表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/28

4

 他のグループもしばらく観察してから、矢島は川田と合流した。川田は、パートナーの島崎快人と一緒に「セクシュアリティをオープンにして生活したい」と書かれたうちわと、レインボーの旗を一つずつ持ってフロートの列に並んでいた。

「どうだった?」

 川田は矢島に聞きながら、自分の持っているものと同じ旗とうちわを矢島に渡した。うちわは顔よりも大きく、アイドルのコンサートにファンが持っていくような目立つ蛍光色をしていた。

「うん、年齢差のある大家族っぽい人たちを見かけた。大人が多めだったけど。そしたら案の定ポリアモリーだった。けど、話を聞こうとしたら追い払われちゃった」

「家族やセクシュアリティのことをあまり人に話したくない人は、今も結構いるからね。プライベートなことだし、マジョリティは普通話さないことでしょ。俺みたいに超オープンにしてる方が珍しいと思うよ」

「確かに」川田に指摘されて家族構成についてずけずけと聞いたことを矢島は反省した。「ていうか、さっきのパレードの件といい、やっぱり川田くんって結構LGBTQに詳しいよね。当事者ってみんなそんなもんなの?」

「まさか」少し笑いながら川田は手を横に振った。「俺は、大学でゲイコミュニティを研究するゼミに入ってたから、その過程でゲイ以外のこともちょこちょこ調べたりして、少し知ってるだけ。みんながみんなLGBTQに詳しかったり活動家みたいなことしてるわけじゃない」

「そうなんだ」矢島は「ポリアモリーの一家」とだけ書かれたメモを眺めた。「あの家族からなんか話を聞ければ面白いことが書けそうだったんだけどなー。直観だけどね」

「あのさ」少し間を置いて川田が矢島に真面目な面持ちで言った。「多分その家族から邪険にされたのは『面白そうなことを書きたい』ってのが、矢島から透けて見えたからだと思うよ。興味本位の冷やかしじゃないのは、同期だからよく分かってるけど」

「え?」

「これは褒めてるんだけど」少々真面目なトーンを緩めた。「今日久々に会ったときは『スランプ中です』って顔に書いてあったくらい、記者として調子悪そうだった。でも、今の矢島は『私のやるべきことを見つけた!』っていきいきして見えるんだよね。ずっと一緒に働いてたし、そのくらいは分かる」

 そんなに自分の内面が分かりやすく出ていたのか、とまた反省した。会社員時代は、態度でわかりやすくなっているときには度々周りが指摘してくれたが、フリーランスになってからそういった機会はほとんどなくなっていた。

「でも」川田は真面目な調子に戻し、「そういうのも、その家族にとっては不安要素だったのかも。ガツガツこられたら、相手は引くもんだし。一般の人なら尚更。まずは相手に認めてもらうところから。記者の基本から見直した方がいいよ」と釘を刺した。

「反省した。ありがとう」メモを鞄にしまって、旗とうちわをそれぞれ手に持った。「まずは、パレードを楽しむことにする。そしたら、少しは考え方変わるかもしれないし」


 パレードは思いのほか楽しかった、と矢島は帰途で思い返していた。

 歩道にいる人々から次々と「ハッピープライド!」と声を掛けられハイタッチする度に、当事者でなくとも幸せな気分になった。春とはいえ日差しが強く、湿度は低いものの暑く感じられ、慣れない場所に出向いたので疲れは感じでいた。でも、心地よい疲労だ、と電車のつり革を握りながら少し微笑んだ。自分が思っているより疲れているのか、立ちながら寝られそうなくらいだった。

 一方で、パレードの前に話しかけた家族のことを忘れられずにいた。どうにかしてあの家族とコンタクトを取り、あわよくば、いや絶対に取材したい。ポリアモリー自体に世間の関心が集まっているし、自分自身も引っかかっているものが動きそうな気がする。しかし、セクシュアルマイノリティ界隈とのコネは、川田を除けばないに等しかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ