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06 意識してもらう方法

「どうしたら七斗様は私のことを好きになってくれるかしら?」

「お二人はとてもいい雰囲気でしたから、勇者様がマイア様のことを愛しく思うのも時間の問題だと思いますよ」

「そうかしら? でも過信は禁物だわ。七斗様からははっきり断られているんですもの」

「結婚は恋愛の延長にあるものだと思われているようでしたから、まずは恋人になることを目指されてはいかがですか?」

「やっぱりそうよね。私もそう思っているの」


 マイアは王族なので、誰の元に嫁ぐかわからなかった。そういった理由もあり今まで恋人などいるわけもない。だから、そんな関係には憧れがある。


 従妹にあたる公爵家の令嬢たちは幼い頃から婚約者が決められていたこともあり、その相手とお互いの家を行き来したり、二人で出掛けたりしていた。仲睦まじい話を聞いては、羨ましいと常々思っていたところだ。


「恋人になるにはどうしたらいいの?」


 上流の王侯貴族はたいてい親が結婚相手を決める。だから自分で相手を見つけることもないし、誰かを振り向かせる必要もなかった。


 好きな人が出来たとして、近づきすぎたら傷つくのは自分自身だったから、火遊びとして割り切れる者以外は、決められた相手と愛を育むことにその努力を使う。


「マイア様の存在を誰よりも気に掛けてもらえるようなアピールは必要だと思います」

「自分から声を掛けたり、できればどこかにお誘いしたりとかが良いのではないでしょか。待っているばかりでは何も進展しませんから」

「相手が受け取りやすいプレゼントなどはいかがですか」

「恥ずかしくても自分の好意や気持ちは隠さない方がいいと思います。殿方には、察してほしいと思っていることがほとんど伝わりません」

「逆に嫌っているのだと勘違いされてしまうこともございますから」


 マイア付きの侍女たちは伯爵以下の次女、三女が多い。

 彼女たちの場合は、家の事情か、本人の希望で一生侍女として王宮で働く者が多く、結婚はそれが許される相手でなければ困る。

 そのため、結婚を希望している侍女は、ほとんどが自分たちと同じように、王宮で官吏や衛兵、近衛騎士として仕えている者から選ぶことになる。

 だから、条件がよかったり、人気が高い相手は競争率が激しいため、それなりの努力が必要だった。


「みんな詳しいのね。心強いわ」

「それはそうと、マイア様は勇者様のことをどう思われているのですか?」

「そうでした。義務感だけで無理することはございませんよ」

「皆さんは盛り上がっていますけど、恋愛はお相手の方次第です。必ずしもうまくいくものではありませんから、マイア様が傷つくことになる可能性を考えると私はあまり賛成できません」


 侍女たちも、マイアがだめなら他の令嬢が七斗の結婚相手として候補に挙がることもわかっていた。

 好きでもない相手を堕とすために、マイアが必死になる必要はないと思っている。


「異性として好きかと聞かれたら、それはまだわからないけれど。好きになれそうな気はするわ。話をしてみて嫌だとは思わなかったもの」

「そうですか」

「優しそうな方だし、好ましいと言われてとても嬉しかったの。それと、失恋という意味で心配しているのなら、すでに一度断られているのですもの、だめでもともとだと思っているから大丈夫よ」

「でしたらよいのですが」


 一度目の縁談は、初対面ですぐに嫌悪されて話はほとんどできなかった。

 二度目の相手は会ったことすらない。結婚相手としてまともに意識したのは七斗が初めてだった。

 今はまだ恋愛感情はなくても、マイアは彼のことばかり考えている。


「これが存在を気に掛けるということなのね。私もそうなれるように頑張るわ」

「では、勇者様の予定はすべて確認してまいります」

「私は勇者様つきの侍従や侍女たちから情報をもらってきます」

「男性へのプレゼントで、何が喜ばれるか調べてみます」


 七斗が退出したマイアの部屋では、このように彼を振り向かせるための相談がされていた。


  ◇


 次の日。


 七斗はまたも、本当の理由が言えず、曖昧な説明をしたために、マイアたちに押せばどうにかなりそうだと誤解されていることに気がついていない。


「お姫様って意外と暇なんだな……」


 七斗は大聖堂の壁画を見ながら、ボソッとつぶやいた。


「何かおっしゃいましたか?」

「いえ、なんでもありません」


 隣にいたマイアは、七斗の言葉が聞き取れず質問をする。二人のそばには少し距離を置いたところにマイアつきの侍女が二人。そして七斗の世話係としてつけられた騎士がいる。


 七斗の心を掴もうと付きまといを開始したマイア。暇な時間ができれば、彼のもとに向かっていた。

 侍女たちと話し合って、まずは存在感をアピールすることに決めたからだ。


 そんなマイアの努力も、残念なことに七斗には伝わってはいない。偽装婚約を持ち掛けられていたので、それでそばに居るだけだろうと思われていた。


「それでも、ちゃんと説明しておかないとまずいよな……」


 自分の意思とは関係なく異世界に転移して消えるかもしれないなんて、信じてもらえるわけない。

 しかし、何も言わずに突然いなくなったら、逃げ出したと思われるだろう。


 婚約者であるマイアを置いてとなれば、彼女の評判をおとすことになり、またもや傷つけることになる。

 ショックで倒れた前例があるし、マイアの立場が、そういった意味で気になって仕方がない。


 そんなことを思われているとは知らずに、マイアは七斗に好きになってもらうための作戦を侍女たちと練っていたのだった。


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