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04 勇者の気持ち

「伴侶を選ぶことは大事なことだと思います。一生のことですもの。ですからあなたが嫌だとおっしゃるのに無理強いをするわけにもいきません。それでも王女の立場としては受け入れていただきたかったですわ」


 七斗にはそれが不思議だった。


 貴族たちは心を殺して思ってもないことを言うし、そういった表情をつくるからだ。王宮へ来てからそれほど時間はたっていないが、笑顔なのに目が笑っていない人たちばかりだと思っていた。


「そのことですが、姫様は僕との婚約に異議はなかったのですか? 言い方が悪くて怒られるかもしれませんが、討伐の報酬として物のように扱われてるのに」


 それは王族として生まれた者にとっては重要な役目でもあるからだ。そのために誰よりも贅沢な暮らしを与えられている。


「王女として生まれたのですもの。それは当たり前のことですわ」


 好きとか嫌いとか、そんなことは関係なかった。国のための政略結婚は何もマイアだけが強制されているものではない。

 貴族家の令嬢たちも立場は同じだ。マイアの代わりに南の島に嫁いでいった娘もいる。

 物語のような恋は、本当に夢見るだけなのだ。


「私は納得していても、七斗様にとっては失礼な話ですよね。好きでもない私を押し付けられたのですもの。本当にごめんなさい」

「姫様のせいではありませんから謝ったりしないでください」 


 申し訳なさそうなマイアの姿を見て、七斗は焦る。


「僕には貴族の考え方がわからないんです。それは育った環境や価値観が姫様とは違いすぎるからで、本音を言えば、一緒になったところで、僕が幸せにできると思えませんし、夫婦としてやっていける自信もありません」

「そうですか……」

「そもそも、好きでもない人と結婚するって言うのがどうしてもピンとこないんです。政略結婚って場合によっては必要なことかも知れませんけど、もうそこから考え方が合わないって言うか……」

「好きでもない……それは、やっぱり私の顔を見てかっがりされたと言うことでしょうか?」

「え? 顔? なんで?」


 突然しゅんとするマイアに戸惑う七斗。


「姫様はこんなに可愛らしいのに、がっかりなんてするわけないじゃないですか」

「え?」

「見た目だけでいえばドストライクですよ。だけど、感覚的に言えばアイドルを遠くから見てる感じなんですよね。いくら可愛くても、話しどころか、挨拶程度で、ちらっと顔を合わせただけの人なわけで。付き合うこともなく、いきなり結婚するなんて僕にとってはあり得ない話ですから」


 どうやら七斗には理想の結婚像というものがあって、国が提示したマイアとの縁談がそれに合致していなかったようだ。


「あの、ドストライクとは? あと、アイドル?」

「えー、それ聞き返します?」

「はい。意味がわからないので」

「えっと……ドストライクは、好感度が高いというか、すごく好ましいということです。アイドルは手が届かない場所にいる憧れの人って感じかな」


 視線を逸らしながらそう告げた七斗の顔は、真っ赤に染まっていた。言っていることは嘘ではないらしい。


「そんなこと言われたの初めてです」


 王女という身分をとってしまえばアイラには何も残らない。彼女に対して、今まで好ましいとか、憧れとか、異性からそんな言葉が出る時は、明らかに口先だけのご機嫌取りでしかなかった。とマイアは思っている。


「ありがとうございます」


 とても嬉しそうに微笑んだマイア。それを見た七斗も、今度はちゃんと笑っているなと思っていた。


 容姿に自信がない彼女が、面と向かって可愛いや好ましいと褒められたのだ。しかも、どうやらそれはお世辞でもないようだから、喜ぶなと言う方が無理だろう。


 七斗の顔ははっきりした顔立ちではない。それでも、醜男と言うわけでもないのだが、この国ではもてはやされるタイプではなかった。しかし、系統が似ているマイアには親しみが持てた。

 

 それに、彼にとってはマイア唯一の武器である王女という身分が邪魔らしいので、わざわざお世辞を言う必要がないはずだ。

 だからこそ、今言った言葉が本音である。そうマイアには思えたのだ。


「話してみて思ったんですけど、姫様は本当におしとやかで、これぞ深窓のお姫様って感じだし、僕の生まれ故郷だったらすごくもてると思うんですよね」


 マイアのことを、初めはプライドが高くて、傲慢な王女だと思っていた七斗。

 日本にいた頃も国を動かすような偉い人になど会ったことがなかった。だから、彼は部屋に入ってからも、機嫌を損ねないかと、びくびくしていたのだ。


 しかし、マイアは七斗を見下したりなどせず、思いの外、話しやすかった。


 容姿も、マイアは濃い茶色の髪と瞳をしているので日本人に近い。それでも顔は欧米人とのハーフっぽい感じなので、ファッション雑誌のモデルみたいだなと七斗は思っていた。


「そうでしょうか。この大陸で私がもてる国があるとは思えませんが」

「この世界って彫りが深い人達が多いですもんね。でも姫様がもてないわけないと思うんだけどな。こんなに可愛いんだから」


 今度はマイアの頬がうっすらと赤みがさす。七斗が何度も可愛いと言うから、慣れていなくて照れてしまったのだ。


(それでも、好きになってはくれないのよね……それに、ナナト様ってとても不思議な方だわ)


 マイアは七斗と初めて言葉を交わしてから、自分の予想と違ったことに少しだけ驚いていた。田舎の村からやって来たはずなのに、言葉遣いや態度が丁寧で紳士的だったからだ。


 七斗については事前の情報があまりにも少なかった。グリフォンを倒してから、王宮に連れてこられるまでが早急すぎて、彼の過去や性格まで把握している者がまったくいない。


 彼が住んでいた村人たちにも調査したが、数ヶ月前にふらっと現れて、どこから来たのか、グリフォンを狩れるほどの力をなぜ持っているのかはわからないという。


 七斗自身に聞いても過去については黙っていて口を割らなかった。

 それは仕方がないだろう。異世界から転移してきたなんて、言ったところでそんな話を誰が信じるというのか。

 迂闊なことを言って、今以上に警戒されたくなかったからだ。


「七斗様は私のことを嫌っているわけではないのですよね」

「まあ、はい。そうですね」

「でしたら、私とのことを考え直してはいただけないでしょうか? これからたくさんお話をして、お互いのことをわかりあえれば結婚相手として好きになれる可能性もありませんか」


 可愛いと思っている女の子から、いきなりの求婚。

 嬉しくないわけではなかったが、この時七斗の答えは決まっていた。


「申し訳ありませんが、それはできません」


 それを聞いたマイアは、今度こそ受け入れてもらえるかもしれないと思っていたので、意気消沈して肩を落とした。


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