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 吊革を持つ右手に体重をかけながら睡魔と格闘していると、川田から連絡が入った。デバイスの通知で弾かれたように目が覚め、矢島はすぐにメールを開いた。

『もしかしたらその家族の一人、知ってるかもしれない』というメッセージとともに、ある記事のリンクが添付されていた。URLを開いてみると、その記事の冒頭にあったのは最初に声を掛けた男性の写真だった。半年前の記事のようだった。


『あるポリアモリーの家族のかたち』

「昨今話題になっているポリアモリー婚の法制化。実現に向けて、現在周辺の法律やシステムがどんどん変更されている。しかし、ポリアモリーという言葉がテレビで頻繁に流れる前から、ポリアモリーのような生活を実践している、ある家族がいる。LGBTQ、ポリアモリー界隈では名の知れている、その家の最年長者であるSさんに、今回インタビューを行った。……」


 なるほど、もうすでに似たようなインタビューを受けていたことがあったのか。仮に自分がインタビューに成功しても、自分の発信する内容は真新しいものではないということに、少し落胆した。

「ありがとう。まさしくこの人! でも、何で知ってるの?」

 矢島はすかさず川田に返事を送った。すると、すぐに川田からも返事が返ってきた。

『ゲイコミュニティって意外と狭いから』

「てことは、この人ゲイなの?」

『ゲイじゃなくてバイセクシュアルらしい。イベントでちょっと見かけたこともあるけど、界隈によく顔を出す割にはガツガツ出会いを求めてるというよりは俯瞰で周りを見てる感じで、不思議な雰囲気だった。そういえば、最近この人来なくなったな。一年以上は見てない』

「連絡先分かる?」

『SNSのアカウントなら知ってる』という川田からのメッセージと共に、SNSのアカウント名を教えてもらった。

 その男性のSNSのトップページを見に行った。個人や場所は極力特定できないようになっているものの、投稿には家族の日々の暮らしが掲載され、まめに更新されているようだった。最新の内容はパレードに参加した内容で『パートナーたちや子どもたちと、正式に家族として参加できたことを嬉しく思います。 #TRP』と、ついさっき更新されていた。

 SNSまで辿って連絡したら、粘着質で気持ち悪いと思われるかもしれない。でもこのチャンスを逃したらもう何もないかもしれないと、矢島はSNSのダイレクトメッセージでやや長めの内容を送った。


「突然のDMを失礼します。フリーの記者をしております、矢島と申します。本日の東京レインボープライドでお声がけさせてもらった者です。本日、私と一緒にパレードに参加した知人のゲイが、コミュニティであなた様を間接的に知っており、このアカウントに辿り着きました。

 以前も、ポリアモリーをテーマに取材を受けた経験があったのですね。記事を拝読しました。

 また、あの場では、興味本位でお声がけしたと申して不快な気分にさせてしまい、大変申し訳ありませんでした。

 改めて、実際にポリアモリーとして長年複数のパートナーや家族と生活し、法的な関係を結んでおられる皆さんを取材させていただければと考えております。何卒ご検討のほど、よろしくお願いいたします。

 矢島琴」


 送信ボタンをタップするのに少し時間がかかった。

 家に着いて、座ったり立ったりとそわそわしていると、送ってから一時間もしないうちに男性から返事が来た。両手でしっかりデバイスを握ってメールを開いた。


『こんばんは。佐久間茂です。

 取材の件については、現在は家族全員から了承を得ないといけないので、今すぐ回答できません。

 ですが、我が家は東京から一時間半ほどなので、もしよかったらウチに来ていただいて一度話しませんか。メッセージの申し込みだけだったら家族の大半は取材に反対するでしょうけど、顔を見れば人となりが分かりますし、家族も前向きに考えられるかもしれません。

 最寄りは袖ケ浦です。駅まで来られたら車で迎えに行きます。

 佐久間』


 一も二もなく、矢島はこの話に乗ることにし、震える手を押さえながら返信を打ち込んだ。

 初回の訪問日は、次の土曜日となった。

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