国旗を掲げた騎士団を見つける。

 その内の1つは人間側の国章で唯一記憶に残っているグランバルトのものだった。

 数はそこまで多くないようだが、連中だけは油断ならない相手だ。


「あー、たしか魔竜軍も押し留めたヤバい国なんですよね。バリオンたちに注意しときます?」

「いや構わん。助言も含めて手は出さない。好きにやらせると決めているからな」

「あらま。ほんとに出陣なさらないんですね」

「配下の活躍の場を奪うつもりはない。ここでゆっくり観戦させてもらう」


 今回の侵攻で我が行うのは、開戦と停戦の合図、その2つのみ。

 侵攻に関わる現場の指揮は五閃刃に一任している。

 これも部下の成長を促すため、勝利の喜びを自分たちの手で掴み取らせるためだ。


 もっともそれは、我が命ずるまでは戦い続けねばならないことも意味する。

 どんなに疲弊しようが劣勢だろうが、後退できるかは我次第ということ。

 しかしそれを聞いた配下は「中止命令が出なけりゃ地上を滅ぼすまで戦って良いことですね」と返してきた。

 今日までまともに戦えなかった分、やる気が漲っているのだろう。素晴らしい。


 ちなみに侵攻部隊の内訳は、東側エルラーダに魔獣軍6万と魔霊軍1万。

 西側オストワルドには魔竜軍3千があたる。


 圧倒的な寡戦。

 人間からすれば狂気の沙汰だろう。

 だがそもそも魔族個々の力は人間を遥かに凌駕する。

 数の差など大した指標ではない。


(第一、1人や2人屠った程度で満足する連中ではないからな)


 力こそが魔族の全てならば、己の存在意義を証明するのが戦場だ。

 思う存分暴れてもらう。


「でもサッちゃん大丈夫ですかね。またあっちこっちフラフラしないといいけど」

「またそれか……バリオンもいるのだ。打ち合わせもしていたし、大丈夫だろ」


 ライルたちが参戦するならいざ知らず、エルラーダやオストワルドに特筆すべき戦力はない。

 懸念があるとすればグランバルトからの増援と、戦闘の長期化だ。

 あまり長引かせては更なる援軍が到着して守りに入られてしまう。そうなったら侵略は失敗だ。

 なるべく早期に決着をつける必要がある。


「ただいま戻りました父上」

「ジュリオ。大公との交渉はどうだった」

「こちらの要求を全面的に受け入れ、すでに食糧施設の準備に着手しています。また、国内の反抗勢力の掃討にも腰を上げました」

「うむ。よくやった」

「物分かりの良い性格で助かりました。それと、これは大公から父上への陣中見舞いだそうです」

 

 ジュリオが手にした籠には、瑞々しい色合いのオレンジが並べられていた。

 陣中見舞い。

 たしか、勝利を願って差し入れする贈答品のようなものだったか。


「なら早速1つ。おお、美味いな」


 丸ごと口に放り込んで皮を噛み砕くと、果汁の甘みが口の中に広がる。

 さっぱりしていて食べやすいじゃないか。


「公国の特産品だそうです。ワインの原料にもなるそうですよ」

「あたしも1個いいですか。わっ、美味しっ。ねえこれ、海魔軍(ウチ)の子たちにも食べさせたいから上納させられない?」

「馬鹿言うな。あっちも食糧は大事なんだ。どうしてもというなら獲った魚と交換してやったらどうだ」

「それいいわね。魚介類ばっかじゃ飽きてたのよ。てことで、後で顔出して来てもいいですか?」

「ああ。無理強いはするなよ」


 海魔軍は外海の魚介類を捕食しているため、魔界からの補給物資を必要としていない。

 陸での戦闘はどうしても他の軍団に劣るが、代わりに水中では無類の強さを誇る。

 使いどころを見極めればこの上ない優位性をもたらしてくれる優良軍団なのだ。


(食糧を備蓄させるだけで良かったが、余裕があればこちらの食物を揃えるのも悪くないか)


 その場合はディーネがやろうとしているように物々交換が良いだろう。

 魔族が経済活動するわけにもいかないからな。

 後で人間の口に合いそうな魔界の食材を調べておくとするか。


「父上、バリオンたちが動きました」

「始まったか」


 大型水晶に、陽光の降り注ぐ平原へと侵攻を開始した魔獣軍の様子が映る。

 西側でもゼスティガ率いる魔竜軍が動いたようだ。


 特筆すべきところは無いと言ったが、両国とも敵としては最高の相手だ。

 何故なら、宣戦布告をしたうちの使者を生首にして返して来た。 

 これは「一切容赦しなくていいから死ぬまでやろう」という意思表示に他ならない。


 だがそれはそれとして、これが実質的に仕切り直し後の初戦だ。

 あいつらには頑張ってもらわねば。


 ――ちゃんと勝利を手に戻って来いよ。


 こうして我が魔王軍の『2ヶ国同時侵攻戦』が幕を開けた。


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