04 勇者5人 ※ライル視点
第1話と名前の違う人物がいるかと思われますが、理由は後ほど明らかになります。
「予定だと5日くらいで現地にたどり着くはずだよ」
「ったく、馬が使えりゃいいのにな」
「仕方ないわよ。隠密任務だもの」
「たまには良い運動になりますよ」
グランバルト王国領ローラン大森林区。
おれことライル・ラクロア・グランバルトがリーダーを務める勇者パーティーは、鬱蒼と茂る森の中を歩いていた。
目的は、魔王軍が拠点を敷いた東海岸の偵察だ。
おれの兄であるグランバルト王国の統治者、ランフォード陛下直々のご命令だった。
「ライルの兄ちゃんも人使いが荒いぜ。急に呼び出したと思ったら『魔王軍の戦力を把握したいから見て来て欲しい』だもんな」
分厚い甲冑に身を包むがっしりした体格の青年が不満を口にする。
彼の名前はバクト。
歳は俺と同じ18歳。バルバリア出身の元傭兵で、【地】の加護を与えられた勇者の1人。
パーティーでは敵の攻撃を一手に引き受ける重戦士だ。
「敵の戦力が判明しなきゃ、軍をどのくらい準備したらいいかわからないんだから仕方ないでしょ。あといくらなんでも陛下にちゃん付けは不敬でしょ。ライル、しっかり注意しなさいよ」
黒を基調としたローブに身を包む女の子が、溜め息交じりに釘を刺す。
ウェーブのかかった茶髪に赤みを帯びた双眸をした彼女の名はヘレン。
【水】の加護を授かった勇者であり、テレーザの魔術師学園で次席を務めるほどの優秀な魔術師だ。
「兄上は優しいから大丈夫だよ。任務を与えてくれたのも、それだけ評価してくれてるってことだしね」
「だそうだ。うし、帰ったら報酬に上等なワインでも貰おうぜ!」
「余計調子に乗らせてどうするのよ……ポーラ、あなたからも言ってあげて」
すると、風に溶けてしまいそうな可憐な声音が響く。
「まあまあ。実際お優しい御方ですから。たまには無礼講も良いのではないでしょうか」
透き通るような白い肌に金糸のような長い髪、伸びた睫毛の中心で揺れる宝石のような碧眼。
彼女も勇者の1人でイリジアナ教の神官ポーラ。
【光】の加護を与えられ、回復と補助魔法を担当する支援職を務めている。
「それに私たちはもう、任務に支障をきたすかもしれない行動をしていますから」
「……それって、あの村人たちを助けちゃったこと?」
魔王軍本陣へと向かう途中、おれたちは魔王軍に村を奪われたという避難民の一団と遭遇した。
王国に助けを求めに行く途中だと聞いたおれたちは、すぐに占領下にあった村へ直行。正面から魔物たちへ戦いを挑んだ。
拠点としてあまり重要視されていなかったのか敵の数は少なく、その日のうちに討伐は完了。
村人たちは無事、元の生活を取り戻したのだった。
「はい。村が奪還されたことで魔王軍が警戒を強めるかもしれません。万全を期さなかったという意味では、私たちも不敬を働いたことになるかと」
「けどよぉ、住む場所を奪われた人たちを放っておけねえだろ」
「だね。ヘレンもゆるせないって言ってたもんね」
「だって、自分の家が1番に決まってるじゃない」
「ふふっ。ですので、私たちの性格を把握できていなかった陛下も含めて不敬、ということで」
「はははっ! そうだな、陛下だって悪いぜ!」
「何よそれ。はぁ、もういいわよ」
呆れたように溜め息を吐くヘレンだったけど、気を悪くした様子はなかった。
ありがとうの意味を込めてこっそりポーラに目配せすると、愛らしくウインクしてくる。
胸がどきりとした。
綺麗だなあ。
こんなに素敵な子が“婚約者”だなんて、夢みたいだ。
おれとポーラの婚約が決まったのは、10年も前になる。
聖魔国で代々から教皇を輩出してきたポーラの家と、グランバルト王家との関係を深めるための政略的な意味合いはあったけど、おれは可憐で愛くるしい彼女を一目で好きになった。
そして5年前に判明した衝撃の事実。
まさか、彼女も勇者の1人だったなんて。
これが運命でなくて何なのだろう。
「ぼーっとしてどうしたの、リーダー」
突如、耳元で響く声。
「うわっ! なんだリーシャか。驚かさないでよ」
そちらを振り向けば、怜悧な印象の瞳でこちらを見据えるアッシュブロンドの髪のエルフが立っていた。
特徴的な長耳と、人形のように色の白い肌を持つ浮世離れした風貌の女の子で、名前はリーシャ。
勇者パーティー唯一のエルフであり、【風】の加護を授かったアーチャー兼スカウト職だ。
口数は少ないけど常に冷静、彼女の索敵技術と遠距離からの射的能力にはいつも助けられている。
「周囲を偵察してきたけど、付近に魔物の影は無かったわ」
「そっか、ありがとう」
「それと王国からの定時連絡も受け取った。魔王がセレスティアに姿を現したって」
「なっ!?」
魔王ギルバース。
突如として地上に姿を現し、侵略戦争を開始した魔族の長。
奴のことは王族会議で対峙した兄上から聞いている。
曰く、邪悪の権化にして傲慢の体現者だった、と。
勇者パーティーの指命は魔王軍を追い払って平和を取り戻すことだ。
そのために女神様は、加護を授けてくれたのだから。
「なら帰ったほうがいいのかな。東じゃ逆方向だし」
魔王さえどうにかすれば、配下の魔族は司令塔を失って崩壊するはず。
民の被害も少なくて済む。
ここは一旦戻って指示を仰ぐべきかもしれない。
「まだ情報が錯綜しているみたい。ひとまず任務を優先して欲しいって」
「じゃあ早く終わらせて王都へ戻ろう」
「おう。事実なら好都合だぜ。女神の加護でパワーアップしたオレたちの力を思い知らせてやる!」
「旅に出てから絶好調だもの。きっと魔王だってアタシたちの敵じゃないわ!」
「皆さん、頑張りましょう!」
おれたちの心は1つだ。
絶対に魔王を追い払って――
「いい度胸だ。そうでなくてはな」
その時。
今までに感じたこともない重苦しい重圧が、木々の間を駆け抜けた。
吹き荒れる殺気とどす黒い瘴気の只中で、そいつは悠然とおれたちを見据えていた。
「な……ウソだろ、おい」
「冗談でしょ……!」
おれの中の何かがざわつく。
まるで、その男を倒すべき敵だと促すように。
皆も同じだったのだろう。
「驚いてどうした。我と戦いたかったのだろう? この魔王ギルバースと」
悪意の塊。
暗黒の体現者。
世界を混乱に陥れた元凶――魔王が、威容と共に佇んでいた。




