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 佐久間から矢島に返信が来たのは、丸一日経った月曜日の夜だった。訪問したその日のうちに矢島は思いの丈を長々と綴ってメールを送っていた。日曜日のうちには何のレスポンスも来ず、もう一通メールを送った方がいいのか、それはしつこすぎるかなど、悶々と過ごしていた頃だった。


『矢島さん

お世話になっています。

あの後家族と話し合いましたが、結論から言うと取材の件を前向きに検討したいので、お手数ですがもう一度我が家にお越しいただきたく。

その際は、前回はお目にかかれなかった信哉くんにも会えるかと思います。

 佐久間』


***


 湿気を感じつつもひんやりした空気を感じる六月初めの週末、矢島は再び袖ケ浦駅南口に降り立っていた。程なくして以前とは異なる、赤い軽自動車がロータリーにつけた。

 陽菜が助手席の窓を開けて「お久しぶりですー」と挨拶してきた。

「お久しぶりです。あの、運転席の方は、江口信哉さんですかね」

「はい、江口です。お世話になってます」

 江口信哉は陽菜や結衣と歳が近いと聞いていたが、運転席に座る男性は思ったより若く見え、想像より小柄だった。座っているので正確な背格好までは分からないが、小柄な陽菜と大差なさそうに感じられた。それに、子どもである駿一はぱっちり二重だが、信哉は切れ長の一重など、顔もあまり似ていないように思えた。若く見えるのは、商社マンだから見た目にも気を遣っているのだろうか。

「こちらこそお世話になります。またお迎えいただいてすみません」

「いえ。それに俺は迎えに行くの初めてですし。後ろ乗ってください」

 矢島は、絶対取材を成功させてやると心に強く誓いながら、後部座席のドアを開けた。


 家に着いてリビングに通されると、東京レインボープライドで見かけた女性がパジャマ姿でブランチを取っているところだった。

「え? 信哉さんと陽菜ちゃんいないなって思ってたけど、もうライターさん来るとか聞いてないんだけど」女性は矢島の姿を視認すると、慌てた様子で食べていたものと一緒に奥に引き下がろうとした。

「凛子、あんまりこういうこと言いたくないけど、挨拶もしないでその態度はどうかと思うよ」ソファに座った佐久間が凛子と呼ばれる女性をたしなめた。

「だってそもそも、ウチ、インタビューあんまり受けたくないって言ったじゃん」

「家族会議で決まったんだから」

 どうやらインタビューを受けるにあたって話し合いが行われたようだ。矢島は緊張した。そのことについては一切知らされていなかった。

「……谷凛子です。東京レインボープライドで一回お会いしてますけど。父が佐久間茂です。よろしくお願いします」谷は矢島を睨みながら挨拶し、「じゃ、ちょっと失礼」と食器を持ってそのまま階段の方に向かった。

「どこ行くの」佐久間が階段を上がる谷に声を掛けた。

「ご飯上で食べて、支度したらそっち行くからー」谷はドタドタと足音を立てて二階へ上がっていった。

「今日は早めに起きろと言ったんですがね、すみません」こめかみを掻いて顔をしかめながら佐久間が矢島のところにやってきた。

「いえ、貴重な休日にお邪魔してるんで、大丈夫ですよ。それよりも、お忙しいところ日程を調整いただいて、ありがとうございます」

「いえいえ」

 佐久間の機嫌は、今日は特に問題ないように矢島の目には映った。

「今日は結衣さんはいません。ツアーのサポートメンバーで、今月からしばらく週末は日本中回るので」

「大変ですね」

「まあ、本人も陽菜さんも慣れてますから。さ、始めましょう」


「まずは、俺の話からですかね」ソファを中心に各々が好きに腰を下ろしたところで、信哉が口火を切った。今日集まったメンバーは全員大人で、佐久間、道鬼陽菜、江口信哉、谷凛子だった。谷は洗面所にいるようで、耳を澄ますと水の流れる音が聞こえた。

「お願いします」矢島はペンを握り直して、ボイスレコーダーのスイッチを押した。

「と言っても、大体はもう前に話聞いてるんでしょうけど……亜紀って上の子と、駿一って下の子を連れて茂さんと暮らし始めたのが六年前で、その一年後に正式に結婚しました。茂さんは前の上司で……」と言いながら、信哉はちらっと佐久間の方を見た。佐久間は信哉の話より谷の様子を気にしているようで、信哉からの視線に気付いていなかった。

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